「災害から1か月後」今、摂るべき栄養素は? |災害と栄養について、栄養学の専門家が解説

2024.01.25

管理栄養士の栄 養太郎です。

2024年1月1日に発生した能登半島地震から約1ヶ月が経過しました。

復旧、復興に向けて支援が続いていますが、今だに多くの方々が避難しており、みなさんの健康状態が気にかかるところです。

日本は、地震や台風などの自然災害が多く、これまでに多数の災害を経験してきました。災害は、私達の日常生活を一瞬にして大きく変えてしまいます。そして、災害の規模によっては、避難しなければならず、様々な困難が発生します。その1つに、食環境の悪化があります。

 

近年国内で発生した災害において、「食」の課題が多くあることが明らかになりました。

 

栄養学には、様々な分野がありますが、災害時の食や栄養に関する栄養学を「災害栄養」とよび、近年エビデンスの蓄積がなされています。国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所には、国際災害栄養研究室が設置され、日々研究活動、情報発信が行われています。

 

今回のコラムでは、災害時の食の課題とその対応について、日本栄養士会と国立健康・栄養研究所が作成した「災害時の栄養・食生活支援マニュアル」および先行研究をもとに”災害栄養”的視点で総論的にお伝えしたいと思います。

 

災害時の食に関する課題

これまでに発生した災害において、避難所等の食事調査が行われています。先行研究等から、災害発生時の食に関する課題は以下のようなものが挙げられます。

・発災直後は、そもそも食糧が不足する
 →避難所だからといって食糧があるわけではない

・食事は、菓子パン、カップ麺、おにぎり、レトルト食品などの炭水化物が中心 (炭水化物過多) となっていた
 → 食塩や脂質も過多になる傾向

・生鮮食品の提供 (野菜、肉類、魚類、乳製品など) が少ない
 → 東日本大震災では、被災1ヶ月後でも炊き出しが難しいことがあった

・衛生環境が悪い
 → 水がないなど

・調理をできる環境がない
 → 調理場がない、停電、ガスがない、調理器具類がない、調味料がないなど

・避難所等で、高齢者や食事管理が必要な疾患等に対応が難しい (できないことがある)

 

これらを原因として、避難をしている方々の中には、栄養不足や栄養が偏り体調不良となってしまったり、食事・栄養管理ができずに疾患を悪化させてしまうなどのリスクが高まる場合があります。

災害直後は「命をつなぐための食事」で精一杯|食事は、菓子パン、カップ麺、おにぎり、レトルト食品などの炭水化物が中心

 

当然のことながら、被災直後は、命をつなぐことが重要であり、「何を食べるか」の選択肢はなく、「食べられるものを食べる」という状況であることは言うまでもありません。しかし、災害が落ち着き、支援などが届くような状況に進展すると、避難している方々の健康を考えた食事内容に移行していくことが、必要となります。

 

災害サイクルと災害時の食事・栄養補給の支援の特徴

一般的に災害は、発災から復興終了までの5つのフェーズ (超急性期、急性期、亜急性期、慢性期、平穏期) に分類されます。これを、災害サイクルと呼びます。

 

災害時の食事・栄養補給の支援は、災害サイクルにおける超急性期 (フェーズ0)から慢性期 (フェーズ3) に移行するごとに内容が変わります。

超急性期 (フェーズ0): 概ね発災後24時間以内
急性期期 (フェーズ1): 概ね発災後72時間以内
亜急性期 (フェーズ2): 概ね発災後4日目〜1ヶ月
慢性期 (フェーズ3): 1ヶ月以降

フェーズ0から1 (発災から72時間) の優先事項

水分補給とエネルギーの確保

エネルギーと水分補給

 

みなさんがご存知の通り、ヒトの身体の60%は水で構成されています。水分の摂取不足や体水分がたくさん失われることにより、体内の水分が不足する状態を、脱水と呼びます。

 

脱水は、体調不良の原因となり、ひどくなると熱中症、さらに、エコノミークラス症候群、心筋梗塞、脳梗塞などの命にかかわるリスクとなるため、十分に水分補給ができる環境の構築が必要となります。

 

緊張状態が続いたり、慣れない環境に置かれると、水分摂取に気が回らず、摂取量が減ってしまうこともあります。また「気温が高い夏しか脱水や熱中症にはならないでしょ?」と考えるかもしれませんが、冬でも脱水のリスクは高く、春夏秋冬、いつでも脱水のリスクがあると考えておく方が良いでしょう。

 

特に、高齢者は、口渇感を感じづらく、排尿回数を減らすために水分を補給しない傾向にあるため、家族や周りの方々が注意をする必要があります。なお、水分補給は、どのフェーズでも意識して行うことが重要です。



避難時には、様々な要因で身体的、精神的に疲労し、体力が落ちている・落ちやすい状態と考えられます。しっかりとエネルギーを確保 (炭水化物が手軽で摂取しやすい) し、体力の回復、維持を優先していくことが重要です。

 

フェーズ2 (被災から4〜1ヶ月) における栄養補給

たんぱく質を摂取する
ビタミン、ミネラルを補給する

少しずつ、ミネラルやタンパク質に目を向けていく時期

 

フェーズ2で重要なことは、エネルギー重視から、徐々に様々な栄養素、たんぱく質を中心にビタミンやミネラルの摂取を増やしていくことです。

 

フェーズ1からフェーズ2に移行すると、被災地外から徐々に (本当に少しづつですが) 支援が始まるでしょう。フェーズ0からフェーズ2の前半の支援は、日持ちがする菓子パンやレトルト食品 (米など) が中心であり、炊き出しやお弁当が支給される場所 (避難所) は限定的であると予想されます。この結果、炭水化物過多となり、たんぱく質やビタミン、ミネラルが不足することが想定されます。


 
被災から1週間程度は、エネルギー供給がしやすい炭水化物を含んだ備蓄食やレトルト食品などの食品が中心となりますが、フェーズ2では、炊き出しやお弁当への移行が重要となります。

 

炊き出しやお弁当は、「おかず」が加わるため、たんぱく質などの栄養素を摂取することができます。また、「被災後初めて食事時に笑い声が起こった」という報告もあり、食事が心を和ませる、精神的疲労、緊張感を和らげることにもつながると考えられます。

 

調理場の設置や供給方法に難儀する可能性はありますが、温かい食事を速やかに支給することが望まれます。

 

フェーズ3 (被災1ヶ月以降) における栄養補給

たんぱく質を摂取する
ビタミン、ミネラルを補給する
→徐々に日常の食事に戻し、バランスよく食べられることを目指す

フェーズ3は、被災から1ヶ月以降を指しますが、被災前の食事に戻ることはまだまだ難しい状況であることが想像できます。このフェーズになると、炊き出しやお弁当の支給の環境も整い、炭水化物だけでなく、他の栄養素も摂取できるようになります。

よって、「積極的に食べる」ことから「食べる量を調整する」ことへの移行が重要であると考えられます。

 

しかしながら、炊き出しやお弁当は、おかずが揚げ物中心になってしまったり、味が濃い料理や食品の提供が増えてしまうことによる、脂質過多、食塩過多が課題となります。

 

健康な方であっても、このような食事が続くと健康障害が起こるリスクが高まりますし、糖尿病、腎臓病、高血圧などの食事管理が必要な疾患を持っている方は、十分に食事が取れず、症状を悪化させる可能性もあります。

 

東日本大震災時の避難所の食事提供体制を調査した研究から、たんぱく源となる主菜、ビタミン・ミネラルの供給源となる副菜・果物の提供を増やすことが重要であることが示されています。したがって、様々困難な状況ではありますが、フェーズ3では、調理環境や食事提供の環境を整え、できる限りバランスの整った食事を摂取することが望まれます。

 

ここまでのまとめ

災害時に食事まで考えをめぐらすことは、大変困難であることは言うまでもありません。しかし、「災害が起こったときの食事に関してどのようなことに気をつけたら良いか」を確認し、各々が備えておくことが重要でしょう。

 

配慮が必要な方への対応

災害時には、配慮が必要な方、いわゆる災害弱者への支援が必要であることを忘れてはなりません。食事の面から考えると、乳幼児、妊婦・授乳婦、嚥下困難な高齢者、食物アレルギー患者、疾病による食事制限が必要な方(腎臓病、糖尿病、高血圧等) などが挙げられます。

 

例えば、東日本大震災では、食支援が必要な被災者がいた避難所は、3割以上にのぼったと報告されています。つまり、どの避難所にも食事の支援が必要な災害弱者がいることを覚えておいたほうが良いでしょう。

 

能登半島地震においても、避難していた高齢者が喉に食事をつまらせて死亡するという例もあり、食事面における災害弱者に対する支援が重要であることも忘れてはなりません。

 

衛生面の管理

フェーズ2以降には、被災地において炊き出しやお弁当などの調理を行っていくこととなります。災害時には、断水、停電、ガスを使用できないなど、通常の調理環境になく、平時以上に衛生管理を徹底することが必要です。

 

被災地では、衛生状況が悪くなることが想定され、特に避難所では同じ空間において集団で生活することから感染症、食中毒の発生が懸念されます。災害時の衛生に関する問題として、以下の内容が挙げらています。

・屋外での調理
・汚染された水の使用
・炊き出しボランティアの衛生管理の不備
・害虫の発生
・食品の保管状況の課題 (冷蔵庫の不足など)

 

被災地での調理は、現地の人々だけでなく、ボランティアなど被災地外の人々が関わることが想定されます。被災地に炊き出しなどで支援に行く場合には、ボランティア自身が衛生意識を持つことが重要です。

 

被災地で調理をする場合には、以下の内容に留意をしてほしいです。

・作業前に手洗いをしっかりする (アルコールや次亜塩素酸ナトリウムでの消毒)
・食品の消費期限を確認する
・食料品は冷暗所等、適切な温度管理のもとで保管する
・調理者自身に下痢や吐き気があるときは、 食事の担当はしないようにする
・食べ物には直接触れない (ラップや使い捨て手袋の利用)
・調理用ボウルやお皿等はラップを敷くなど、できるだけ汚さないように工夫する

 

災害時を想定したちょっとした準備

災害時の食に関する準備について、様々な情報が発信されています。わかりやすい情報源は、農林水産省の情報でしょう。

また、私「栄 養太郎」が考える、災害時を想定したちょっとした準備をご紹介します。

マルチビタミン、マルチミネラルのサプリメント

避難時のビタミン・ミネラル不足を想定して、マルチビタミンやマルチミネラルを準備しておくと良いでしょう。コンビニやドラックストアで販売されている、一般的なもので問題ないと思います。

日常的に摂取しない方は、なるべく消費期限が長いものを準備しておいて、数ヶ月おきなどに入れ替えると良いでしょう。

 

プロテイン

先述しているように、避難時には炭水化物過多になりやすく、たんぱく質の摂取不足が懸念されます。そこで、手軽にたんぱく質を摂取できるプロテインを用意しておくと良いでしょう。近年は、たんぱく質ブームで、常備している方も多いと思います。

 

プロテインは、水があれば摂取できますし、最悪、粉のままでも...摂取できます!

また、ビタミンB群やミネラルを配合しているものもあるので、避難時に不足しがちな栄養素を包括的に摂取することもできます。

 

最近は少量のパックも販売されているので、プロテインを日常的に摂取しない方も災害用に準備しておくと良いでしょう。

 

総合栄養食品

近年は、ドラッグストアなどにも並ぶようになった総合栄養食品というものがあります。これは、”食事として摂取すべき栄養素をバランスよく配合した食品” (消費者庁) と定義されています。疾患等によって通常の食事で十分に栄養をとることが難しい方に用いられる特別用途食品(病者用食品)です。病者用となっていますが、食品なので基本的には誰でも購入、摂取することができます (味の好みはあります)。

 

1食分で様々な栄養素を摂取することができる食品ではありますが、注意点として、疾患を持っている方、高齢者は、必ず医師、管理栄養士の指導、アドバイスを受けてください。安易に用いると症状を悪化させてしまう可能性があります。

 

サプリメントやプロテインと異なり、馴染みのない食品と思いますが、災害時の栄養補給としては有用な食品であると思うので、ドラッグストアに立ち寄ったときに確認をしてみてはいかがでしょうか。

 

経口補水液やスポーツドリンク

備蓄として水を用意している方は多いと思います。[フェーズ0から1 (被災から72時間) の優先事項]のところでも書きましたが、避難時にも脱水のリスクがあります。

そこで、水に加えて、経口補水液やスポーツドリンクを数本常備しておくと良いと思います。重さが気になる場合には、粉末タイプでも良いでしょう。

 

避難時に発熱してしまったり、下痢になってしまったときの水分補給に使えます。また、避難時に不足しがちな、ビタミンやミネラルを強化しているようなタイプのドリンクも有用でしょう。

 

「栄養」観点で備えておくと良いものはいろいろ


さいごに

今回のコラムの内容は、あくまでも先行研究を踏まえた総論です。各フェーズで必要な準備や食事面の災害弱者への対応の詳細までは触れきれておりません。文末の参考文献欄に、災害時の食事等で必要な情報・リンク集を共有しておきますのでご確認頂ければと思います。

災害時の最優先事項は、「自らの命を守る」ことです。そして、命を守るためには、「自助」と「共助」が重要となります。

 

被災地において食事を準備したり、提供することは容易ではありません。

 

国内において最大級の自然災害となった東日本大震災後に様々な調査、研究が行われました。調査、研究の結果から、災害時における食に関する支援の必要性が明確となり、栄養士・管理栄養士で組織する災害支援チームJDA-DAT (ジェーディーエーダット) が発足しました。

JDA-DATは、限られた資源の中でより良い食事が提供できるよう訓練を受けた災害支援栄養士で構成され、大規模な自然災害が発生したとき、72 時間以内に被災地に入り活動します。被災地内では、医療・福祉・行政部門等と連携して、栄養や食生活の支援を行います。もし、被災をしたとき、食事や栄養で困ったことがあれば、JDA-DATを思い出して、支援を求めていただきたいです。

 

日本は、災害が多い国の1つであり、今後も南海トラフ地震など大きな災害が想定されています。災害に対して、様々な準備が必要であり、なかでも、食は生命を繋げる重要な要因です。


本コラムを通して”災害栄養”に興味を持って頂き、食に関してどのような準備ができるのか、どのような支援ができるのかを考えるきっかけになると良いなと思っています。

 

参考文献

災害発生時の保健活動体制 と対応について|千葉大学大学院看護学研究科

災害時の栄養・食生活支援マニュアル|国立健康・栄養研究所 社団法人日本栄養士会

災害被災時における 栄養・食生活|国立健康・栄養研究所 国際栄養情報センター
国際災害栄養研究室

避難生活で生じる健康問題を予防するための栄養・食生活について 「4.高齢者リーフレット」の解説資料|国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所

総合栄養食品ってなに?|消費者庁

災害時の食事等で必要な情報・リンク集

災害時に備えた食品ストックガイド|農林水産省

~いつもの授乳を災害時にも~赤ちゃんのための授乳ハンドブック

いつもの食品で、もしもの備えに!食品備蓄のコツとは?

単身者向け「災害時にそなえる食品ストックガイド」

要配慮者のための災害時に備えた食品ストックガイド

災害時のこどものアレルギー疾患対応パンフレット

災害派遣医療スタッフ向けのアレルギー児対応マニュアル

糖尿病とともに生きる人の災害への備え

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【著者紹介】栄 養太郎

管理栄養士、公認スポーツ栄養士。
専門分野は、スポーツ栄養、健康科学、学位 [博士 (学術)] 取得後、栄養系の大学教員になりました。
現在は、ジュニアアスリートを中心に、スポーツ栄養教育の実施と選手から得られたデータを評価・分析する研究を行っています。
スポーツ栄養に関する情報を様々な形で発信したいと思い、活動しています。