新しい前頭側頭型認知症の原因特定(12月6日 Natureオンライン掲載論文)

2023.12.20

前頭側頭型認知症(FTD)は認知症の1割を占め、海馬の神経変性が中心におこり記憶障害が中心になるアルツハイマー病と比べると、前頭側頭皮質の障害が中心になり、行動、人格、言語などが傷害される。また一部には運動障害が顕著で、ALSと間違えられるケースもある。

 

このようにアルツハイマー病とははっきり異なるが、ほぼ半数はTau異常症による蛋白沈殿が原因で、あとの半数はALSの原因にもなるTDP-43異常症による沈殿形成に依ることがわかっている。

 

本日紹介する論文

今日紹介する英国MRC研究所からの論文は、これら2種類の蛋白質異常症以外の原因で起こるFTDがTAF15分子による、特に運動障害が顕著なFTDであることを明らかにした研究で、これによりほとんどのFTDの原因が明らかになったと言える。

 

タイトルは「TAF15 amyloid filaments in frontotemporal lobar degeneration(TAF15アミロイド線維による前頭側頭変性症)」だ。

 

解説と考察

これまで、Tau, TDP-43以外が原因のFTDでも、FUS蛋白質に対する抗体で染色される沈殿物が観察されること、また試験管内でFUS蛋白質断片が繊維状沈殿を形成することから、FUS異常症ではないかと考えられてきた。

 

ただ、検出に利用される抗体が同じファミリーの分子、EWSやTAF15にも反応することから、最終的には脳からアミロイド繊維を抽出して特定する必要があった。

 

この研究では抗体での染色からFUS異常症と診断される患者さんの脳から生化学的にアミロイドフィラメントを抽出し、クライオ電顕による構造解析、及び質量分析による分子解析の結果、フィラメント内には全くFUS分子が含まれておらず、これまでFUS異常症として考えられてきたFTDのほとんどはTAF15異常症による可能性が示された。

 

特に面白いのは、TAF15のアミロイド繊維によるFTDで運動障害が著しい点で、今回調べられた4例の中の一人の患者さんではALSと診断を受けていたようだ。

 

まとめと感想

以上が結果で、Tau, TDP-43に加えて、新しい細胞内アミロイド繊維沈殿を起こす分子としてTAF15が特定されるとともに、FTDはこれまで想像されてきたように、沈殿する分子によって傷害される場所が異なり、それぞれ特徴的な症状を示すことも明らかになった。

 

このように、蛋白質は異なるが、FTD、そしておそらく他の神経変性疾患も、メカニズムは極めて良く似ていることが示された。現在アルツハイマー病のTau異常症を治療する試みが進められているが、これが可能になると、それぞれの蛋白質に対しても同じような治療が可能になるのではないかと期待できる。

 

アルツハイマー病やFTDはこれまで医学の無力をあざ笑っている病気の代表だったが、一歩一歩糸口が見えている気がする。

著者紹介:西川 伸一

京都大学名誉教授。医学博士であり、熊本大学教授、京都大学教授、理化学研究所発生・再生科学総合研究センター副センター長などを歴任した生命科学分野の第一人者である。現在はNPO法人オール・アバウト・サイエンス・ジャパン (AASJ) 代表理事を務めながら、1日1報、最新の専門論文を紹介する「論文ウォッチ」を連載している。

【主な活動場所】 AASJ(オールアバウトサイエンスジャパン)
オールアバウトサイエンスジャパンは医学・医療を中心に科学を考えるNPO法人です。医師であり再生科学総合研究センター副センター長などを歴任された幹細胞や再生医療に関する教育研究の第一人者である西川伸一先生が代表理事を務められております。日々最新の論文を独自の視点でレビュー、発信されておりますのでご興味のある方はぜひお問い合わせください。

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