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アストロサイトは神経活動を様々な形で支援する役割を持つ細胞と考えられている。以前紹介したように、脳に全く線維芽細胞が存在しないという通説は間違っているようだが、組織学的にも神経細胞やシナプスを支持する細胞の主役は、脳ではアストロサイトになる。
面白いのは、このアストロサイトも神経と同じように、刺激に反応してカルシウム流入が見られることで、例えば麻酔によりこの活動が低下することから、その機能に興味が集まっていた。
今日紹介するイスラエル・Edmond and Lily Safra 脳科学研究センターからの論文は、場所記憶を調べる課題を行っているマウスで、場所細胞が活動している CA1 領域のアストロサイトの興奮を持続的に調べる実験を行い、アストロサイト細胞の活動に何か法則性があるか調べた研究で、8月31日 Nature にオンライン掲載された。
タイトルは「Hippocampal astrocytes encode reward location(海馬のアストロサイトは褒美をもらった場所を記録している)」だ。
要するに、このような課題を行わせるときの脳記録は普通神経細胞で行うのだが、この研究ではアストロサイトだけにカルシウムセンサーを発現させ、興奮を記録している。
すると期待通り、普通場所神経細胞の記憶が形成されるセッティングで、一定の法則に従ってアストロサイトが興奮する(カルシウム流入が起こる)ことがわかった。
いつ興奮が高まるのか詳しく調べると、場所神経細胞のように決まった場所で興奮するのではなく、課題を遂行中に提供されるご褒美が約束されている場所に近づくにつれて興奮が高まることがわかった。
逆に新しい課題に直面すると、同じような興奮の高まりは見られないが、新しい状況を記憶して、褒美をもらえる場所がわかってくると、同じように興奮が高まることがわかった。また、新しい記憶が成立しても、既に勝手がわかっている課題では、アストロサイトの反応が起こる。
面白いことに、課題の途中で急に画面の投射を切断して、視覚が使えない状態でも、手探りで課題を続け、褒美が近くなるとアストロサイトも興奮する。すなわち、私たちが勝手がわかっている自分の家で、暗闇でもマークを見つけてトイレに行くことができるといったセッティングに対応しているように思える。
最後に、記憶した課題を遂行しているとき、海馬アストロサイトの興奮を記録することで、マウスが褒美にどれほど近づいているのかを解読できることから、この結論が間違いないとしている。
以上、アストロサイトにも記憶があるように見えることがこの研究のハイライトだが、基本的には神経ネットワークに従じているはずで、今後は神経の GPS ネットワークにどう組み込まれているのか、研究が必要になるだろう。
いずれにせよ、認知症を考える時、神経だけでなくアストロサイトも常に調べることが必要になる。