グループを超えた助け合いの芽生え:ボノボ(11月17日号 Science 掲載論文)

2023.11.28

今年は熊本にある京大霊長類サンクチュアリー(写真)、及びベルリン動物園で初めてボノボを見ることが出来た。

Frans de Waalさんの「Bonobo and Atheism」を読んで以来、いつかはボノボを見たいと思ってきたが、ようやくそれがかなった。

ボノボとチンパンジーは遺伝的には最も近縁の種だが、社会行動学的には違いが際立っている。一言で言えば、ボノボは平和的で、自然発生的道徳の起源がわかるのではと研究が行われている。

筆者撮影

 

本日紹介する論文

今日紹介するドイツ霊長類研究所とハーバード大学人間新科学研究所からの論文は、コンゴでの2つのボノボグループを2年間観察し続け、グループを超えて生まれた協力関係を調べた研究で、11月17日号 Science に掲載された。タイトルは「Cooperation across social borders in bonobos(社会的境界を越えたボノボの協力関係形成)」だ。

 

解説と考察

ヒト以外で、グループを超えた協力関係を観察できるのはボノボとイルカぐらいで、グループ間で殺し合いの抗争に至るチンパンジーでは研究できない。

 

この研究では2年間で両グループが出会ったとき、グループ内で見られるのと同じ、グルーミングや、協力行動、さらには食べ物を共有することまで行われることを明らかにしている。

 

その上で、行われた協力を個体レベルで解析すると、グループ内で他の個体と相互作用する機会が多い個体ほど、他のグループとの個体と相互作用する機会が多いことがわかった。すなわち、社交的な個体ほど、グループ内に限らず他グループの個体とも相互作用する。

 

面白いのは、それぞれの行動は独立しており、グルーミング友達が必ずしも協力しやすいというわけではない。そして、一般的にメスの方が社交的といえる。一方、個体同士で小競り合いは起こるが、社交的な個体は小競り合いが少ないこともわかる。すなわち、争いを嫌う個体ほど、社交性がある。

 

食べ物を共有する行動は、リターンがあるかどうかわからないときに、相手に食物を提供することから始まるが、この関係図を見ると、ほとんどのケースはグループ内のみで起こるが、数少ない個体ではグループ外の個体と食べ物を分け合う関係が成立している。

 

まとめと感想

すなわち、グループ内で食べ物を共有することが多い個体が、たまたまグループ外の個体とも同じ関係を成立させ、絆を深めていくといった感じになる。以上が結果で、グループ間で協力関係を成立させる社交性を持った個体の存在が、ボノボの平和性、道徳性を支えていることがわかる。

 

ここからは私の勝手な推測だが、今回の関係図から見ても、元々平和的なボノボの社会でも、社交性の個体差は大きいことから、多様性をグループ内で維持できていることが重要で、この社会性の高い個体が、他のグループとの交流を媒介、促進し、最終的にグループ間の交流を成立させている。

 

今戦争が当たり前になった世界に住む我々こそ、もっとボノボ社会を調べ学ぶべきだろう。

著者紹介:西川 伸一

京都大学名誉教授。医学博士であり、熊本大学教授、京都大学教授、理化学研究所発生・再生科学総合研究センター副センター長などを歴任した生命科学分野の第一人者である。現在はNPO法人オール・アバウト・サイエンス・ジャパン (AASJ) 代表理事を務めながら、1日1報、最新の専門論文を紹介する「論文ウォッチ」を連載している。

【主な活動場所】 AASJ(オールアバウトサイエンスジャパン)
オールアバウトサイエンスジャパンは医学・医療を中心に科学を考えるNPO法人です。医師であり再生科学総合研究センター副センター長などを歴任された幹細胞や再生医療に関する教育研究の第一人者である西川伸一先生が代表理事を務められております。日々最新の論文を独自の視点でレビュー、発信されておりますのでご興味のある方はぜひお問い合わせください。

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