有酸素運動は膵臓ガンを抑制する(7月11日号Cancer Cell掲載論文)

2022.08.11

最近は、代謝や免疫に対する運動の効果についての研究を目にする機会が増えたが、今日紹介するニューヨーク大学、グロスマン医科大学からの論文は、膵臓ガンに対する免疫を有酸素運動が高めるという話で、何でも思いついたら実験してみるのが良いという典型研究に思う。


タイトルは「Exercise-induced engagement of the IL-15/IL-15Ra axis promotes anti-tumor immunity in pancreatic cancer(運動がIL-15/IL-15Rαシグナルを介して膵臓ガンに対する免疫を高める)」で、7月11日号Cancer Cellに掲載された。


この研究の全てはマウスを用いて持続的な運動が膵臓ガンの増殖を抑えないか思いついたことだ。


このようなアイデアは思いついてもなかなかやる気にならないのだが、このグループはマウスのトレッドミルをつくって、週5日、一日30分、15cm/秒の速度で走らせ、ガン遺伝子を発現させたマウスで膵臓ガンの発生や、移植した膵臓ガンの増殖を調べた。


結果は期待通りで、運動により膵臓ガンの自然発生は抑制され、また間質反応は抑えられ、膵臓ガンの病理型も腺房型を保つ。さらに、膵臓にガンを注射してから運動させてもガンの増殖を抑えることが出来る。


勿論治すというより、抑制するだけだが正直ここまでの効果があるとは驚きだ。この差があれば、後はメカニズムを探索し、以下のシナリオに到達している。


腫瘍局所では、運動によりキラーCD8T細胞が増加し、逆に免疫を抑える白血球の浸潤を抑えることが出来る。この変化の一部は、運動による交感神経興奮がノルアドレナリンを分泌を介してCD8T細胞の循環と、局所への浸潤を促須子とで誘導される。


またシグナル経路は不明だが、運動により膵臓局所でIL-15の分泌が高まり、CD8T細胞の増殖や、機能維持を誘導し、キラー活性を高める。また、こうして誘導されるキラー活性はチェックポイント治療にも感受性で、PD1に対する抗体と運動を合わせると、腫瘍局所のT細胞は増加し、腫瘍抑制効果も高まる。


運動についての結果は以上で、全てが交感神経を介しているのかどうかはよくわからないが、ともかくガンの免疫に関して言えば、IL15を介して免疫を高める効果がある。


後は、運動でなくともIL15と可溶性IL-15受容体を結合させ、γ受容体刺激活性を強めたスーパーアゴニストと、PD1抗体、そしてさらにジェムシタビンとパクリタクセルを組みあわせることで、根治ではないが生存期間を高められることを示している。


以上は全てマウスの話で、人間でも同じ効果があるのか気になる。


実際に同じような実験が人間でも行われており、膵臓ガンの手術前に運動を続けさせ、切除後ガン組織を調べるコホート研究を利用して、運動により腫瘍組織のCD8T細胞が上昇すること、またCD8の数が増えた患者さんでは予後が良いことを示している。


結局、現在治験が進行中のIL15スーパーアゴニストを組みあわせた免疫療法を膵臓ガンに使える可能性があることと同じ話になるのだが、運動に限らず少しでも、薬剤とは別のアプローチも真面目に考慮していくことの重要性を示す研究だと思う。

オールアバウトサイエンスジャパンは医学・医療を中心に科学を考えるNPO法人です。医師であり再生科学総合研究センター副センター長などを歴任された幹細胞や再生医療に関する教育研究の第一人者である西川伸一先生が代表理事を務められております。日々最新の論文を独自の視点でレビュー、発信されておりますのでご興味のある方はぜひお問い合わせください。