炎症性腸疾患とsp140:遺伝子多型解析から治療法開発まで(8月18日号Cell掲載論文)

2022.09.05

21世紀に入ってから、急速に病気のゲノム解析が進み、それぞれの病気について、相関する多くの遺伝子多型が特定されている。このパワーの威力については、今回Covid-19の様々な病態に対し、詳細な遺伝子多型マップが完成していることからわかる。


ただこのような研究は、それぞれの多型、あるいは多型セットが病気につながるメカニズムを明らかに出来て初めて、役に立つ。


今日紹介するハーバード大学からの論文は2010年頃から様々な免疫性炎症や、細胞内寄生に対する抵抗力の異常に関わることがわかってきた遺伝子sp140の作用機序を明らかにし、クローン病など炎症性腸疾患の新しい治療戦略を示した、遺伝子多型から病気のメカニズム、そしてその治療まで明らかにした、お手本のような研究で8月18日号Cellに掲載された。


タイトルは「Epigenetic reader SP140 loss of function drives Crohn’s disease due to uncontrolled macrophage topoisomerases(エピジェネティック状態を監視するsp140の機能異常は、マクロファージのトポイソメラーゼの調節不全に起因する)」だ。


この研究が注目したsp140は、免疫系細胞に発現すること、そして免疫性炎症の異常に関わることが知られているが、その機能はインフラマソームや自然免疫シグナルに関わる分子ではなく、H3K27me3といった遺伝子発現を抑制するヒストンと結合する分子で、これが何故炎症のリスク遺伝子になるのかは、免疫学的にも面白い課題だ。


これを解くためHEK293T細胞株を用いて、sp14おと結合する分子をスクリーニングし、トポイソメラーゼ(TOP)1,TOP2といったDNAを緩める働きがある分子と直接結合していることを発見する。


一方で、クローン病患者さんの遺伝子多型rs28445040により、sp140の機能が低下していること、またsp140の機能が低下すると、TOP1,2の活性が高まり、転写のリプログラムだけでなく、ヘテロクロマチン領域のDNA断裂が起こることを示している。


この過程をさらに詳しく解析し、sp140は、遺伝子発現を抑えるヘテロクロマチンに、TOPや他のクロマチン再編成分子を寄せ付けないようにして、いったん完成したエピジェネティックな遺伝子抑制システムを維持するための重要な分子であることがわかった。


また、sp140発現レベルが低い遺伝子多型では、この防御が破れ、エピジェネティックな転写抑制が乱れることで、主にマクロファージの活性化が起こり、免疫性の炎症が起こることが示唆された。


以上の結果は、sp140が低下して発症する免疫性炎症は、それにより活性が高まるTOPを抑制することで治療できる可能性を示唆している。


そこで、sp140をノックダウンしたマクロファージをTOP阻害剤で処理すると、転写のプログラムが正常化し、細胞内寄生体に対する抵抗力が回復することを明らかにした。また、同じ正常化を、クローン病患者さんのマクロファージでも観察している。


最後に、硫酸デキストランで腸を傷害して誘導するマウス腸炎で、sp140ノックアウトマウスで見られる炎症の重症化を、TOP詐害剤で抑えることが出来ることも示している。


以上、人間の臨床例の研究はまだだが、病気の遺伝子多型から病気の治療法開発にまで至ったお手本と言える研究だ。いずれにせよ、慢性炎症性疾患でもゲノム解析が必須の時代はすぐそこにきている。

オールアバウトサイエンスジャパンは医学・医療を中心に科学を考えるNPO法人です。医師であり再生科学総合研究センター副センター長などを歴任された幹細胞や再生医療に関する教育研究の第一人者である西川伸一先生が代表理事を務められております。日々最新の論文を独自の視点でレビュー、発信されておりますのでご興味のある方はぜひお問い合わせください。