200万年前の生態系を DNA から再構成する(12月7日 Nature オンライン掲載論文)

2022.12.16

このブログで紹介した最も古い生物のゲノム解析論文は2021年2月に紹介したシベリアで出土したマンモスゲノムの論文だと思う(https://aasj.jp/news/watch/15022)。


このように永久凍土の場合、他の生物のDNA侵入が少なく、また DNA の化学変化速度も低下するので、DNA解析が十分可能になる。


ついでに加えると、人類では40万年前のハイデルベルグ原人のミトコンドリアゲノムが、このブログで紹介した最も古いゲノムになる(https://aasj.jp/news/watch/808)。


今日紹介するコペンハーゲン大学を中心にした国際チームからの論文は、さらに古い200万年前のゲノム解読研究だが、暖かい時期に生物が生息した後、長く氷に閉じ込められて現在に至ったグリーンランドの堆積層からDNAを集め、当時の生物相を調べたメタゲノム研究で、12月7日 Nature にオンライン掲載された。


タイトルは「A 2-million-year-old ecosystem in Greenland uncovered by environmental DNA(グリーンランドの200万年の生態系が環境DNAから明らかになる)」だ。


グリーンランド北部は100-300万年前は地球温暖化で生物が生息していたことが知られており、現在も研究が続いている。このコペンハーゲン岬と呼ばれる領域に、川などの堆積により形成された地層があり、動植物の化石が出るだけでなく、有機物に富んでいる。


2016年8月に紹介したようにコペンハーゲン大学では土壌に吸着しているDNAを抽出して当時の生態系を知る研究が続けられているが(https://aasj.jp/news/watch/5639)、この研究でも同じ技術をグリーンランド堆積土壌の解析に用いている。


DNAが抽出できるからと言っても、解析は大変だ。


土壌の質に応じてどの程度DNAをはがしてこられるのか、平均気温から考えて、DNAの変性速度は、通常温度とどのぐらい違うのかなど、様々な実験を繰り返し、得られた結果を生かして少しでもデータの信頼性を高められるようとする膨大な実験が行われている。


まさに、シャノンが開発した情報科学の粋がここで行われていることがよくわかる。


その結果、全体で20億塩基対に相当する30bpより長いDNA断片を集めるのに成功している。


これにはその地域に存在した全てのDNAが含まれるが、少なくとも3回以上同じストレッチが発見される場合のみ解析対象にすると、植物では葉緑体、動物ではミトコンドリアのDNAが解析の中心になる。


このような動植物ゲノム配列からこの生態系の年代を測定すると、地質学的測定とほぼ一致し200万年前になり、おそらく最古のDNAが解読されたと言っていいだろう。


メタゲノム解析の結果は、予想通りで、抽出されたDNAには100種類の植物属のDNAが発見されており、多くはこれまで花粉や化石として発見されたものに相当する。


このように他の方法とDNAを対応させることは重要で、使われた方法の信頼性を示す。特定された植物の多くは、現地球の寒冷地方で存在しているが、新しい属も含まれる。


植物と比べると、動物の種類は少ない。最も驚くのはマストドンのようなゾウ類のDNAが発見されることで、ゾウを頂点とするトナカイやウサギのような様々な草食動物がグリーンランドで暮らしていたことがわかる。


詳しく見れば生態学的には重要な話が満載だと思うが、素人的には現代のグリーンランドからは想像できない生態系が存在していたとまとめれば十分だろう。


幸い、今週の表紙を見ればこの研究の結論がわかるようになっているのでそれを示しておく。

 

今後、南極の氷の下にある土壌、あるいは深海の堆積物など、メタゲノムの対象は無限に存在する。


その中からどんな発見があるのか、期待したい。

By西川伸一

オールアバウトサイエンスジャパンは医学・医療を中心に科学を考えるNPO法人です。医師であり再生科学総合研究センター副センター長などを歴任された幹細胞や再生医療に関する教育研究の第一人者である西川伸一先生が代表理事を務められております。日々最新の論文を独自の視点でレビュー、発信されておりますのでご興味のある方はぜひお問い合わせください。