腸内細菌叢のエコロジー:2,モデル細菌叢をデザインする(9月15日 Cell オンライン掲載論文)

2022.10.01

昨日紹介した様に、私たちの腸内に形成された細菌叢は、便移植のような多様な細菌叢移植ですら外からの細菌を簡単に受け入れない安定性を保っている。


このことを裏返せば、一つの細菌の効果を調べるためには、無菌動物にそれぞれの細菌を移植するノトビオティック実験が必要になる。


逆に、乳酸菌やビフィズス菌でも、健康な細菌叢に割って入るのは簡単でなく、ヨーグルトの効果について軽々に結論することがいかに困難かがわかる。


とは言え、今後正しく菌を用いるプロバイオティックスの効果を調べる意味では、再現可能な複雑さを保った人工細菌叢を移植した動物を用いて、移植した細菌がその中で増殖、効果を示すかどうかを調べる実験系が必要になる。


今日紹介するスタンフォード大学からの論文は、私たちの腸内細菌叢の機能をほぼ再現するためにはどの程度の複雑性を持つ細菌叢をデザインすればいいのか調べた研究で、9月15日 Cell にオンライン掲載された。


タイトルは「Design, construction, and in vivo augmentation of a complex gut microbiome(複雑な腸内細菌叢をデザインし、構成し、体内で増強する)」だ。


我々の腸内に存在する細菌の種類はおそらく1000種類に達するのではと思う。これらが複雑に絡み合って、外来細菌の侵入を許さない細菌叢を形成しているのだが、実際には何種類の細菌があれば、機能的に安定した細菌叢が実現するのか、よくわからない。


結果、善玉菌とか悪玉菌とか、ここの細菌と細菌叢をごちゃ混ぜにした説明が横行することになる。


この研究では、まずデータベースからほとんどの人に存在することが確認される約100種類の細菌からスタートして、これを無菌動物に移植、その安定性を便移植での細菌の置き換わりを指標に調べ、必要とあれば100種類に新しい細菌種を加えて、もっと安定な細菌叢をデザインするという方法をとっている。


まず、100種類の細菌全てを一つの培地で培養すると、ほぼ全てが維持されるが、頻度は多い種類で数10%、少ない物では10万分の1まで大きく変化する。


すなわち、菌同士の相互作用を通して、それぞれ一定の比率に落ち着く。勿論、一つのアミノ酸を培地から抜くだけで、一部の細菌の頻度は大きく変化するが、システインのような大きな影響のあるアミノ酸を除くと、それでも全体としては恒常性が維持される。


次にこの人工細菌叢を無菌マウスに移植し8週間待つと、さらに頻度はばらつくが、ほぼ全ての細菌が維持される。すなわち、体内でも同じ状態を保つ人工細菌叢が形成されたことになる。


このマウスに、今度は正常人の便を移植し、人工細菌叢構成種以外の細菌がどの程度増えてくるのかを調べると、なんと100種類でも外部からの異なる細菌の侵入を防ぐ性質を持つ細菌叢が形成されている。


しかし、おおよそ10%程度は、外来の細菌が増殖することから、100種類で形成させた細菌叢にもまだ空白のニッチが存在し、そこに他の細菌が入り込む余地があることを示している。


そこで新しく増えた種類の中から22種類の細菌を選び、100種類に加えたバージョン2細菌叢を形成させて無菌マウスに移植すると、さらに外来の菌を受け入れない人工細菌叢が形成される。


このバージョン2を移植されたマウスと、便中の全ての細菌を移植したマウスを比べると、免疫細胞や代謝状態でほとんど差はなく、人工細菌叢でも機能的には自然の細菌叢に匹敵すると言える。


最後に、病原性大腸菌が侵入したときの防御力についても調べ、増殖を100倍以上抑える力があることを示している。これは重要で、人工細菌叢なので、一部の細菌だけを欠損させることは自由に行える。


その結果、大腸菌の抵抗性に関わる主要な菌を特定することにも成功している。 以上が結果で、私は細菌叢の複雑性の意味を問うための重要な一歩が示されたと思う。


今後は、これまで評価が難しかったプロバイオやプレバイオの実験も、客観性と再現性がさらに備わってくるように思う

By西川伸一

オールアバウトサイエンスジャパンは医学・医療を中心に科学を考えるNPO法人です。医師であり再生科学総合研究センター副センター長などを歴任された幹細胞や再生医療に関する教育研究の第一人者である西川伸一先生が代表理事を務められております。日々最新の論文を独自の視点でレビュー、発信されておりますのでご興味のある方はぜひお問い合わせください。