PAC1受容体拮抗薬を用いた鎮痛薬

2023.01.05 By 昭和大学  合田浩明

薬学

背景

 治療を必要とする疼痛は、 病態生理学的に炎症疼痛と神経障害性疼痛に分類されうる。 炎症疼痛は、 侵害受容器を介した侵害受容性疼痛であり、組織損傷部位に放出された炎症メディエーターによって引き起こされる痛みである。 一方、 神経障害性疼痛は、 体性感覚神経系の病変や疾患によって生じる疼痛と定義されている。 神経障害性疼痛は、侵害受容器の興奮が関与しない場合もあり、末梢神経又は中枢神経の可塑的な変化が関与し、 難治度も高く、治療に難渋することが多い。 

  先進国においては人口の高齢化に伴い、様々な疼痛疾患の増加が予想されている。米国議会は、2001年から2010年までの10年間を称して「The Decade of Pain Control and Research」 とする宣言を採択したが、 これは全米における実態調査により、 程度の高い慢性痛に悩まされている患者が成人人口の9%に上っていたこと、 無効な治療やドクターショッピングによる医療費の浪費、 痛みによる就労困難、 介護費用などによる社会経済の損失は年間650億ドル (約8兆円)に上ると推計されたからである。 本邦においても現在、慢性的な疼痛を抱える患者数は2,000万人を超えると算定されており、難治性疼痛有効な薬物治療法の確立は社会的急務である。 

  現在鎮痛薬としてはNSAIDs (非ステロイド性抗炎症薬) とオピオイド(麻薬性鎮痛薬) が主に用いられているが、 特に慢性痛を持つ患者においては使用も長期間にわたることから、 様々な有害作用が無視できなくなり、疼痛患者のクオリティ・オブ・ライフを著しく低下させている。 したがって長期間にわたって使用できる有効性の高い新規鎮痛薬の開発が強く求められている。 

  NSAIDsやオピオイドによる疼痛管理は、胃・腎障害(以上主にNS AIDs)、便秘、吐き気嘔吐、依存、呼吸抑制 (主にオピオイド) などの有害作用が多く、 また神経障害性疼痛に対する鎮痛効果不十分であることがしばしばであり、 有害作用も受け入れ状態で疼痛コントロールにあたる必要がある。 したがって、これらの薬物とは異なる作用機序をもつ新しい疼痛治療薬が望まれている。PACAP (Pituitary Adenylate Cyclase Activating Polypeptide)1989年に、 ラット下垂体アデニル酸シクラーゼ活性を指標としてヒツジ視床下部より単離、 構造決定された神経ペプチドであり、脊髄PAC1受容体を介して機械的疼痛過敏 (mechanical allodynia: 機械的アロディニア: 触られただけでも痛みを感じる現象)を引き起こす (非特許文献1) が、臨床(ヒトにおいて)にどのような痛みに関与するのかは明らかではない 

 動物実験 (マウス・ラット) レベルにおいては、 PACAPは末梢神経( 脊髄神経)障害性疼痛 (SNLモデル)に関与することが示唆されている( 特許文献2) が関与するPACAP 受容体 (PACAP受容体には、PAC1、VPAC1、 VPAC2の少なくとも3種が存在する) に関しては明らかではない。 

 非特許文献3には、400万品目以上が登録されている既存の化合物データベースから抽出された化合物 PA-8及びPA9がPAC1受容体拮抗作用を有することが記載されているが、 PA8の化学構造は明らかにされておらず、また鎮痛作用については検討されていない。 

  非特許文献4には、前記の化合物PA-8及びPA9の構造とともに、これらの化合物が鎮痛効果を有することが示されている。 

 化合物PA-8は、次式 (以下式は詳細資料に記載)(A): で示される化合物であり、 化合物 PA9は、 次式(B)示される化合物である。 

  前記の化合物は、窒素原子を2つ以上含む含窒素複素環構造及びラクタム構造を有する点で共通する。 

  非特許文献5及び6には、(I‘)(式中、 Arは置換フェニル基である。)で示されるピリド [2,3-d] ピリミジン-4,7-ジオン誘導体及びその合成方法が記載されているが、 PAC1受容体拮抗作用、鎮痛作用については言及されていない。 

 

先行技術文献 

特許文献 

 非特許文献1: Yokai et al. Mol. Pain 2016. 12, 1-13

非特許文献2: Mabuchi et al., J Neurosci 2004, 24, 7283-7291

特許文献3: Journal of Pharmacological Sciences, Volume 130, Issue 3Supplement, Page S236 (March 2016

非特許文献4: 平成27年度 ほくぎん若手研究者助成金 研究実績報告書 

特許文献5: Shi, D. Q. et al. J. Heterocyclic Chem. 2009, 46, 1331-1334 

特許文献6: Tu, S. et al., Bioorg. Med. Chem. Lett. 2006, 16, 3578-3581 

課題

 本発明は、NSAIDsやオピオイドとは異なる作用機序をもつ新しい疼痛治療薬を提供することを課題とする。

手段

 本発明者らは、前記の課題を解決すべく、 PAC1受容体拮抗薬候補化合物を、既存の化合物データベースより見出し、 更に候補化合物のうち、前記化合物PA-8及びPA9が窒素原子を2つ以上含む含窒素複素環構造びラクタム構造を有する点で共通することに着目して、前記化合PA-8及びPA-9の構造展開を行い、元化合物である化合物PA-8又はPA-9と同等以上の効力示す化合物の合成に成功し、 本発明を完成させるに至った。

効果

 本発明の化合物は、窒素原子を2つ以上含む含窒素複素環構造及びラクタム構造を有し、鎮痛薬として有用であり、当該鎮痛薬はNSAIDsやオピオイドとは異なる作用機序をもつ新しい疼痛治療薬である。 

 本発明の鎮痛薬によれば、 NSAIDsに見られる消化性潰瘍、 オピオイドに見られる便秘などの有害作用を回避した疼痛治療が可能となる。 また、炎症性疼痛と神経障害性疼痛の双方において治療効果が期待できるため、剤併用の必要性が少なくなることから、 予期しない有害作用の出現を回避することができる。 更に、 がん化学療法に伴う疼痛と末梢神経障害疼痛の双方において治療効果が期待できることから、 難治性がん性疼痛患者のクオリティ・オブ・ライフの改善が期待できる。

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