細胞にも絆創膏が備わっている(4月22日号 Science 掲載論文)

2022.05.16

キラーT細胞の細胞障害性にパーフォリンとグランザイムBが関わることは、広く知られているが、グランザイムがアポトーシスを誘導する一方、パーフォリンは細胞膜に穴を開けることで細胞を殺すことが、明らかになっている。


つい先日紹介したように、私自身はグランザイムBも、細胞膜に穴を形成する分子だと勘違いしていた(https://aasj.jp/news/watch/19545)。


おそらくこれは、順天堂の奥村先生の大学院生、新貝さんがパーフォリン遺伝子クローニングについて最初に発表していたのが鮮明な印象として残って、その後このイメージを変えることが出来なかったためだろう。


さて、このパーフォリンだが、では、穴が空けば細胞がすぐ死ぬのかについてはまだわかっていないことも多かったようだ。今日紹介する Genentic 社からの論文は、パーフォリンによって出来る穴を修復する細胞のいわば絆創膏に対応する分子の研究で4月22日号 Science に掲載された。


タイトルは「ESCRT-mediated membrane repair protects tumor-derived cells against T cell attack( ESCRT を介した細胞膜の修復はT細胞の攻撃から腫瘍細胞を守る)」だ。


ESCRT ファミリー分子(以後 ESCRT )は、細胞膜が飛び出す budding や分裂などに際して、細胞膜の構造変化を調節する分子だが、細胞膜に空いた小さな穴の修復に関わることが知られていた。


しかし、この論文を読むまで、細胞にもこのような修復機構が備わっていると考えたことはなかった。すなわち、可塑性は高くても、いったん穴が空けばネクローシスになると思っていた。


この研究では、同じ ESCRT が、T細胞がガン細胞を傷害するとき起こるパーフォリンによる細胞膜の穴を塞げるどうかを調べることを目的としている。


勿論、ESCRT 遺伝子をノックアウトしておくと、ガン細胞がキラー細胞によって殺されやすくなるといった機能的実験も示しているが、この研究の圧巻はキラーにより穴が空いて、それを ESCRT が塞ぐ過程を全て細胞学的に可視化しようとした点にある。


まず蛍光ラベルした ESCRT を導入したガン細胞にキラーT細胞を加えて ESCRT の局在をビデオで調べると、キラー細胞がコンタクトしている細胞膜に ESCRT がリクルートされることを確認する。


次に電子顕微鏡でガン細胞がキラー細胞により傷害されているところを撮影し、3次元再構成を行い、キラー細胞から細胞溶解性の小胞がガンへと移行していく様子、そしてガン細胞が傷害される様子がイメージ化されている。


ただ、このような変化が見られても、膜にパーフォリンの穴が空いているという現場は捉えることが難しいようだ。


そこでさらに高い解像度でラベルされた分子を観察するため、以前紹介した cryo-SIM/FIB-SIM と呼ばれる方法を用いて(https://aasj.jp/news/watch/15502)、細胞障害現場での ESCRT の局在を調べ、ガン細胞膜がキラー細胞の中に吸い込まれるように飛び出している場所に ESCRT が濃縮していることを示している。


すなわち、細胞傷害が起こる場所で、穴が空いた膜を budding で切り出すような感じで修復しているのがわかった。


以上が結果で、機能的にはノックアウト実験ですむところを、目で見えるようにするという細胞生物学の執念が結実した結果だと思う。


形を見れば、おそらく様々な分子過程が想像されるはずで、今後 ESCRT だけでなく、キラー細胞の活性を高めるための方法がここから明らかにされることも期待できる。

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