膵臓ガンに対する新しい治療法の開発(11月1日 Science Translational Medicine 掲載論文他1編)

2023.11.17

今日は膵臓ガン制圧に向けた新しい経路についての研究を2編紹介する。

 

本日紹介する論文1

まず紹介したいのはテキサス大学からの論文で、膵臓ガン細胞特異的にフェロプトーシスを誘導して免疫を高める治療法の開発で、11月1日 Science Translational Medicine に掲載された。

 

タイトルは「Tumor-specific GPX4 degradation enhances ferroptosis initiated antitumor immune response in mouse models of pancreatic cancer(マウス膵臓ガンモデルで、腫瘍特異的に GPX4 を分解することでフェロプトーシスに誘導されるガン免疫を誘導できる)」だ。

 

解説と考察

細胞死では様々な炎症物質が周りにまき散らされる危険性があるため、アポトーシス過程はできる限り周りを巻き込まないよう細胞死を誘導してこっそり死ぬように出来ている。これはガンに対する免疫を誘導する観点からはマイナスに働く。一方、場合によっては周りを巻き込みながら大騒ぎして起こる細胞死もある。

 

この一つがフェロプトーシスで、ガンの周りに集まってきた白血球もフェロプトーシス型で死ぬことで、さらに白血球を呼び集めることが行われる。このように、ガン免疫という観点ではガン細胞のフェロプトーシスを誘導する治療法は理想的だが、現在得られるフェロプトーシス抑制因子 GPX4 を標的とする化合物は、ガンだけでなく白血球や腎臓など様々な細胞のフェロプトーシスを誘導するため利用が難しい。

 

この研究では膵臓ガン細胞特異的に GPX4 を抑制しフェロプトーシスを誘導する化合物を探索した。GPX4 が多くの細胞に発現していることを考えると、この不可能に挑戦したこと自体が立派だ。しかもうまい具合に N6F11 と名付けた化合物が見つかった。

 

この化合物は GPX4 に直接働くのではなく、ユビキチンリガーゼの一つ TRIM25 に働くことで GPX4 のユビキチン化、続く分解が誘導されることでフェロプトーシスが起こることを明らかにした。TRIM25 は低いレベルで多くの細胞に発現しているが、ガンでは発現が高く膵臓ガンでは発現は悪性度と相関している。

 

実際腫瘍を移植したマウスで投与実験を行うと、ガンの増殖を抑えることが出来、ガンではフェロプトーシスが起こっていることを確認できるが、浸潤している白血球を含め他の細胞ではフェロプトーシスを誘導できない。

 

重要なのは、ガンの抑制が完全にT細胞と死んだガン細胞から分泌された炎症分子に依存していることで、この治療をガン免疫を誘導するために利用できる可能性を示唆している。

 

このようにガン細胞特異的なユビキチンリガーゼを利用してGPX4を分解することが可能だとわかると、今後多くの製薬会社でより効率の高いリガンドが開発できる可能性がある。個人的には極めて有望な方法で、これまで免疫治療の対象になりにくかった膵臓ガンも対象に出来る。是非多くの会社で競争して追求して欲しい。

 

本日紹介する論文2

もう一つのイタリア・ミラノ、サンラファエロ研究所からの論文は IL1β とプロスタグランジンE2が膵臓ガンの治療標的になる可能性を示した研究で、11月1日 Nature にオンライン掲載された。

 

タイトルは「IL-1β + macrophages fuel pathogenic inflammation in pancreatic cancer( IL1β陽性マクロファージが膵臓ガンの病的炎症をたきつける)」だ。

 

解説と考察2

元々膵臓ガン周囲には炎症像が見られるので、この論文ではマクロファージに絞って調べ、膵臓ガン周囲のマクロファージが IL1β を発現していることに気づく。IL1β は自然炎症の主役だし、膵臓ガン周囲には炎症が見られるので特に意外性はないが、膵臓ガン周囲マクロファージで IL1β が誘導される仕組みを探った結果、以下のシナリオが明らかになっている。

 

膵臓ガンとマクロファージは、膵臓ガンが強く発現しているプロスタグランジン E2(PGE2) と TNF により刺激され、IL1β を発現、またこの IL1β は膵臓ガンの周りに炎症を強めるだけでなく、腫瘍にも直接働きかけて炎症細胞のリクルートメントに関わり、このサイクルが回ることで膵臓ガンがより悪性化する。

 

まとめ

以上の結果は、PGE2 と IL1β 経路をブロックすることで、膵臓ガンとマクロファージの相互増強回路を止める可能性があることを示しており、実際 COX2 がノックアウトされたガン細胞を移植すると増殖は低下するし、IL1β に対する抗体でガンの増殖が抑えられることも示している。また、Cox2 阻害剤でもある程度腫瘍の増殖が抑えられることも示している。

 

以上が主な結果で、最初の論文と比べると驚くほどではないが、しかしすぐに治験を行う可能性がある発見なので是非可能性を確かめて欲しいと思う。

著者紹介:西川 伸一

京都大学名誉教授。医学博士であり、熊本大学教授、京都大学教授、理化学研究所発生・再生科学総合研究センター副センター長などを歴任した生命科学分野の第一人者である。現在はNPO法人オール・アバウト・サイエンス・ジャパン (AASJ) 代表理事を務めながら、1日1報、最新の専門論文を紹介する「論文ウォッチ」を連載している。

【主な活動場所】 AASJ(オールアバウトサイエンスジャパン)
オールアバウトサイエンスジャパンは医学・医療を中心に科学を考えるNPO法人です。医師であり再生科学総合研究センター副センター長などを歴任された幹細胞や再生医療に関する教育研究の第一人者である西川伸一先生が代表理事を務められております。日々最新の論文を独自の視点でレビュー、発信されておりますのでご興味のある方はぜひお問い合わせください。

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