大学生が知っておくべき「卒業論文の書き方」とは?【教授が紹介するシリーズ】

2023.11.24

皆さん、こんにちは。福岡工業大学の赤木紀之です。

多くの大学生、特に理系の大学生にとって、最大の使命は卒業論文を執筆することです。卒業論文を完成させるためには、日々の研究が欠かせません。その研究にスムーズに取り組むために、低学年の頃から「学生実験」として実験に取り組んできたことでしょう。実験科目ではレポート作成が課せられていたことでしょう。これらの経験は全て卒業論文執筆のための前奏曲と言えます。

とはいえ、卒業論文ではじめて論文を書く、という方も多いのではないかと思います。この記事では、私がお勧めしている卒業論文の書き方を紹介したいと思います。実際、私自身もこの流れで学術論文を執筆しています。

大学生に限らず、大学院生や若手研究者の方もぜひ、参考にしてみてください。

 

 

書き始める前に

論文を書き始める前提として、ほとんどの実験が完了し、ある程度データが整っていることが大切です。論文を書き進めながら足らないデータに気づき、慌てて追加実験をすることもありますが、ここではデータが出そろっていることを前提にしてお話を進めて参ります。

 


Figures(図)を作成してストーリーを考える

卒業論文を執筆する上で、私が最初にお願いしていることは「Figure(図)を作ること」です。いきなり「要旨」や「背景」から入るのではなく、Figureを作成してもらいます。

手元の生データを、分かりやすいグラフや図表に変換しましょう。すでにラボミーティングや中間発表会で生データを図表化できている人は、それに微修正を加えるだけで十分かもしれません。

 

提示できるデータがどれだけあるか全体像を把握した上で、次にその図を提示する順番を考えましょう。英語の学術論文を見れば分かりますが、図1から図6くらいまであることが一般的です。自分が執筆する論文が、いくつの図から構成できるか考えましょう。

例えば図が10個も20個もあった場合には、グループごとにまとめることも可能です。4つのデータを図1(A)から(D)とすることで、見やすくなるでしょう。

 

図を提示する順番も大切です。実験を行った順番通りに図を提示する必要はありません。論文の「ストーリー性」をよく考えましょう。「提示する順番を図1と図4で入れ替えた方がよい」ということは頻繁にあります。論文の読み手が、内容をスムーズに理解できるようにするためだけでなく、論理的な文章構造を整えるためにも、図の提示順番は非常に重要です。

 

Figures(図)作成 まとめ

  • 手元の生データをグラフや図表に変換しよう
  • 図がたくさんある場合は、グループ化できないか検討してみよう
  • 論文のストーリー性を考えて、図を提示する順番を決めていこう

 

 


Figure Legends(図の説明)を書く

図を作成し、どの順番で図を提示するかが決まったら、次に「図のタイトル」と「図の説明」を書き始めましょう。「図のタイトル」は一言で表現します。研究室ごとにタイトルの付け方にはスタイルがあります。例えば、次の2つのタイトルを比較してみてください。

 

① 「マウスES細胞における未分化マーカー遺伝子の発現の検討」
② 「未分化マーカー遺伝子Dax1はES細胞の分化に伴い減少する」

 

両者の違いはお分かりでしょうか? ①は実験の内容をタイトルにし、一方で②は実験の結論をタイトルにしています。どちらのスタイルも有効ですが、全体的な統一感を保つことが大切です。例えば、図1から図3までは①のスタイルで、図4以降は②のスタイルにすると、統一感が損なわれてしまいます。

 

「図のタイトル」が決まったら、「図の説明」を書き進めましょう。「図の説明」とは「図の言語化」と捉えれば良いと思います。例えば学生さんの口頭発表でありがちなのが「この図を見て分かるように、細胞の増殖が悪くなりました」の一言で済ませてしまうケースです。これは図の言語化が不足しています。

その図は何を示していて、どういう条件で検討し、何と何を比較しているのか、その結果で何が明らかになったのかなどを端的に説明することが図の説明の鍵です。この作業を図1から順に進めていきましょう。

 

Figure Legends(図の説明) まとめ

  • 図のタイトルは、全体的な統一感を保つようにしよう
  • 図の説明は、「図の言語化」を意識しよう

 

 


Results(結果)を書く

図と図の説明が完成したら、それに対応する結果の項目を書き進めましょう。結果の項目は、ただつらつらの書くのではなく、さらに小見出しをつけて項目ごとに詳しく説明します。

例えば、一つの図に対して一つの小見出しを作り、その図が示す実験結果をより丁寧に言語化していきます。論文が図6まであるのであれば、結果の項目も6つの小見出しから構成されるでしょう。

 

さて結果の書き方ですが、「図1に示すように、〇〇遺伝子の発現が低下した」といった表面的な記述では不十分です。「なぜこの実験をするのか」「どうやってこの実験をしたのか」「この実験結果は何を示唆するのか」「そこから何が言えるのか」を順序良く段階的に説明することが大切です。

具体的な背景や実験の進行過程を交えながら、読者に対して理解しやすい形で伝えるよう心がけましょう。

 

「次の実験結果の説明」への移行も重要です。小見出しごとに結果の項目が分かれているとはいえ、「実験結果ごとのつながり」を注意深く説明することが必要です。図1で示した実験結果を踏まえ、なぜ図2の実験が必要だったのかを詳細に説明しましょう。もし論文が図1から図6まである場合は、それぞれのつながりを上手に示すことが求められます。

 

Results(結果) まとめ

  • 図ごとに小見出しをつくり、実験結果を書いていこう
  • 具体的な背景や実験の進行過程も交えて、読者が理解しやすい形式で伝えよう
  • 小見出し間のつながりを意識しよう

 


Materials and Methods(実験方法)を書く

結果の項目と並行して書き進められるのが「実験方法」の項目です。すでに図は完成しているので、ここではそれをもとに、その図で示されている実験の手法を記載します。生命科学系の実験でしたら、「細胞培養」「RNA抽出」「リアルタイムPCR解析」「ウエスタンブロット解析」といった手法が該当するでしょう。

まずは、自分が記載すべき項目をリストアップしましょう。多くの項目がある場合には、関連した手法をまとめても良いです。「RNA抽出とリアルタイムPCR解析」など、関連した手法を1つにまとめてしまえばよいでしょう。

 

卒業論文の場合には、後輩がその項目を読めばそのまま再現できるくらい丁寧に記載しておくと、とても親切だと思います。試薬の組成、試薬の会社名、試薬の希釈率、反応時間など、読者が理解しやすい形で詳細に記述しましょう。「本人に聞かないと分からない」という状況ではなく、「あの先輩の卒論は極めて完成度が高く、これを読めばなんでもできる」くらいの卒論を目指してゆきましょう。

 

Materials and Methods(実験方法) まとめ

  • 図をもとに、自分が記載すべき実験手法の項目をリストアップしよう
  • 「読めばそのまま再現できる」くらい丁寧に記載することを心がけよう

 


Discussion(考察)を書く

さて、この辺りから執筆が難しくなってきます。これまでの項目は自分が行った実験についての情報ですので、比較的簡単に言語化できます。しかし、考察の項目は一筋縄にはゆきません。

学生さんにありがちなのが「結果の項目の繰り返しの記載」です。「図1に示すように、〇〇が分かった。これは××であることを意味する」といった表面的な説明では、考察とは言えません。「実験結果」と「結果の解釈」を述べただけです。その結果と解釈を踏まえ、さらにどういうことが言えるのか、先行研究と比べて何が同じで何が違うかを記載するのが考察です。

 

再び学生さんにありがちなのは「〇〇の反応時間が短かったから失敗した」といった、手技のミスを記載することです。これも考察ではありません。ミスをミスとして記載するのではなく、一つの実験結果として捉えるのも立派な考察です。「今回の反応時間では、〇〇と××が十分に反応していない可能性が挙げられる。今後、この反応時間をx時間長くし、さらに温度条件を変更すれば、△△という結果が得られると期待される」と書けば、立派な考察といえます。

 

なにより大切なのは、先行研究との比較です。一番比較しやすいのは、昨年度の先輩たちが得た結果との比較でしょう。以前と比べて今回はどうだったのか。何が違って、何が新しい結果と言えるのかなど記載できます。もちろん、学術論文を引用し、そこで示されている結果との比較ができればさらに良い考察が書けるでしょう。

つまり、考察の項目は、自分の研究に関連する分野をしっかり勉強しておかないと書き進めることが難しいのです。この点については、最後に少し触れてみたいと思います。

 

Discussion(考察) まとめ

  • 「結果」とその「解釈」を踏まえて、そこから何が言えるのか? を「考察」してみよう
  • Results(結果)で書いた内容の繰り返しにならないよう意識しよう
  • 先行研究と比較して、何が同じで、何が違うのか? 何が新しい結果といえるのか? を考えてみよう

 

 


Introduction (導入)を書く

Introductionは、読者が論文を理解するために必要な背景を紹介する項目です。この項目も、Discussionの項目と同じくらい執筆が難しいと言えます。これまでの知見や基礎的な知識を紹介するため、まずは自分がこの研究の背景を知っておくことが必要です。その上で、今回の論文を読み進める上で、読者たちが知っておくとスムーズに読み進められるような背景を紹介します。

 

例えば胚性幹細胞に関する卒業論文であれば、その細胞の樹立の経緯や、その細胞の性質など、基礎的な情報を紹介したら良いでしょう。何か新しい化合物の細胞毒性を研究した論文であれば、その化合物の化学的な構造やこれまでに明らかにされている性質などを記載したら良いでしょう。

 

少し書き進めてみるとわかりますが、「この情報はIntroductionに書くべきか、Discussionに書くべきか」を悩むこともあります。もちろん、両方の項目で言及しても良いと思いますが、完全に同じ文章・同じ情報だけを繰り返さないように留意してください。

 

Introduction (導入) まとめ

  • まずは自分自身が研究の背景を理解しておこう
  • 読者にどんな背景を伝えれば論文をスムーズに読んでもらえるか意識しよう

 


References(参考文献)の引用方法

学術論文を執筆する際には、各行に自分が述べる情報の根拠となった文献を参考文献として明示することが求められます。最近ではウエブサイトも情報源として示すことも多いですが、まだまだ過去の文献を引用することが一般的です。もちろん、すべての情報に対し参考文献を付与する必要はありません。教科書に載っているような一般的な知識については、参考文献を記載する必要はありません。

 

例えば生命科学の分野でいえば「DNAは二重らせん構造をとっている」「細胞の中には核があり、核にあるDNAに転写因子は結合する」などは一般的な知識であり、このような情報については引用文献は不要です。

一方で「〇〇という化合物は、細胞の増殖能を抑制する機能が知られている」や「××という遺伝子は、変異が入ると細胞のがん化を誘導する」など、この研究に携わっていないと知らないような情報は、その根拠となる情報源を示す必要があります。主にIntroduction、Materials & Methods、Discussionの項目では参考文献を引用しながら執筆します。

 

卒業論文では、学会誌や学術論文に加えて、自身が利用している教科書や同じ研究室の先輩たちの卒業論文なども引用の対象となります。ただし、指導教官の方針もあるため、進捗に合わせて相談しながら進めることが重要です。

 

References(参考文献) まとめ

  • 研究に携わっていないと知らないようなことの情報源を参考文献に記載しよう
  • 卒業論文の場合、どこまでを参考文献として載せるべきかは指導教官とも相談しよう

 


Abstract(要旨)を書く

要旨(Abstract)は論文全体の概要を簡潔にまとめたものであり、読者が研究内容や主な結果を把握するための重要な項目です。要旨を読むだけで論文全体の内容が把握できるよう、あらゆる情報が凝縮されています。

つまり、背景、方法、結果、考察、結論を端的に述べる必要があります。それぞれを数行でまとめるよう心掛けましょう。

記載項目をみれば分かるように、要旨は、論文全体が完成していないと書くことができない項目と言えるでしょう。

 

Abstract(要旨) まとめ

  • 論文全体を作ってから、それぞれの項目を端的にまとめよう

 

 


Title(タイトル)を考える

そして、いよいよタイトルの段階です。タイトルは論文の顔とも言える非常に重要な部分であり、魅力的で明確な表現が求められます。

タイトルの考え方は、実は「図のタイトル」と近いものがあります。「○○に関する研究」など、ざっくりとしたタイトルもありますが、「×××は効率的に細胞の増殖を抑制する」など、結論を端的に表現するスタイルも存在します。個人的には後者のスタイルをお勧めしています。自分の論文の内容を一言で表現することは重要なスキルであり、読者にとっても結論が明確に伝わるためです。

 

Title(タイトル) まとめ

  • 論文の顔となるため、魅力的で明確な表現を心がけよう
  • 結論を端的に表現するタイトルを考えてみよう

 


Acknowledgement(謝辞)を書く

最後に謝辞の項目です。この項目は論文全体を通して、唯一感情をこめて記載することができる項目です(他の項目は感情をいれず、事実を淡々と述べる必要があります)。

この研究を進める上で、いろいろな人からの協力があったことでしょう。そういった方々への感謝の気持ちを表しましょう。具体的に、誰に対してどのような点で感謝しているのかを述べます。指導教官、共同研究者、研究室のメンバー、友人、家族など、自分が感謝すべき人をよく思い出しましょう。中には自分のペットに感謝を述べるというユニークな謝辞も見たことがあります。

感謝の意を具体的に伝えることで、論文執筆に協力してくれた方々への敬意が表れます。

 

Acknowledgement(謝辞) まとめ

  • 研究を進めるうえで直接的・間接的に協力してくれた人たちのことを思い出そう
  • 感謝は具体的に伝えよう

 

 

おわりに

いかがでしたか?繰り返しになりますが、論文執筆で一番の難関は「考察」と「背景」の項目です。これらを執筆するには相当な知識が必要です。

自分の論文を書き始めてから関連分野を勉強するのは遅すぎます。普段から論文を読み、学会に参加し、全世界でどのような研究が進んでいるかを把握しておく必要があります。自分が今何を知っていて、何を知らないのかを明確にしておくことも重要です。

今からでも遅くありません。今日から自分の関連分野の勉強を始めましょう。

 

 

さぁ、論文執筆だ!

【著者紹介】赤木 紀之(あかぎ ただゆき)

1998年横浜市立大学生物学課程卒業。2004年東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。
日本学術振興会特別研究員DC1、UCLA医学部/シーダス・サイナイ医療センター血液学腫瘍学部門ポスドク、金沢大学医薬保健研究域医学系助教、同上准教授を経て、2020年4月より福岡工業大学工学部生命環境化学科教授。
海外日本人研究者ネットワーク(UJA)理事を兼任。

【主な活動場所】
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