ワクチン接種後に発症した脳静脈血栓症の解析 (8月6日 The Lancet オンライン掲載論文)

2021.09.17 By All About Science Japan

我が国のワクチン接種完了者はついに50%を突破し、今や米国を追い抜こうとしている。何千万という人が接種を受けると、様々な副反応が発生するのが当然で、それを正確に分析するのが医学の勤めだ。


我が国ではアデノウイルスベクターを用いるワクチンが使用されないのではと思っていたら、8月終わりぐらいから使用が始まったので、今日は英国の43施設から共同で8月6日、The Lancetにオンライン発表された、アストラゼネカワクチン接種後に起こった静脈血栓症の詳しい解析報告について、紹介することにした。


タイトルは「Cerebral venous thrombosis after vaccination against COVID-19 in the UK: a multicentre cohort study (英国でcovid-19ワクチン接種後に見られた脳静脈血栓症:他施設コホート研究)」だ。


すでにアデノウイルスベクターを用いたcovid-19(ad-V)で、VITT(ワクチンによる免疫性血栓性血小板減少症)と呼ばれる特有の副反応が発生することを紹介し(https://aasj.jp/news/watch/15740)、早期に発見して濃縮免疫グロブリン投与などを行えば、治療可能であることを紹介した。


ただ、血栓性の病変が脳静脈に広がれば話は別で、命に関わる。もともと脳静脈に血栓が起こること自体まれで、血液の出口が詰まるため、急速な脳浮腫が発生する。動脈が詰まる脳梗塞と異なり、凝固異常症が背景に存在し、経口避妊薬の副反応として起こるケースは一般にもよく知られている。


この研究に参加した英国の施設では、今年の4月から約2ヶ月間に、ワクチン接種後、脳静脈血栓症で入院した99例の患者さんについて、VITTを併発している群70例と、併発していない群20例に分けて、臨床的に検討している。

  1. VITTを併発した前例はアストラゼネカAd-V接種群で、mRNAワクチンでは発生しない。一方、VITTを併発しない群では、mRNA接種後のケースも見られるが、もともと脳静脈血栓のリスク因子を持っている場合が多く、血栓はワクチンとは因果関係がないことが統計的に確認できる。
  2. VITT併発群では、ワクチン接種から血栓症発症まで7−12日経過しており、平均9日。

  3. VITT併発例では、死亡例、あるいは後遺症が残る例が、33/90と高く、他の原因による脳静脈血栓症と比べても、生命の危険を伴う重症副反応であることを示している。

  4. その意味で、ワクチン接種後1週間以降から発生する頭痛を見れば、VITT併発脳静脈血栓かどうかを早期に診断することが重要だが、検査値は患者さんごとに大きく振れており、血小板数が正常の半分以下、PF-4に対する抗体の存在、D-dimer上昇といった基準にこだわらず、何らかの凝固異常があればVITT可能性有りとして治療することが重要。

  5. VITT併発群では多くの患者さんで、脳静脈だけでなく、脳外静脈にも血栓が見られ、腹痛などを併発することが多い。

  6. 濃縮グロブリン投与とともに、ヘパリン以外の抗凝固剤の投与が治療としては有効で、外科的な脳圧除去術を施行した群は、後遺症発生が全例防がれた。

さらに詳しい内容については、是非論文を読んで欲しいと思うが、Ad-V接種後1週間以降1ヶ月以内で、頭痛、嘔吐を訴える患者さんは、VITT併発脳静脈血栓症を疑い、命に関わるので、CTを含む適切な検査と治療を行える施設に搬送し、外科的介入も含めた治療を行うことが重要であるというメッセージだ。


もちろんVITTの発生自体は極めてまれだが、我が国でもおそらく100万人以上の単位でアストラゼネカワクチンが使用されると想定されるので、常に対応を準備しておくことが医療側の義務で、間違っても見落とすことは許されない。

オールアバウトサイエンスジャパンは医学・医療を中心に科学を考えるNPO法人です。医師であり再生科学総合研究センター副センター長などを歴任された幹細胞や再生医療に関する教育研究の第一人者である西川伸一先生が代表理事を務められております。日々最新の論文を独自の視点でレビュー、発信されておりますのでご興味のある方はぜひお問い合わせください。