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バイオ系研究所で働くテクニシャン(技術員)でありながら漫画家として活躍するAyaneさんによる「ラボりだな日々」(※ラボりだ…ラボから離脱すること。ラボから帰ることの意を持つ造語)。
第32回のテーマは「目に見える安心感」です。





こんにちは!
ラボりだな日々、第 32 回のテーマは「目に見える安心感」です。
今回の漫画では、微量な DNA を扱う日々の実験の中でふと芽生える「見えない不安」と、たまに大量のサンプルを扱ったときに得られる「目に見える安心感」が描かれています。
透明な液体が入った小さなチューブを見つめながら、「ほんまにこの中に入ってるんよな?」と不安になるAyane。普段扱っている DNA は、基本的には肉眼では見えません。しかし、グラフのピークや電気泳動のバンド、あるいは大量に扱ったときに見えるペレット(沈殿物)としてその存在を確認できたとき、ようやく「おったわ!」と安心できるのです。
バイオ系の研究現場にいる方なら、きっと一度は経験したことのある感覚ではないでしょうか。
DNA は、生き物の遺伝情報を担う物質です。分子生物学の実験では、プラスミドDNA、PCR産物、ゲノムDNA など、さまざまな形で日常的に扱われます。
しかし、チューブの中に入っている DNA そのものは、多くの場合、肉眼では確認できません。透明な液体の中に溶けているため、見た目だけでは「本当にあるのか」「量は十分なのか」「壊れていないのか」を判断することはできないのです。
毎日マイクロピペットを握り、数マイクロリットルというごくわずかな透明な液体をチューブからチューブへ移す作業は、ともすれば「ただの液体を移し替えているだけ」のようにも見えます。
もちろん、実験者は手順や理論を理解したうえで操作しています。けれど、実験結果が出るまでの間、「本当にちゃんと抽出できているのか?」「どこかでミスをしていないか?」という不安がつきまとうことがあります。
見えないものを相手に作業を進めるということは、自分自身の技術と記録、そして理論を信じるしかない、少し孤独でプレッシャーのかかる時間なのです。
そこで登場するのが、濃度測定やアガロースゲル電気泳動などによる確認です。
DNA は、電気をかけるとゲルの中を移動します。大きな DNA 断片はゆっくり、小さな DNA 断片は速く移動するため、サイズごとに分かれたバンドとして確認できます。
また、装置で測定すれば、DNA の濃度や純度が数値やグラフとして表示されます。DNA そのものを直接見ているというより、「ここに DNA がある」とわかる形に変換して見ているのです。
漫画のように、グラフのピークやバンドとして DNA の存在が確認できた瞬間、「ほんまにおったわ!」と叫びたくなる気持ちは、とてもよくわかります。
そこに存在しているはず。でも、見えない。
それが見える形で確認できたとき、ようやく少し心が落ち着くのです。
一方で、DNA はいつでも完全に見えないわけではありません。
大量に沈殿させた DNA は、白っぽい沈殿や糸状の塊として肉眼で見えることがあります。エタノール沈殿などで、ふわっとした白いものが見えた経験がある方もいるかもしれません。
普段の分子生物学実験で扱う DNA 量は微量なことが多いため、通常は目視で存在を確認することはできません。
だからこそ、たまに大量の DNA を扱い、それがはっきりと目に見える塊として現れたときの安心感は格別です。
「あぁ、ちゃんとそこにいたんだね」
目に見えないものを扱うからこそ、バイオ系の実験では確認作業がとても重要です。
サンプル名を正しく書く。
チューブの位置を記録する。
濃度や純度を測定する。
必要に応じて電気泳動でサイズを確認する、シークエンスを読む。
操作の途中で取り違えが起きないようにする。
こうした一つひとつの作業は、目に見えない不安を減らすためのものでもあります。
「たぶん入っているはず」ではなく、「この記録とこの結果から、入っていると判断できる」。
そう言えるようにしておくことが、次の実験の信頼性につながります。
実はこの心理は、研究室の中だけでなく、私たちの日常生活にも広く当てはまります。
たとえば、誰かに対する思いやりや感謝の気持ち。
あるいは、毎日の努力の積み重ね。
それらは、微量な DNA と同じように、普段ははっきりと目に見えません。
「本当に自分の気持ちは伝わっているのだろうか?」
「このまま頑張り続けて意味があるのだろうか?」
見えないからこそ、不安になることもあります。
けれど、ふとした瞬間に相手からの温かい言葉を受け取ったり、具体的な成果として現れたりしたとき、私たちは「ちゃんとそこにあったんだ」と深く安心することができます。
科学は、現象によっては目に見えないものを扱う営みです。
細胞の中の分子、遺伝情報、反応の途中で起きている変化。その多くは、直接目で見ることができません。
だからこそ、実験では“見えないものを見える形に変える”技術が大切になります。そして、その確認作業は単なる儀式ではなく、実験結果を信頼するための重要なステップなのです。
目に見えないものを扱い続けるには、根気と、自分を信じる力が必要です。
すぐに結果が見えなくても、目の前の透明な液体の中には、確かに大切なものが存在しているかもしれない。
だからこそ、記録を残し、確認し、見える形に変えながら、少しずつ確かなものにしていくのです。
漫画の Ayane のように、チューブをのぞき込みながら「ほんまにこの中に入ってるんよな?」と不安になることは、決しておかしなことではありません。
見えないものを扱っているからこそ、確認する。
確認できるからこそ、次へ進める。
研究現場での実験も、日々の生活の中での積み重ねも、見えないものに対する不安を感じたときは焦らず、いつかそれが「目に見える形」になって現れる日を信じて、目の前のことに淡々と向き合っていきたいものですね。
それではまた次回、「ラボりだな日々」でお会いしましょう!