難治性末梢循環障害に対するボツリヌス毒素局所注入療法

2022.10.13 By 群馬大学

薬学

技術概要

難治性末梢循環障害であるレイノー現象や手指の皮膚潰瘍に対して、手掌にボツリヌス毒素を皮下注射することで、血管拡張作用、酸化ストレス抑制作用によって、著明な末梢循環不全の改善効果が得られた。またその治療効果は3か月間継続して得られた。

用途・応用

・強皮症患者における末梢循環障害に対する治療薬
・強皮症以外の末梢循環障害(バージャー病など)に対する治療薬
・褥瘡(じょくそう)の発生を予防する治療薬(予防薬

背景

 レイノー現象は、手指の小動脈の攣縮が起こり、末端部が一過性に虚血になり、その後、再還流が起こることによって、手指の色調が発作的に変化する現象である。寒冷刺激や精神 的 ス ト レ ス に よ っ て 誘 導 さ れ る 。 手 指 の 小 動 脈 の 虚 血 再 還 流 に よ っ て 、 白 (虚 血 )、 紫(チアノーゼ)、赤(再還流)の三相性の色調に変化する。長期間にわたって疼痛、痺れを 来 す た め に 患 者 の 日 常 生 活 に 著 し い 影 響 を 及 ぼ し 、 極 度 の QOLの 低 下 を も た ら す 。 末 梢血流低下による循環障害を来たしやすく、また軽微な外傷によって潰瘍を生じやすい。レイノー現象に伴う指尖部潰瘍は難治例が多い。細菌感染を起こした場合には、潰瘍が拡大し骨髄炎や関節炎を伴い、指趾切断に至る可能性もある。また、創部の細菌感染から敗血症を呈し、生命予後を左右することもあるため早期の適切な治療が重要である。

 レ イ ノ ー 現 象 に 対 す る 現 状 行 わ れ て い る 薬 物 治 療 と し て は 、 一 般 的 に は ビ タ ミ ン E製 剤 (ニコチン酸トコフェロールなど)、カルシウム拮抗薬(ニフェジピンなど)、プロスタグランジン製剤(内服;リマプロスト、ベラプロスト、注射;アルプロスタジル)、セロトニン拮抗薬(塩酸サルポグレラート)、血小板凝集抑制薬(シロスタゾール、ジピリダモール)などの血管拡張作用、抗血小板作用のある薬剤や抗凝固薬のアルガトロバンの点滴、エンドセリン受容体拮抗薬(ボセンタン)などが使用されているが、これらの内服薬、点滴薬は有効性が低い。

 近 年 、 A型 ボ ツ リ ヌ ス 毒 素 の 局 所 注 入 に よ っ て レ イ ノ ー 現 象 の 症 状 が 顕 著 に 改 善 し た 報 告が 散 見 さ れ た (非 特 許 文 献 1 ~ 6 )。 ボ ツ リ ヌ ス 毒 素 は 、 ボ ツ リ ヌ ス 菌 か ら 産 生 さ れ る 神 経毒素で、神経終末からエンドサイトーシスによって取り込まれ、シナプス小胞のシナプス前膜への融合に直接関与するたん白質の複合体(融合複合体)の特定部位を切断し、シナプ ス 小 胞 か ら の Ca 依 存 性 ア セ チ ル コ リ ン の 放 出 を 阻 害 す る 。 そ の 結 果 、 神 経 筋 伝 達 を 阻害 し 、 筋 の 麻 痺 を き た す 。 毒 素 型 に よ り 切 断 す る た ん 白 質 が 異 な り 、 B型 ボ ツ リ ヌ ス 毒 素は VAM P( vesicle‑associated membrane protein: synaptobrevin: シ ナ プ ス 小 胞 膜 た ん 白質 の 一 つ ) を 、 A 型 ボ ツ リ ヌ ス 毒 素 は SNAP‑25( synaptosome‑associated protein of molecular weight 25,000 dalton: シ ナ プ ス 前 膜 に 存 在 す る 膜 結 合 た ん 白 質 の 一 つ ) を 特 異的に切断することで、末梢のコリン作動性神経終末からのアセチルコリン放出を抑制し、神経筋伝達を阻害することにより筋の麻痺をきたす。このようにアセチルコリン放出抑制のメカニズムは異なるものの、神経筋伝達の阻害作用は両毒素型とも同様であると考えられている。

 レイノー現象では、ボツリヌス毒素が血管平滑筋への情報伝達を遮断することによって、指趾の小動脈の攣縮(一過性収縮)を抑制し、末梢循環を改善させることが期待される。ま た 、 ボ ツ リ ヌ ス 毒 素 が 、 痛 み や 痺 れ の 原 因 と な る 神 経 伝 達 物 質 (サ ブ ス タ ン ス Pな ど )を抑制することによってレイノー現象の痛み、痺れも改善することが期待される。

 本 発 明 者 ら は 、 10人 の レ イ ノ ー 現 象 を も つ 患 者 に 対 し て A型 ボ ツ リ ヌ ス 毒 素 を 手 指 基 部 に注 入 す る 医 師 主 導 自 主 研 究 を 行 っ た 。 レ イ ノ ー 現 象 の 見 ら れ る 指 1本 を 選 択 し 、 そ の 基 部の 左 右 に 10単 位 ず つ ( 合 計 20単 位 ) A型 ボ ツ リ ヌ ス 毒 素 の 皮 下 注 入 を 行 っ た 。 レ イ ノ ー スコ ア に よ る レ イ ノ ー 症 状 の 重 症 度 ( 頻 度 、 色 調 、 持 続 時 間 な ど ) と 痛 み ・ 痺 れ ( VAS) は、 投 与 前 と 比 較 し て 投 与 4週 間 後 で は 有 意 に 低 下 し 、 そ の 効 果 は 16週 間 持 続 し て 観 察 さ れた 。 冷 水 負 荷 直 後 か ら 20分 後 の 皮 膚 温 度 の 回 復 度 は 、 投 与 前 と 比 べ て 、 4週 間 後 で は 有 意に 上 昇 し て い た 。 指 尖 部 潰 瘍 ( 5例 ) は 12週 間 後 ま で に 全 て 上 皮 化 し た 。 全 て の 症 例 で 筋力 低 下 や 疼 痛 な ど の 副 作 用 は み ら れ な か っ た 。 こ の 自 主 研 究 に よ っ て 、 A型 ボ ツ リ ヌ ス 毒素 10単 位 局 所 注 入 の 安 全 性 や 有 効 性 を 確 認 す る こ と が で き た (非 特 許 文 献 7 )。

 B型 ボ ツ リ ヌ ス 毒 素 は 、 値 段 が A型 の 約 6割 と 安 い こ と 、 効 果 発 現 が 早 い こ と 、 疼 痛 へ の 効果 が 高 い こ と な ど が 知 ら れ て い る 。 し か し 、 こ れ ま で に B型 ボ ツ リ ヌ ス 毒 素 の レ イ ノ ー 現象に対する治療効果を検証した報告はない。特許文献1にはボツリヌス毒素のレイノー現象 へ の 利 用 が 開 示 さ れ て い る が 、 A型 が 主 に 使 用 さ れ て お り 、 実 際 の 臨 床 デ ー タ は 示 さ れていない。ま た 、 B型 ボ ツ リ ヌ ス 毒 素 の 使 用 量 ( 単 位 ) は A:B=1:20~ 40ぐ ら い の 比 率 で 使 用 す る と 、ほぼ同等の効果を有すると考えられている(非特許文献8)が、レイノー現象に対する治療効果を示す濃度は不明である。

【先行技術文献】
【特許文献】
【 特 許 文 献 1 】 特 表 2007‑517890
【非特許文献】
【 非 特 許 文 献 1 】 Arch Dermatol. 2012; 148: 426‑428.
【 非 特 許 文 献 2 】 J Hand Surg. 2010; 35A: 2085‑2092.
【 非 特 許 文 献 3 】 Plast Reconstr Surg. 2009; 124: 191‑201.
【 非 特 許 文 献 4 】 J Hand Surg. 2009; 34A: 446‑452
【 非 特 許 文 献 5 】 Plast Reconstr Surg. 2007; 119: 217‑226.
【 非 特 許 文 献 6 】 Eur J Clin Invest. 2004; 34: 312‑313.
【 非 特 許 文 献 7 】 J Dermatol. 2016; 43(1): 56‑62.
【 非 特 許 文 献 8 】 Toxicon. 2015; 107(Pt A): 77‑84.

課題

 本発明はレイノー現象の安価で効能に優れた治療薬を提供することを課題とする。

手段

 本 発 明 者 は 上 記 課 題 を 解 決 す べ く 鋭 意 検 討 を 行 っ た 結 果 、 B型 ボ ツ リ ヌ ス 毒 素 が レ イ ノ ー現象の治療において安全性かつ有効性を有することを見出し、さらに、レイノー現象に対す る 治 療 効 果 を 示 す B型 ボ ツ リ ヌ ス 毒 素 の 容 量 、 濃 度 を 明 ら か に し た こ と に よ り 、 本 発 明を 完 成 さ せ る に 至 っ た 。 す な わ ち 、 本 発 明 は 、 B型 ボ ツ リ ヌ ス 毒 素 を 有 効 成 分 と す る レ イノー現象治療用医薬組成物を提供する。

効果

 レイノー現象は、末梢動脈の一過性攣縮によって手指の色調が変化する現象であり、長期間 に わ た っ て 疼 痛 、 痺 れ を 来 す た め に 患 者 の 日 常 生 活 に 著 し い 影 響 を 及 ぼ し 、 極 度 の QOLの低下をもたらす。認可されている治療薬を使用していたとしても多くの症例においてレイノー現象の発現を抑えることができず、症状が増悪すること多く、確立した有効な治療法がないことが問題となっている。このように、既存の治療法で改善のみられないレイノー 現 象 に 対 し て 、 B型 ボ ツ リ ヌ ス 毒 素 の 局 所 注 入 療 法 を 行 う こ と に よ っ て レ イ ノ ー 現 象 の痺れ、痛み、冷感といった症状の改善が期待できる。また、レイノー現象によって引き起こされる様々な合併症(手指潰瘍、細菌感染、壊疽など)も予防、治療することが可能となる。治療期間の短縮、患者の負担軽減、医療費用の節約にもつながる。 

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特許情報

特開2018-172344

JPA 2018172344-000000