サウナの脳科学:「ととのう」時に脳はどうなっているのか?

2023.02.16

サウナがここ数年大流行である。サウナを語る際にしばしば言われる言葉で「ととのう」というものがある。しかしこの「ととのう」というのは脳科学的にはどのようなものなのだろうか?今回の記事では変性意識状態という言葉を切り口に考えてみよう。

変性意識状態とは?

変性意識状態というのは、文字通り意識が変わってしまうような状態である。サウナでも水風呂から出て横たわっていると恍惚状態になるが、これも変性意識状態のひとつである。このような変性意識状態は、サウナだけでなく、お酒やタバコ、瞑想など様々なものをきっかけとして引き起こされる[注1]。ではこの変性意識状態とは具体的にはどのようなものなのだろうか?立命館大学の名誉教授で催眠法の権威である斎藤稔正博士は、禅の修行で起こる変性意識状態について以下の5項目をあげている[注2]

1.空間感覚の喪失(空間的な位置,方向などの感覚が機能しなくなる)
2.時間感覚の喪失(時間の持続,経過の観念がなくなる)
3.主観と客観の差の感覚の喪失(主客一如の一体感の体験)
4.言語感覚の喪失(筆舌に尽くしがたい,したくない感じ)
5.自己感覚の喪失(分離感,自己の消失,深い熱中,没我感)

確かにこの感じは水風呂から上がったあと、ぼんやりしている時の感じに似ている。ではどのような仕組みでこの変性意識状態が引き起こされるのだろうか?脳の仕組みから考えてみよう。

変性意識状態の脳科学

私達の脳というのはサッカーチームとよく似ている。サッカーであればフォワードやディフェンス、ゴールキーパーなど、いろんなプレイヤーが協力しあってボールを運ぶ。脳も同じようにいろんな機能を持ついろんな領域が繋がり合って情報をやり取りしている。

サッカーチームの司令塔に当たるのは脳の中では前頭前野と呼ばれる部分である。この部分は、運動や感覚、感情、記憶など様々な機能にかかわる脳領域をまとめあげて一つの明瞭な自己意識を作り上げている。この明瞭な自己意識があるおかげで、車の運転も会議のプレゼンもブレずに行うことができる。


ところが変性意識状態ではこの前頭前野の活動が低下することがわかっている。瞑想や催眠などで変性意識状態を誘導すると、誘導方法の種類を問わず、前頭前野の活動が低下するというのだ[注3]。ではサウナにおいても何らかの脳活動の変化は見られるのだろうか。最近、サウナで「ととのう」時の脳活動を調査した研究が発表されたので、これを見てみよう。

「ととのう」時の脳活動

この研究を発表したのは、鎌倉を拠点に脳波測定デバイスを開発するVIE STYLE株式会社。実験では健康な成人男女20名を対象に、サウナ浴を繰り返すことでどのような脳波の変化が引き起こされるのかを調査している[注4]

ちなみに実験では、10分間のサウナ浴→1-2分間の水風呂→7分間の安静を3セット繰り返し、その前後で聴覚認知課題を行わせ脳波の測定を行っている。

Fig. 1. を参考に筆者作成

 

この実験では2種類の脳波計を使って脳波を測定している。

一つは頭皮電極を使ったものである。実験室での実験でよく使われるタイプのもので、様々な部位の脳波を測定できるが、測定に手間取るというデメリットがある。

頭皮電極脳波想定イメージ

 

もう一つはイヤホン型の脳波計を使って脳波を測定するものである。使用されたのは、VIE STYLE株式会社のVIE ZONE。装着が容易で測定場所を選ばないというメリットがある。

VIE STYLE株式会社:VIE ZONE

この実験では、聴覚認知課題では頭皮電極脳波計を使い、水風呂から上がって安静にしている時にはイヤホン型の脳波計を使って脳波を測定している。

脳波測定のタイミング

 

では、サウナ浴を行うことで一体どのような脳波の変化が引き起こされたのだろうか?

サウナが引き起こす脳波の変化

Chang et al., 2023, Figure. 2を参考に筆者作成

まず認知課題を行っている時の脳波であるが、音の弁別に関連する脳波(図のMMN)がサウナ浴を3セット繰り返すことで強くなったことが示されている。また実際にサウナ浴を繰り返すことで刺激に対して素早く反応できるようになっていることが示されている。

Chang et al., 2023, Figure.5を参考に筆者作成

では水風呂から上がってリラックスしている時には脳波はどのようになっているのだろうか?それを示した一例が下の図である。

Chang et al., 2023, Figure. 4を参考に筆者作成

比べてみればわかるように、温浴だけを行う対照群は、3度温浴を繰り返しても大きな変化はないが、サウナ群はサウナ浴を繰り返すごとにシータ波やアルファ波といったリラックス状態と関連した脳波が強くなっていっているのがわかる。しかも興味深いことにこの時の脳波データを使って機械学習を行うことで、水風呂から上がってリラックスしている時の脳波とサウナに入る前の状態の脳波を平均精度88.34%で分類できることも示されている。

まとめ

では、ここまでの話をまとめてみよう。

・サウナでは変性意識状態が引き起こされる。
・変性意識状態は前頭前野の活動変化によって引き起こされる。
・サウナ浴を繰り返すことでシータ波やアルファ波が強くなる。
・サウナ浴の後には刺激に対してより敏感になる。

 

このように、サウナというのはどうも固くなった頭のネジを緩めて巻き直してくれるような働きがあるらしい。疲れて行き詰まって仕事が進まないのであれば、仕事の帰りにサウナによってみるのもいいのではないだろうか。お酒や煙草よりも、体にもお財布にも優しいのだから。

【参考資料】

[注1] Vaitl, D., Birbaumer, N., Gruzelier, J., Jamieson, G. A., Kotchoubey, B., Kübler, A., ... & Weiss, T. (2005). Psychobiology of altered states of consciousness. Psychological bulletin, 131(1), 98. ↩︎

[注2]斎藤稔正. (2003). 変性意識状態と禅的体験の心理過程. 立命館人間科学研究, (5), 45-53. ↩︎

[注3]Dietrich, A. (2003). Functional neuroanatomy of altered states of consciousness: The transient hypofrontality hypothesis. Consciousness and cognition, 12(2), 231-256. ↩︎

[注4]Chang, M., Ibaraki, T., Naruse, Y., & Imamura, Y. (2023). Neural characterization of the" totonou" state associated with sauna use. bioRxiv, 2023-01. ↩︎

著者紹介:シュガー先生(佐藤 洋平・さとう ようへい)

富山大学大学院 生命融合科学教育部 認知情動脳科学専攻 後期博士課程 修士(健康科学)
筑波大学にて国際政治学を学んだのち、飲食業勤務を経て、理学療法士として臨床・教育業務に携わる。人間と脳への興味が高じ、畿央大学大学院へ進学、脳波を用いた研究に携わる。現在富山大学大学院博士課程で
コミュニケーションに関わる脳活動の研究を行う。
2012年より脳科学に関するリサーチ・コンサルティング業務を行うオフィスワンダリングマインド代表として活動。研究者から一部上場企業を対象に学術支援業務を行う。
研究知のシェアリングサービスA-Co-Laboにてパートナー研究者としても活動中。
日本最大級の脳科学ブログ「人間とはなにか? 脳科学 心理学 たまに哲学」では、脳科学に関する情報を広く提供している。

【主な活動場所】 X(旧Twitter)はこちら

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