ヤリマンボウを使った軟骨ボール実験と新たなマンボウ類の軟骨ボール伝承地域の発見

2025.09.01

マンボウの軟骨ボールはよく跳ねる!

コロナ禍に入る直前の2019年5月、朝日放送テレビの番組『探偵 ! ナイトスクープ』から私に調査依頼があった。視聴者から番組に寄せられた依頼内容は「祖父の家は漁師でした。祖父は子供の頃(1920年代後半)、マンボウが網に掛かった時に、その骨(軟骨?)をもらって球形に削り、小さいボールを作って遊んでいたそうです。それはスーパーボールのようによく弾んだそうですが、本当なのでしょうか? 確かめてみたいです。」というものだった。番組から私には、マンボウの軟骨から作ったボールがスーパーボールのように弾むのか実際に検証して欲しいというものだった。非常に面白い! 一昔前の漁村にそんな子供の遊び文化があっただなんて! 私はこの知見を文献でも知らなかった。早速、各方面に協力依頼を出し、何とかマンボウを確保。番組スタッフと一緒に実際にマンボウの軟骨からボールを作り、地面に落としてみると……跳ねた! 結構ビックリした。マンボウの軟骨ボールは本当にスーパーボールのように弾ませて遊ぶことができたのだ! この時の実験の様子は私の運営しているマンボウなんでも博物館の記事の動画で閲覧することができる。市販のスーパーボールと比較すると、マンボウの軟骨ボールの跳ね返りは、スーパーボールよりやや劣っていたが、十分に弾ませて遊べるレベルだった。マンボウの民俗として非常に面白かったので、単なる番組撮影だけでは終わらせず、番組に依頼した視聴者にも直接話を聞き、この実験結果を私は澤井・吉原(2020)として論文にまとめあげた。

 

残された2つの謎

しかし、澤井・吉原(2020)では解明できなかった謎が2つ残されていた。一つはマンボウ以外のマンボウ科他種から作った軟骨ボールもマンボウと同じように弾むのか? 日本近海にはマンボウの他に、ヤリマンボウ、ウシマンボウ、クサビフグが出現する。クサビフグは激レアで、マンボウとも形態が違うので別の魚として認識されそうだが、ヤリマンボウとウシマンボウはマンボウと間違われることも多いので、昔の人が混同していてもおかしくない。種によって軟骨ボールの弾み方が違っていたら非常に面白い。未来の調査で検証する必要が残されていた。

もう一つはマンボウの軟骨ボールの伝承地域。澤井・吉原(2020)で分かったのは、少なくとも佐賀県東松浦郡呼子町の漁村の子供達は、マンボウ類が浜に打ち上げられたり、漁網に引っかかったりすると、その軟骨からボールを作り弾ませて遊んでいた、ということだった。しかし、この遊び文化の伝承者は、子供の頃に大分県佐賀関から呼子町に移住したので、軟骨ボールの伝承は佐賀関からもたらされた可能性も残っていた。マンボウの軟骨ボールの伝承地域がどの範囲なのかはまだまだ謎が多い……。しかし、この2つの謎を紐解く大きなヒントが得られたので、今回、澤井・大池(2025b)として論文にまとめた。詳しい話をしよう。

 

ヤリマンボウの軟骨ボール!

まずは他種の問題について。2025年5月、海とくらしの史料館(海くら)でヤリマンボウの解剖を行う機会が得られた。せっかくヤリマンボウを解剖するなら、軟骨ボール実験もやってみようと私は考えていた。そして、2025年5月11日、その時は訪れた。海くら館長に協力してもらい、ヤリマンボウの背鰭基部の下にある軟骨の塊から作ったボールを、約1m上から机に自由落下させて、その最大の跳ね返り地点を動画で撮影するという実験を行った。こちらがその時に作ったヤリマンボウの軟骨ボール。軟骨の塊が思ったよりも小さく、可能な限り球形に近付けるように試みてみたものの、楕円形になってしまった(澤井・大池(2025b)の論文と同じもの)。半透明で、見た目的にはマンボウの軟骨と変わらない。多分、同時に並べられると、私は見分けられる自信が無い……。

ヤリマンボウの軟骨ボールの跳ね返り実験は5回行った。比較対象として、市販のスーパーボールでも同じ条件で5回実験を行った。下の図は2つのボールで最も高く跳ね返った位置を示す(左がヤリマンボウの軟骨ボール、右が市販のスーパーボール)。下矢印は約1mから自由落下させたものを示し、上矢印は跳ね返った最高点を示す。比較すると、やはり、スーパーボールの方が高く跳ね返るが、軟骨ボールも1mの半分近くまで跳ね返っていたので、十分に弾ませて遊べるレベルだ。

澤井・吉原(2020)で行った実験結果と比較すると、市販のスーパーボールの跳ね返りは、前回も今回も全く同じ物(前回より微妙に縮んではいた)を使ったにも関わらず、今回の方が少し高く跳ね返っていた。これは前回と今回の実験環境の違いが反映された可能性がある(例えば今回使った机の方が跳ね返りやすい素材だったとか)。一方、前回のマンボウの軟骨ボールと今回のヤリマンボウの軟骨ボールの跳ね返り実験結果を比較してみると……ヤリマンボウの方がマンボウよりわずかに低かったが、今回のボールの方が楕円形の形状だったのにも関わらず両者の数値は非常に近かった。実験環境の違いで今回のヤリマンボウの軟骨ボールの方がわずかに過大評価されている可能性はあるが、マンボウもヤリマンボウも軟骨ボールの跳ね返りは大して変わらなかった。これは属レベルで軟骨の組織成分があまり変わらないことを示している可能性がある。非常に興味深い。マンボウとヤリマンボウで似たような実験結果になったのなら、ウシマンボウも似たような結果になるだろうと予測される……が、実際に実験してみるまでは分からない。次はウシマンボウの軟骨ボールで実験をしなければならない……。

 

軟骨ボールの伝承地域

続いて、マンボウの軟骨ボールの伝承地域の問題について。新たな伝承地域の情報は2024年10月にインターネット検索で偶然発見した。2013年7月に九州大学の学生が行ったしこ名(通称地名)調査のレポートで、長崎県松浦市鷹島町で地元の漁業関係者に聞き取り調査をしたところ、「自分達が子供の頃はマンボウの軟骨でボールを作って遊んでいた」という内容がホームページ上に記録されていたのだ! 12年前の話は覚えていない可能性が高いが、ダメ元でホームページを運営されている九州大学の服部英雄教授に連絡してみたところ、返事が返って来て、もう少し詳しい情報を得ることができた! 何でも聞いてみるものである。長崎県松浦市鷹島町は、呼子町と距離的にも近い。双方の漁師に交流があり、マンボウ類の軟骨ボールの遊び文化が共有されていてもおかしくはない。ということは、澤井・吉原(2020)では明確な答えが出せなかった軟骨ボールの伝承は、大分県佐賀関から呼子町にもたらされたと考えるよりも、呼子町に元々あった伝承と考える方がしっくりくる。鷹島町と呼子町でマンボウ類の軟骨ボールの遊び文化があったということは、九州北西部の漁村のお年寄りに聞き取り調査をしてみると、さらに伝承地域が見つかる可能性がある! 伝承地域の範囲に非常に興味がある。誰か九州の漁業関係者の方、マンボウの軟骨ボールについて、聞き取り調査をしていただけないだろうか? 協力者求む!

 

ヤリマンボウ

  軟骨ボール

   マンボウと

    跳ね返り似てる

     呼子と鷹島

 

【参考文献】

澤井悦郎・吉原もも乃.2020.昔の漁村における子供の遊び文化の再現―マンボウの軟骨から作られたボールの検証.Biostory, 33: 102-107.

澤井悦郎・大池明.2025b.昔の漁村における子供の遊び文化の追加考察:ヤリマンボウを用いた軟骨ボール実験.Nature of Kagoshima, 52: 49-52