#4 You are what you eat. 細胞の質は培地で決まる 細胞にとっての食事、「培地」の低コスト化を考える

2021.09.15 By Hayashi

この連載テーマについて

  • 経済産業省が運営する大学発ベンチャーデータベースに登録される企業から有力なスタートアップをご紹介
  • (経済産業省ページ:https://www.meti.go.jp/policy/innovation_corp/univ-startupsdb.html
  • 今回ご紹介する株式会社マイオリッジは新しい創薬支援用細胞の開発・販売、培地の改良を中心とした再生医療製品の低コスト化を手掛ける、京都大学発ベンチャー企業です。

前回に引き続き、京都大学発ベンチャーの株式会社マイオリッジをご紹介いたします。

1回目は、iPS細胞由来心筋細胞を中心とした、細胞を使った医薬品の非臨床試験の可能性について話題にしました。(#2 医薬品開発におけるiPS細胞由来心筋細胞の活用


マイオリッジは独自の分化誘導法を使って心筋細胞を非常に低コストで製造しており、その技術やノウハウを応用して、心筋以外の細胞向け培地開発も手掛けています。

この記事では、細胞を使った製品の製造コスト低減に重要である「培地」について、同社の活動と合わせてご紹介します。

 

 

細胞の増殖性、質を左右する「培地」

私たちが生きていくために食事が必要であるのと同様に、私たちの構成単位ともいえる細胞にも食事が必要です。細胞にとっての食事、それは培地です。

培地の中には、私たちが食事で摂取しているアミノ酸、ビタミン・ミネラル等に加え、生体内を巡る生理活性物質である多くのタンパク質が含まれています(ex:トランスフェリン、インスリン、サイトカイン)。
これらのタンパク質は細胞の増殖にとって重要な機能を果たしているため、ほとんどの細胞培養で添加されています。しかし、多くのタンパク質は動物由来や大腸菌から採れる組換体であるため、そのコストは他の培地成分と比べて非常に高額になってきます。

 

再生医療の普及には、「培地」の低コスト化が重要

視点を変えて、再生医療の普及という面で問題点を考えていくと、真っ先に製造コストの課題があげられます。
経済産業省がまとめた「2019 年度 再生医療・遺伝子治療の市場調査業務 最終報告書 2020年03月」においても、再生医療等製品の課題として、一番上に「製造コストの低コスト化」が記載されています。


製造スケールが上がるにつれて、なかでも細胞培養に必須となる培地のコスト、特にサイトカインをはじめとする高価な培地成分は、全体の製造コストの半分以上を占めるほどに膨れ上がることもあります。特に自家製品(患者様ご自身の細胞を使って製造する再生医療等製品)ではなく、同種製品(他の方の細胞を使用した再生医療等製品)では1ロットでの製造量が多くなるため、製造コスト全体の中で培地コストが占める割合が相対的に高くなってきます。製造工程の一部を機械化する等の改良をしても、どうしても食事量(培地)は減らせないからです。

 

製造コストの低い製品を設計することは、研究の初期段階から考慮すべき重要なポイントです。なぜなら、低コストで治療用の細胞を調製できなければ、いざ実用の段階になったときに広く普及しないからです。コスト低減の中でも「培地」が貢献できるスペースは、非常に大きいといえます。

 

心筋だけじゃない、低分子化合物や安価な培地成分を用いた「培地」の普及

そこでマイオリッジでは、自社で保有する低分子化合物や他培地成分のデータベース、及び特許出願中の培地成分探索技術等のノウハウを活用して、再生医療等製品の開発企業が抱える培地コスト、細胞収量、生物由来原料の含有といった課題を解決するための培地開発サービスを提供しています。

 

培地成分の選定では勿論コストだけではなく、得られる細胞収量・質も重要になってきます。求められる品質の細胞が生産できなければ、そもそも製品として成り立ちませんし、最終製品としての細胞収量が不十分だと患者さんへの投与量が確保できない場合も考えられます。収量が少ないと、単位収量当たりの製造コストも上がってきます。


培地に含まれる生物由来原料についても、考慮が必要です。治験開始前の規制当局への相談で、すべての生物由来原料はその由来、ウイルスを含まないこと等の説明が必要になるためです。1つでも説明できない原料があれば、治験で使用される製品として認められないこともあります。

 

AIの活用と、培養食品等への展開

マイオリッジは、プロテインフリー技術(iPS細胞から心筋細胞へと、タンパク質を一切使わない培地で分化誘導する独自の技術)だけでなく、多種多様な培地成分に関する経験・知識の活用と、高効率なスクリーニング機器を使用して、様々な細胞種での支援実績を重ねています。2021年からは、自社に蓄積された培地成分の知識や評価指標に関する情報、実際の培養結果のデータをAIに学習させて、より効果的な培地成分の選定をAIに担ってもらおう…ということで現在AI開発も進めているところです。

 

また、培地を大量に使う分野は、再生医療等製品だけではありません。がん治療のための抗体医薬品、現在国内外で注目を集める培養肉などの培養食品では、桁違いの培地消費量になります。これらの分野にも独自の培地探索技術を使って持続可能な社会へ貢献していきたいと、マイオリッジは考えています。

 

 

細胞を使った様々な製品が世の中に普及していくためには、品質だけでなくコストが重要な要素となってきます。
マイオリッジは、私たち人間にとっての食事と同じ存在である、細胞の栄養分「培地」に焦点を当てて、細胞が社会に浸透した未来を描いていきたいと思っています。
ご使用の培地に関して課題感を持っておられる方は、いつでもお問い合わせください。

本連載にて紹介するベンチャー企業情報は経済産業省が運営する大学発ベンチャーデータベースに掲載されております。 これまでにない技術やサービスに触れ、知識拡大やオープンイノベーションのきっかけにしてください!