シナプス剪定に抗体が関与している(7月9日号 Science 掲載論文)

2026.07.26

 

2020年、ミクログリアが分泌する補体第一成分 C1q がシナプス剪定に関わることを示した論文を紹介した(https://aasj.jp/news/watch/12355)。さらには C1q はエンドゾームに取り込まれて細胞内でリボゾームの相分離を誘導して翻訳に影響するという突拍子もない論文も発表されている(https://aasj.jp/news/watch/24795)。

 

本日紹介する論文

このように脳神経回路での C1q に注目すると突拍子もない話が出てくるようだが、今日紹介する University College London からの論文も、今度は C1q 依存性のシナプス剪定に抗原特異的な抗体が関わるという、やはり突拍子もない研究で、7月9日 Science に掲載された。

 

タイトルはズバリ「C1q and immunoglobulins mediate activity-dependent synapse loss in the adult brain(C1q と免疫グロブリンは成人の脳での神経活動依存性シナプス剪定に関わる)」だ。

 

解説と考察

この研究では正常マウスだけでなく、アルツハイマー病モデルについても実験を行っているが、ややこしくなるので割愛して、正常マウスのみに絞って紹介する。まず、光遺伝学的方法で海馬神経を刺激したあとの組織を詳しく検討している。刺激に応じて神経が投射している側のシナプスだけで神経活動を示す Fos の発現が見られるとともに、同じ場所に C1q が蓄積することを確認する。即ち、神経活動依存的にシナプスに C1q が集まる。その結果 VGLUT2 神経のシナプスだけが剪定される。VGLUT1 が全く影響を受けないことがミソで、この剪定により VGLUT1 優位のシナプスが維持される。ただ、その生理学的結果については全く調べられていない。

 

この研究では、神経活動依存的に C1q が VGLUT2 シナプスに集まるメカニズムに焦点を当てて調べており、VISUM 等のノンバイアス空間トランスクリプトームを用いて、免疫グロブリンを発現するB細胞が刺激に応じて海馬にリクルートされていることを発見する。刺激を受けていない反対側では全くこのような現象は起こらない。

 

ラベル実験から、B細胞は頭蓋骨髄から硬膜を通って、刺激依存的に海馬に移動してくること、おそらく CXCL12 ケモカインが刺激依存的に働いてB細胞の移動を誘導するのではと結論しているが、はっきりとした証拠は示されていない。

 

こんなことがあるのかと疑うが、IgM をノックアウトしたマウス、IgM が分泌できないマウスを用いて、B細胞から IgM の分泌がないと、C1q のシナプスへの集合はなく、シナプス剪定もないことが示される。即ち、刺激依存的にB細胞が活動している神経の近くで、IgM を分泌することが C1q の特異的集合に必須であることを示している。

 

さらに驚くのは、卵白アルブミンに対する抗体だけを分泌するマウスでは、刺激依存的な C1q の集合、そしてシナプス剪定は起こらない。ただ、この実験では卵白アルブミンB細胞が海馬に移動するかどうかは調べていない。これは大きな手落ちで、神経活動依存性がB細胞の移動なのかどうかを知る意味で決定的に重要な実験だと思う。いずれにせよ、IgM だったらいいわけではないので、抗原特性があることになる。

 

まとめと感想

結果は以上で、C1q がミクログリアから神経刺激依存性に分泌されるだけでなく、C1q を VGLUT2 神経へ集合させるためにB細胞の神経刺激依存的移動と一定の特異性を持った IgM の分泌が必要であるという結論になる。とすると、IgM がどの抗原を認識しているのか調べてほしかったと思う。

 

このようにフラストレーションは残るが、本当なら免疫学的にも極めて不思議な現象で、今のところはまだ完全に信じられない。

著者紹介:西川 伸一

京都大学名誉教授。医学博士であり、熊本大学教授、京都大学教授、理化学研究所発生・再生科学総合研究センター副センター長などを歴任した生命科学分野の第一人者である。現在はNPO法人オール・アバウト・サイエンス・ジャパン (AASJ) 代表理事を務めながら、1日1報、最新の専門論文を紹介する「論文ウォッチ」を連載している。

【主な活動場所】 AASJ(オールアバウトサイエンスジャパン)
オールアバウトサイエンスジャパンは医学・医療を中心に科学を考えるNPO法人です。医師であり再生科学総合研究センター副センター長などを歴任された幹細胞や再生医療に関する教育研究の第一人者である西川伸一先生が代表理事を務められております。日々最新の論文を独自の視点でレビュー、発信されておりますのでご興味のある方はぜひお問い合わせください。

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