原理主義の脳科学

2024.02.01

 

近年、原理主義は世界中で社会問題を引き起こしている。原理主義とは、ある信条や教義を絶対視し、そこからの逸脱を許さない思想的姿勢を指す。イスラム原理主義やキリスト教原理主義など、その種類は様々だが、宗教的な紛争や対立の温床となることが多い。

実は原理主義そのものは歴史が浅く、20世紀初頭に形成された概念である。なぜこの100年程度の間に原理主義が世界中に広がったのだろうか。本エッセイでは、社会心理学と脳科学の視点から、原理主義的思考のメカニズムと特徴について考えてみたい。

 

原理主義の定義と特徴

原理主義はどのように定義できるのだろうか。

オランダの哲学者、ピールズによると、原理主義には宗教的原理主義と非宗教的原理主義があるという。前者はキリスト教原理主義やイスラム教原理主義であり、後者はファシズムやネオナチズムなどである。この2つの原理主義はともに、世界の不確実性を嫌い、世界を確実的でコントロール可能なものとして捉えるという点で似ているという(Peels, 2022年)。

さらにピールズによると、原理主義には以下の共通点がある。

 

  • 近代思想や近代科学への反発
  • 聖典の字義通りの解釈
  • メディアの活用などの近代性
  • 善悪二元論のような壮大な歴史的物語性

 

このように原理主義には様々なものがあるが、いずれも近代への反発として生じ、自らのあり方としては近代的であり、善悪二元論的な物語を持っているという点で共通している。


原理主義を促す要因

原理主義を促す大きな要因としては不確実性があるという。人間の脳は不確実な状態を嫌うように出来ている。例えばあなたがジャングルにいたとしよう。このような状態では不確実性を減らすために、周囲を探索することもあれば、じっと身をかがめてやり過ごすこともあるかもしれない。あるいは強固な信念を持つことでも不確実性を減らすことが出来る。例えば呪文を唱えていればライオンに食べられないだとか、ライオンが危険な生き物だというのは、実は陰謀によるものである、などである。

時代が移り変わるときには今までの常識が通用しなくなり、不確実性が高まる。このような時代には単純でわかりやすく方向性を示してくれる原理主義的な思想が受けいれられやすくなる。原理主義は不確実性を減らしてくれるという意味で、脳に優しい思想でもある。

また人間には確証バイアスというものがあり、これも原理主義的信念を後押しするという。これは不確実な状況では自分の信念を確かめたいがために、自分の意見と似た意見ばかりに耳を傾け、同じような人達同士で固まってしまう傾向である。このようなこともあり、先行き不透明な不確実な社会では原理主義者が増えやすくなるのではないかと論じられている(Hogg, 2013)

 

 

原理主義と科学との共通点

原理主義的な思想は一見奇抜なものに見えるが、実は原理主義的思考と科学的信念の形成には大きな共通点がある。

私たちは地球が球形である、地球が太陽の周りを回っているなど、さまざまな科学的信念を持っている。これらの信念を持つためには、信頼できる情報源が必要不可欠である。それは学校の教師かもしれないし、研究実績のある大学教授やノーベル賞受賞者の科学者かもしれない。ほとんどの場合、これらの人々の言葉を疑うことなく信じても問題はない。なぜなら科学界では研究者同士が互いの主張を批判的に検証し合うためである。

しかし原理主義的信念も、科学的信念と同様に、権威者の言葉を鵜呑みにするところから始まる。違いは、原理主義は言説の正当性が十分に検証されない点である。さらに原理主義のコミュニティは閉鎖的で排他的なことが多く、外部の意見を取り入れて信念を吟味することがない。このように原理主義には言説の信頼性を担保する仕組みがないため、現実世界との乖離が生じる恐れがあると指摘されている(Baurmann, 2007年)。

 

 

原理主義的態度の評価

原理主義的傾向を評価する尺度はいくつかあるが、今回は、多次元原理主義インベントリ(Multi-Dimensional Fundamentalism Inventory : MDFI)を紹介する。これは原理主義に含まれる3つの側面について評価するもので、各項目を1点(全く同意できない)から5点(全く同意する)の5段階評価をするものである。Pはそのままの評価だが、Cは逆転項目となる(Liht, 2011年)。

 

I.外的権威と内的権威

・神に従うことは、人として成長するために最も重要な要素である。(P)
・自分の考えを捨て、神の意志に従う人を尊敬する。(P)
・宗教は公的な事柄から切り離すべきだ。(C)
・人間の理性は、人間の行動を導く最良の光である。(C)
・宗教的信念を疑うことは、神に従うことに劣る。(P)

 

II.固定された宗教と変化しやすい宗教

・真の宗教はほとんど変化しない。(P)
・私の宗教団体では、女性はどのような指導的地位にもつくことができるべきである。(C)
・社会が変われば宗教も変わるべきである。(C)
・私の宗教は現代世界の状況に適応すべきである。(C)
・私の宗教は常に新しくあるべきである。(C)

 

III. 世俗的拒絶と世俗的肯定

・私以外の宗教の人々は、成長する可能性に関して欠けている。(P)
・映画、ラジオ、テレビから距離を置くことが重要。(P)
・投票するときに一番気にするのは宗教的な問題である。(P)
・すべての芸術は神に奉仕すべきである。(P)
・私の人生のすべての側面が宗教に染まっているわけではない。(C)

 

ちなみにアメリカ人の学生を対象にした結果としては、総合点平均が39.90点、 標準偏差が9.33点となっている。私自身は総合点は26点で低めであったが、得点傾向としては世俗的拒絶が妙に高い。薄々感じてはいたが、やはりスナフキンのような隠遁キャラなのかもしれない。

原理主義の脳科学

近年発表された研究で、宗教的原理主義と脳機能の関係について調べたものもある。この研究では退役ベトナム戦争軍人を被験者としてしており、脳損傷の程度と部位、宗教的原理主義、心理的傾向の関係性について調査している。また、心理的傾向については、思考の柔軟性や開放性について調べており、結果としては以下のことが示されている。

 

  • 腹内側前頭前野と背外側前頭前野が宗教的原理主義と関連している。
  • 思考の柔軟性や開放性の影響を加えると、宗教的原理主義と関連するのは背外側前頭前野だけである。

 

 

ちなみに腹内側前頭前野は抽象的な社会的信念(正義とはなにか、善悪とはなにか)に関わる領域であり、背外側前頭前野は理性的思考に関わる領域になる。

この研究結果から筆者らは前頭前野の損傷により、思考の柔軟性や開放性が低下し、宗教的原理主義が高まったのではないかと論じている(Zhongら, 2017年)。この研究は脳損傷患者を対象としたものであり、一般化は出来るものではない。しかし不安感の高さが原理主義的傾向と関連する(Carlucciら, 2021年)ことや、不安感が前頭前野の機能を低下させる(Sylvesterら, 2012年)という報告もある。このような傍証を踏まえると、前頭前野の機能低下が原理主義的思考に関連する可能性は否定できない。

原理主義者への関わり方

原理主義的思想から脱却することは難しい。しかし、ある条件下では原理主義的姿勢を緩和させることができる。

例えば、生まれながらに開放的な性格を持つ人は、原理主義的思想からの転向がより起きやすい。また、長年の人生経験の中で、原理主義的信念が思うような利益をもたらさない場合(家族の病気や自身のトラブルなど)、人々は原理主義的立場から離れていくことがある。さらに原理主義では聖典などの絶対的ルールを重視する傾向がある。そのため宗教教育では、教典の解釈よりも遊び心と美的態度の育成を優先すべきだとの指摘もある(Streib, 2001)。時間の経過と共に原理主義的思想から自然に離れていく人も多いため、宗教指導者には寛容な姿勢を保ち、対話を続けることが原理主義者との関係構築には重要であるとされる(Streib, 2001年)。

 

まとめ

では、ここまでの内容をまとめてみよう。

 

  • 原理主義は近代への反発として生じたが、みずからのあり方は近代的である。
  • 聖典の字義通りの解釈や壮大な歴史的物語を持つ。
  • 社会の不確実性の高まりが原理主義を後押しする。
  • 前頭前野の機能低下が原理主義的態度と関連する可能性がある。
  • 原理主義者との関わりには包摂的な態度で時間をかけて対話を重ねることが重要。

 

では私達は原理主義とどうつきあっていけばいいのだろうか。もし私達にできることがあるとしたら、脳に優しい社会を作ることではないだろうか。すべてが個人の力量と判断に委ねられる社会は能力のある者にとってはよいものだが、多くの人間にとっては決して易しいものではない。荒野の前に一人佇み、すべてを自分で決定するような社会は脳への負荷があまりに強すぎる。人間には、多かれ少なかれ、方向性を示して自分を守ってくれるような父性的なものに対するニーズがある。また原理主義的思想は父性原理への回帰ではないかとの指摘もある。そうであれば、ある程度、父性を残した社会の構築が原理主義的思想の抑制につながるのではないかと思うのだが、どうだろう。

著者紹介:シュガー先生(佐藤 洋平・さとう ようへい)

富山大学大学院 生命融合科学教育部 認知情動脳科学専攻 後期博士課程 修士(健康科学)
筑波大学にて国際政治学を学んだのち、飲食業勤務を経て、理学療法士として臨床・教育業務に携わる。人間と脳への興味が高じ、畿央大学大学院へ進学、脳波を用いた研究に携わる。現在富山大学大学院博士課程で
コミュニケーションに関わる脳活動の研究を行う。
2012年より脳科学に関するリサーチ・コンサルティング業務を行うオフィスワンダリングマインド代表として活動。研究者から一部上場企業を対象に学術支援業務を行う。
研究知のシェアリングサービスA-Co-Laboにてパートナー研究者としても活動中。
日本最大級の脳科学ブログ「人間とはなにか? 脳科学 心理学 たまに哲学」では、脳科学に関する情報を広く提供している。

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【参考文献】

Baurmann, M. (2007). Rational Fundamentalism? An Explanatory Model of Fundamentalist Beliefs1. Episteme, 4(2), 150-166. https://doi.org/10.3366/epi.2007.4.2.150

Carlucci, L., Albaghli, B., Saggino, A., & Balsamo, M. (2021). Does a Fundamentalist Mindset Predict a State or Trait Anxiety? The Covariate Role of Dogmatism. Journal of religion and health, 60(2), 1029–1045. https://doi.org/10.1007/s10943-020-01016-5

Hogg, M. A., Kruglanski, A., & van den Bos, K. (2013). Uncertainty and the roots of extremism. Journal of Social Issues, 69(3), 407–418. https://doi.org/10.1111/josi.12021

Liht, J., Conway, L. G. III, Savage, S., White, W., & O'Neill, K. A. (2011). Religious fundamentalism: An empirically derived construct and measurement scale. Archiv für Religionspsychologie / Archive for the Psychology of Religion, 33(3), 299–323. https://doi.org/10.1163/157361211X594159

Peels, R. (2023). On defining ‘fundamentalism’. Religious Studies, 59(4), 729-747. https://doi.org/10.1017/S0034412522000683

Streib, H. (2001). Is there a way beyond fundamentalism? Challenges for faith development and religious education. In The fourth R for the third millennium: Education in religions and values for the global future. https://pub.uni-bielefeld.de/record/1881758

Sylvester, C. M., Corbetta, M., Raichle, M. E., Rodebaugh, T. L., Schlaggar, B. L., Sheline, Y. I., Zorumski, C. F., & Lenze, E. J. (2012). Functional network dysfunction in anxiety and anxiety disorders. Trends in neurosciences, 35(9), 527–535. https://doi.org/10.1016/j.tins.2012.04.012