美しいものには素晴らしい性質が宿る!?〜世界最小のスイッチ〜

2023.03.29

みなさんは美を追求していますか?

私自身の美の追求はいまいちですが、こと化学や分子についての美の追求については常日頃からぐるぐると頭を回しております。表題の「美しいものには素晴らしい性質が宿る!?」は、半分は私の言葉であり、半分は借り物であります。というのも、研究者時代に国際学会で会った教授が三角形の分子を見て、第一声に「なんて美しいんだ」と、「これほど美しい分子には、きっとエクセレントでエレガントな性質があるに違いない」と断言していたのです。実際の分子はお見せできませんが、似たような3回回転対称という性質を有する分子の動画として、軸を中心に周りを120°回転させると自らと重なる分子を、下記に紹介します。美しいと思うものは人それぞれですが、遠い異国の地でも自身の思う美が共感につながると嬉しいものです。

さて、本日は表題の通り、美しい分子に宿った素晴らしい性質のニュースを紹介しますが、その前に今日紹介する球状分子フラーレンを使った美の追求に少しお付き合いください。

球状分子フラーレンを使った美の追求

化学と聞いて第一に思い浮かぶのは、molという概念だとか周期表だとか反応式だとかとにかく覚えなければならない概念が多くて、眠くなる学問だということ。※個人の見解です。
しかし、今日は安心してください!日本ハムファイターズの新庄監督が「優勝なんか一切目指しません」と言ったときのように、ここでは化学の理解なんか一切目指しません!
なので、まずは今日紹介する球状の美しい分子フラーレンを使ってとにかく美を追求してみます!

筆者が色付けしてフラーレンをカラフルにしたカラフラーレンです。私は左のカラフラーレンが虹のように色々な色があって好みですが、人によっては色が多すぎてうるさく見えるかもしれません。みなさんはどちらのカラフラーレンが好みでしょうか?あるいはオリジナルのカラフラーレンを考えてみるのもいいかもしれません。

画像生成AIとコラボした美の追求

 最近流行りの画像生成AIを使って、有名な画家風の芸術的なフラーレンを出力してもらいました。

 みなさんは誰が書いたフラーレンが好みでしょうか?

まずはダリがフラーレンを使って描いた「記憶の固執」です。時計の代わりにくずれたフラーレンが描かれているのかなと思っています。

'The Persistence of Memory' using fullerene written by dali

 

クロード・モネが描くフラーレンもいいですね。一枚目は、一部がコロネンになってしまっていますが。。。でも球面の感じが残っているので、炭素原子以外の原子も混ぜて、結合距離を変えて作った未来のフラーレンでしょうか?想像するとワクワクしてきました。数学(幾何学)に詳しい人だと、辺の長さが異なる六角形を敷き詰めて、球面を作る方法が分かったりするのでしょうか?

fullerene written by Claude Monet

 

どんどん行きましょう。

アルフォンス・ミュシャが描くフラーレンはミュシャ感は強いですが、中心にフラーレンもどきがいますね。

fullerene written by Alfons Mucha

 

カミーユ・ピサロが描くフラーレンは、庭の中に置かれている場合と、特徴を捉えてゴツゴツさせた場合と、個性が光りますね。

fullerene written by Camille Pissarro

 

ムンクのフラーレン。これも個性が光りますね。どちらかと言うとかっこいい感じがしますね。アルマーニのショップで飾られていそう。※個人の見解です。

fullerene written by Munch

 

ゴッホの描くフラーレンは案の定といった感じでしょうか。これまでもそうですが、どれもなんとなーく画家の個性が取り入れられている感じがするのが、個人的には画像生成AIすごいなと思ってニヤニヤして見ています。このフラーレンは欠陥があるので、京都大学の村田先生の研究室で分子手術を受けた後の姿でしょうか!?

fullerene written by Vincent Willem van Gogh

 

カンディンスキーの描くフラーレンは、1枚目は知ってか知らずかコロネンが描かれていますね。2枚目以降は、抽象化しすぎてもはやフラーレンではなくなってしまいましたが、どの絵も鮮やかな色彩感覚を筆者は美しいと思います。

fullerene written by Wassily Kandinsky

 

今日のトピックス:フラーレン・スイッチ

「球状分子フラーレンを使った美の追求」の説明を前段とし、本日紹介する美しい分子に宿った素晴らしい性質のニュースはこちらです。

The switch made from a single molecule A special carbon molecule can function as multiple high-speed switches at once(リンク
Hirofumi Yanagisawa, Markus Bohn, Hirotaka Kitoh-Nishioka, Florian Goschin, and Matthias F. Kling, "Light-induced subnanometric modulation of a single-molecule electron source," Physical Review Letters
Link (Publication)

今回のニュースを一言でまとめると、「直径7.1オングストローム(Å、1Åは100億分の1メートル)しかない世界最小のスイッチを作った」です。

この世界最小のスイッチを実現するために使った材料が世にも美しいフラーレンと呼ばれる分子です。技術的な説明は難しいですが、フラーレンに電子のビームを通しながら、同時に光を当てることで、光照射による固体からの電子の取り出し精度が劇的に向上したそうです。従来が10ナノメートル程度だったのが、今回、それよりも一桁小さな1ナノメートル以下のスケールを達成しました(ナノメートルは10億分の1メートル)。

光照射による固体からの電子の取り出しができると何が嬉しいの?

光による固体からの電子の取り出しができると、現在のコンピュータの速さを1000倍から100万倍にするスイッチとして働くことから期待を集めています。[※1]

この電子の取り出しがいくら速くても、電子が飛び出す位置が分からないのでは、出てくる電子を使うことは難しいでしょう。これまでの10ナノメートル程度の精度での制御も十分にすごいですが、例えば、フラーレンの大きさが100億分の1メートルなので、仮にそのスケールで正確に隙間なく並べることができたとしても、その電子放出位置の制度が100倍の1億分の1メートルでしか制御できないのでは、正確に並べた意味がなくなってしまいますね。

(参考:東京大学 物性研究所 研究成果資料

 

世界最小のスイッチの先にあるもの

光により固体から出された電子は、例えば高性能な顕微鏡に用いられ、ナノスケールの世界で瞬間的に起こる現象を観測できます。一方で、これまでは前述の顕微鏡の空間分解能は10ナノメートル程度だったのですが、この分解能は0.3ナノメートル程度に達します。0.3ナノメートルの分解能に達すると、原子がぼんやりと見えるレベルになってくるので、現在最先端の研究で盛んに利用されている走査トンネル顕微鏡(STM)や原子間力顕微鏡(AFM)に匹敵する分解能になります。

また、今後、光の波長や周波数などを変えることで、さらに分岐の機能を増やすことができれば、超高速スイッチを1分子に集積させることができます。すると、スイッチを集積化しても1分子のサイズは変わりませんので、コンパクトな高性能顕微鏡が実現するかもしれませんね。

最後に

美しいと思うものは人それぞれですが、こと私個人の話をしますと、対称性の高さに美を感じることが多いです。今回のフラーレンも、正20面体に相当する対称性を持ちます。この対称性という概念は、往々にして分子や物質における物性に多大な影響を与えます。とはいえ、かくいう私も難しい物性の話はよくわかりません。まずは、分子を造形物として、その美しさにだけ着目して楽しむのもいいかもしれません。

 

脚注

[※1] 本文へ戻る
この手の世界最小のスイッチは、フェムト秒(1000兆分の1秒)やアト秒(100京分の1秒)といった時間スケールで動作します。GHz周波数帯で動作するCPUでさえ、ナノ秒(10億分の1秒)の時間スケールなので、1000倍から100万倍にするスイッチとして働く可能性があるのです。

 

【著者紹介】化充(ばけじゅう)

さすらいの有機合成化学者。好きな元素はリン。趣味が多い。論文誌ではOPR&Dを、週刊誌では週刊少年ジャンプを愛読している。愛車は2014年モデルのBianchi Vertigo。ネット碁サイトKGSで1級〜初段を行ったり来たりしている碁打ち。
現実生活(リアル)が充実しているということを「リア充」と呼ぶように、化学の趣味活動が充実しているので化充と自称しています。
<魅力的な略歴>
この人物は興味が発散しているため、光化学やエレクトロニクス、金属-有機構造体(MOF)、反応開発、計算科学、X線構造解析などの分野の研究をちょっとずつかじっています。実験機器の簡単な修理から、あったらいいな道具を自作したり3Dプリンタで産み出したり、面倒な作業のPythonを使った自動処理コード作成(リンク)まで、興味を持ったらとりあえずなんでもやってみたい人。