ALSの中には自己抗原に対するキラーT細胞が発症に関わるケースがある(6月22日 Nature オンライン掲載論文)

2022.07.04

多くの変性性神経疾患で、ミクログリアや炎症の役割が指摘されている。これはALSでも同じで、特に遺伝性で若年発症のALSの場合(例えばC90RF72)、ノックアウトすると自己免疫病が発症することが知られており、自己免疫になりやすい基盤の上に、炎症が起っているのではと考える人たちも多い。


今日紹介するマウントサイナイ・アイカーン医科大学からの論文は、さらに進んで突然変異により発生したネオ抗原が引き金となって、ALSが発症する可能性をマウスで確認した後、実際の患者さんでも可能性を確かめた研究で、6月22日号Natureにオンライン掲載された。


タイトルは「Clonally expanded CD8 T cells characterize amyotrophic lateral sclerosis-4(ALS4はCD8T細胞のクローン増殖により特徴づけられる)」だ。


この研究では遺伝性ALSのうちALS4と呼ばれるSetx遺伝子の突然変異により発症する疾患に焦点をあて、ヒトと同じ変異を持つマウスを作成している。


このモデルでは8ヶ月目から運動障害が発症するが、期待に反して正常マウスと比べると、炎症性サイトカインの上昇などは全く示さない。


そこで、自己免疫に関わるリンパ球側の変化を調べると、ほとんど違いがないなかで、抗原刺激によって誘導されるPD-1を発現するCD8T細胞が増加していることを発見する。しかも、病気の起こっている場所、すなわち脊髄でこの細胞が全体の36%にもなることを発見する。


このPD-1陽性CD8T細胞をさらに詳しく調べると、T細胞が慢性的に抗原で刺激されたときに発現が高まるTox分子を強く発現した集団が増えていること、そしてT細胞受容体を調べると、一匹のマウスでは60%が一つのクローン由来で、残りのマウスも、それぞれ30%、20%とクローナル増殖が起こっていることを明らかにしている。


すなわち、予想通り自己抗原に対して反応して増殖しているクローンが、病気に関わっていることが示唆された。


ただ、こうして誘導されたT細胞の一部は、突然変異を持たないグリオーマ細胞も殺すことから、全てが変異を含むペプチドに対するものではなく、おそらくスプライス異常も含めたネオ抗原を認識している。


面白いのは、突然変異マウス骨髄を移植する実験で、突然変異によるリンパ球側の条件を調べると、突然変異マウスでネオ抗原が発現するだけでなく、突然変異によりリンパ球の反応性が変化することも重要な要因であることも確認している。


そして最後に、実際の ALS4患者さん末梢血リンパ球をCyTOFで調べると、マウスとは発現分子は少し異なるが、抗原により活性化されたときに発現が上がるCD45RA陽性エフェクター記憶細胞が増加しており、特定のT細胞受容体βを発現するT細胞が70%近くを占める、クローン増殖が見られることを確認している。


結果は以上で、残念ながら免疫治療でこの患者さんの症状を抑制できるかについては全く検討されていない。しかし、もしこれがALS4の疾患メカニズムなら、必ず対処方法は存在するので、研究を進化させて欲しいと思う。


さらに、他の突然変異によるALSについても、同じような可能性が当てはまるのかも是非調べて欲しい。

オールアバウトサイエンスジャパンは医学・医療を中心に科学を考えるNPO法人です。医師であり再生科学総合研究センター副センター長などを歴任された幹細胞や再生医療に関する教育研究の第一人者である西川伸一先生が代表理事を務められております。日々最新の論文を独自の視点でレビュー、発信されておりますのでご興味のある方はぜひお問い合わせください。