光学顕微鏡、SEM・・「とっても小さいもの」を見る色々な技術たち

2023.03.24

厳しい冬が終わり、春の息吹が感じられる季節になりました。この時期になると盛んに報道されることがあります。それは、花粉・PM2.5・黄砂といった小さな粒子たちです。

皆さんも花粉症や喘息、洗濯で困る機会も多くなるでしょう。

今回は、こういった小さな粒子を調べる方法を紹介していきたいと思います。

光学顕微鏡ー「人間が見る」のすごい版

まず皆さんが思いつくものとして顕微鏡があると思います。そうした"いわゆる顕微鏡"(下図)は、「光学顕微鏡」と呼ばれています。

「いわゆる顕微鏡」=光学顕微鏡

 

顕微鏡(光学顕微鏡)を用いると数百倍の倍率で1/1000 mmの世界が見えます。この性能を用いることで人類は細胞や細菌を発見してきました。

一方で、限界もあります。人間は可視光線と呼ばれる光の世界しか見ることが出来ません。このため、可視光線の波長(350 nm - 800 nm)より小さな世界は原理的に見ることができません。

野口英世が黄熱病の原因が分からなかったのは、病原体のウイルスが小さすぎるため光学顕微鏡で観察することが不可能だったからです。

 

電子顕微鏡ー「人間が見る」ことのできない世界へ

この問題を解決するためにはより小さな波長をもつ光を使う必要があります。この問題を解決したのは、20世紀に発見された物質波です。全ての粒子は同時に波の性質を持ち、この波のことを物質波と言います。マクロな世界では全く観測されませんが、電子のようなミクロな世界ではすべての粒子は波の性質を有します。また粒子が高いエネルギーを持つほど物質波の波長は短くなります。これらの性質を利用して、電子を光として用いた装置が電子顕微鏡です。

電子顕微鏡には主に走査型電子顕微鏡(SEM)透過型電子顕微鏡(TEM)の2種類があります。

SEMは、下記の画像のような立体感のある画像を出してくれます。SEMは光学顕微鏡で光を用いるのと同様に電子を試料に当てて、反射した電子や試料から発生した二次電子で像を作成します。皆さんが「電子顕微鏡画像」としてよくメディアで見るのはおそらくこんな画像ではないでしょうか。

走査型電子顕微鏡(SEM)で見ることのできる世界

 

一方TEMは、電子線を透過させて、"試料の後ろでできた平面的な画像"が観察できます。その分解能はすさまじく、最先端のTEMでは原子1個1個が識別できるレベルです。

透過型電子顕微鏡で見た細胞

 

電子顕微鏡は大きなエネルギーを持つ電子をぶつけるため、電子と原子の相互作用から電子やX線が原子から発生します。この性質を利用して「オージェ電子分光法」や「特性X線分析」といった他の分析も同時にできるメリットがあります。

さらに原子レベルで物体を見る方法の代表例としては走査型トンネル顕微鏡(STM)原子間力顕微鏡(AFM)があります。どちらも小さな針を試料表面に近づけてそこで発生する物理現象を用いることで原子1個1個の凹凸まで見ることができます。

質量分析で「見る」の先へ

ここまでは試料を画像として見る方法でした。試料の画像内のどこにどんな成分があるか調べる方法もあります。1つは、前述したSEMを用いる方法です。先ほど紹介したように電子を試料にぶつけると電子やX線が試料から発生します。これを分析することで試料の状態が観察できます。

別の方法として、二次イオン質量分析法(SIMS)があります。SIMSはイオンをぶつけて、試料から発生したイオンを質量分析で調べる方法です。SIMSはSEMとは異なりイオンをぶつけるため試料表面が削れます。このため試料内部まで観察することができます。PM2.5への応用例では日本海をわたってきたPM2.5は表面に海水の成分がついてることも分かり、内部の様子から発生源まで粒子1個単位で特定することも可能です。

まとめ

小さな世界を見る方法は多種多様な方法であり、目的用途にあわせて選択していく必要があります。今回は紹介できませんでしたが、試料を光らせて観察する蛍光顕微鏡や光の位相差を利用して細胞内部を観察する位相差顕微鏡などがあります。

こうした手法を組み合わせることで、現代科学はさまざまな発見をすることが可能となっています。この季節、花粉や黄砂のニュースを見たときにもこうした技術で発見・分析しているんだな、というような補足情報について、想いをめぐらせてみるのも面白いですね。

 

参考文献

走査電子顕微鏡(SEM)の原理と応用 | JAIMA 一般社団法人 日本分析機器工業会

透過電子顕微鏡(TEM/AEM)の原理と応用 | JAIMA 一般社団法人 日本分析機器工業会

実験指南(高橋).qxd (jst.go.jp)

高分解能電子顕微鏡(TEM) – 名古屋大学 次世代バイオマテリアル拠点 計測・分析分野 (nagoya-microscopy.jp)

Advances in atomic force microscopy Franz J. Giessibl Rev. Mod. Phys. 75, 949 – 29/06/2003

走査型トンネル顕微鏡(STM) : 日立ハイテク (hitachi-hightech.com)

PM2.5の真の姿を突き止めろ -工学院、1粒子ごとの分析が可能な顕微鏡を開発 | TECH+(テックプラス) (mynavi.jp)

 

【著者紹介】阿部武(あべたけし)

横浜国立大学化学生命系学科卒業。
学生時代には分析化学を専攻し、現在は分析機器関連のメーカーに勤務中。
学生時代の専攻と現職の影響から分析化学に関する記事の執筆を開始。実験結果が科学的に妥当と保証する分析化学の知識を、身近な話題とともに楽しく分かりやすく紹介できるように鋭意努力中。