希土類金属(Re)を室温かつ低濃度水素雰囲気下で水素化して半導体ReH3を製造する方法を提供する

2024.10.22 By 埼玉大学

機械工学

技術概要

 室温かつ低濃度(3%以下)の水素雰囲気下において、イットリウムやイッテルビウム、スカンジウムなどの希土類金属(Re)を水素化して半導体相ReH3を生成し得る製造方法、室温環境で使用できる水素センサー、および希土類水素化物半導体をチャンル層とする薄膜トランジスターとその製造方法を提供する。

用途・応用

水素センサー、薄膜トランジスタ(TFT)

背景

従来から、希土類二水素化物と希土類三水素化物間の金属−半導体転移を利用したスイッチングミラー(例えば、非特許文献1、特許文献1等)や水素センサー(例えば、非特許文献2)が研究され、また、希土類水素化物金属を利用したデバイスとして冷陰極管等が知られている(例えば、非特許文献3、特許文献2等)。すなわち、希土類二水素化物(例えば、YH 2 (イットリウム二水素化物)等)は金属(以下、「希土類水素化物金属」という。)であり、希土類三水素化物(例えば、YH 3 (イットリウム三水素化物)等)は半導体(以下、希土類水素化物半導体)という。)である。希土類水素化物金属の特徴的な性質として、正孔と電子の濃度差が小さく(両極性伝導)、両者の移動度の差も小さいことからホール電圧が極めて小さいという性質があり、この希土類水素化物金属の性質を利用したデバイスとして、例えば、スピン流生成素子が知られている(特許文献3、4等)。
【先行技術文献】
【特許文献】

【特許文献1】特表平11−514107号公報
【特許文献2】特開2004−91284号公報
【特許文献3】特許第5551912号公報
【特許文献4】特許第5601976号公報
【特許文献5】特開2015−065282号公報
【特許文献6】特開2015−118994号公報
【非特許文献】

【 非 特 許 文 献 1 】 Physical Review B vol57(1998)pp.4943-4949
【 非 特 許 文 献 2 】 Mater.Trans.48(2007)pp.635-636
【 非 特 許 文 献 3 】 Jpn.J.Appl.Phys. vol39(2000)pp.4933-4938
【 非 特 許 文 献 4 】 Thin Solid Films Vol.624(2017)pp.175-180
【 非 特 許 文 献 5 】 J.Alloy.Com. Vol.239(1996)pp.158-171

課題

 希土類水素化物の製造方法としては、例えば、希土類元素の膜を水素を含む雰囲気下で熱処理する方法がある(非特許文献3)。しかし、希土類元素の膜は極めて酸化し易いため、この方法では、酸化防止のために、水素化炉として、真空引きが可能で且つ到達真空度が高水準な炉が要求され、高価な真空装置でしか対応できない。また、水素を含む雰囲気が、取り扱いが容易な爆発限界未満の水素分圧の低い雰囲気(例えば、水素3体積%と不活性ガス97体積%の混合ガス)下では、希土類水素化物の金属(例えば、YH 2 ) は生成するが、希土類水素化物の半導体(例えば、YH 3 )は生成しない。また、希土類元素の膜上に水素選択透過膜を形成した積層膜を水素を含む雰囲気(例えば、水素3体積%+不活性ガス97体積%の混合ガス雰囲気)下で加熱する方法が知られている(非特許文献4等)。図14はY(イットリウム)膜に水素選択透過膜としてPd(パラジウム)膜を形成した積層膜(Pd:80nm/Y:500nmの積層膜)を水素3体積%+Ar97体積%の混合ガス雰囲気下、各種温度で熱処理したときの、Y膜中に生成したYH 2 (金属)とYH 3 ( 半 導 体 )の 割 合 を 示 し て い る 。 図 1 4 か ら 、 室 温 か ら 2 0 0 ℃ の 温 度 で金属(YH 2 )が生成し、300℃以上になると半導体(YH 3 )が生成するが、400℃まで加熱しても半導体(YH 3 )はY膜の半分以上の割合には達しないことがわかる。
また、図15は、Y膜に水素選択透過膜としてNi(ニッケル)膜を形成した積層膜(Ni:80nm/Y:500nmの積層膜)を水素3体積%+Ar97体積%の混合ガス雰囲気(以下、「3体積%H 2 +97体積%Ar雰囲気」とも略称する)下、各種温度で熱処理したときのY膜中に生成したYH 2 (金属)とYH 3 (半導体)の割合、図16は、Y膜に水素選択透過膜としてNi/Pd膜を形成した積層膜(Ni/Pd:95nm/Y:500nmの積層膜)を水素3体積%+Ar97体積%雰囲気下、各種温度で熱処理したときの、Y膜中に生成したYH 2 (金属)とYH 3 (半導体)の割合を示している。水素選択透過膜にPd膜を使用した場合、YH 3 (半導体)の生成が115℃で確認され(図15)、水素選択透過膜に(Ni/Pd膜)を使用した場合に、YH 3 (半導体)が生成する温度がさらに低温化している(図16)ことが分かる。しかし、いずれの場合も、室温での希土類水素化物半導体の生成は困難である。

 本発明者等の知見によれば、希土類水素化物半導体は多結晶であることから移動度が高いことが予想される。それ故、希土類水素化物半導体を薄膜トランジスターのチャネル層に適用することが期待でき、さらに希土類水素化物半導体のさらなる低温での生成(製造) が 可 能 に な れ ば 、 有 機 発 光 ダ イ オ ー ド ( O L E D : Organic Light Emitting Diode) に代 表 さ れ る 有 機 E L ( Electro-Luminescence) 素 子 を 利 用 し た 表 示 パ ネ ル 等 に お け る 、 高 移 動 度 薄 膜 ト ラ ン ジ ス タ ー ( T F T : Thin Film Transistor) の チ ャ ネ ル 層 へ の 適 用 も 期待できる。また、希土類水素化物半導体のさらなる低温での生成(製造)が可能になれば、フレキシブル基板上にも希土類水素化物半導体の膜を容易に形成することが可能になる。

 従って、本発明の解決課題は、低温(特に、室温)の低濃度水素雰囲気下においても希土類水素化物半導体を生成し得る希土類水素化物の製造方法を提供することにある。また、室温環境で使用できる水素センサーを提供すること、さらには、希土類水素化物半導体をチャンル層とする薄膜トランジスターとその製造方法を提供することにある。 

手段

 本発明者等は上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、以下の構成を採ることで、上記の課題を解決できることを見出した。

 すなわち、本発明は以下の通りである。
[1] 希土類元素膜上に白金膜が形成された積層膜を水素を含む雰囲気下で熱処理する
ことを含む、希土類水素化物の製造方法。
[2] 希土類水素化物が希土類水素化物半導体である、上記[1]記載の方法。
[3] 水素を含む雰囲気が爆発限界以下の量の水素を含む雰囲気である、上記[1]または[2]記載の方法。
[4] 熱処理温度が室温である、上記[1]〜[3]のいずれか1つに記載の方法。
[5] 希土類元素膜が、Sc(スカンジウム)、Y(イットリウム)、Gd(ガドリニウム)、Eu(ユウロピウム)及びYb(イッテルビウム)からなる群から選択されるいずれか一種の元素または二種以上の元素を含む、上記[1]〜[4]のいずれか1つに記載の方法。
[6] 希土類水素化物金属膜及び該希土類水素化物金属膜上に形成された白金膜を有する水素センサー。
[7] チャネル層が希土類水素化物半導体を含むことを特徴とする薄膜トランジスター

[8] チャネル層が希土類水素化物半導体を含む薄膜トランジスターを製造する方法で
あって、下記の工程A及び工程Bを含むことを特徴とする薄膜トランジスターの製造方法。
 工程A:絶縁性基板上に、ゲート電極、該ゲート電極を覆うゲート絶縁膜、該ゲート絶縁膜上に配設される希土類元素膜、該希土類元素膜上に配設されるソース電極及びドレイン電極、該希土類元素膜、該ソース電極及び該ドレイン電極を覆うパッシベーション膜、並びに該パッシベーション膜を被覆する白金膜を順次形成する。
 工程B:工程Aを経て得られた積層構造体を水素を含む雰囲気内で熱処理する。
[9] 工程Aに代えて、下記の工程Cを有し、工程Bが、下記の工程Cを経て得られた積層構造体を水素を含む雰囲気内で熱処理する工程に変更された、上記[8]記載の方法。
 工程C:絶縁性基板上に、ゲート電極、該ゲート電極を覆うゲート絶縁膜、該ゲート絶縁膜上に配設されるソース電極及びドレイン電極を順次形成した後、該ゲート絶縁膜上の該ソース電極、該ドレイン電極及びこれら電極の周辺部のみを覆う希土類元素膜、並びに該希土類元素膜を被覆する白金膜を順次形成する。
[10] 水素を含む雰囲気が爆発限界以下の量の水素を含む雰囲気である、上記[8]または[9]に記載の方法。
[11] 熱処理温度が室温である、上記[8]〜[10]のいずれか1つに記載の方法
。 

効果

 本発明によれば、低温(特に、室温)かつ低濃度水素雰囲気下で、希土類水素化物半導体を生成し得る希土類水素化物の製造方法を提供することができ、特に、低温(特に、室温)かつ低濃度水素雰囲気下で、多結晶の希土類水素化物半導体膜を形成できる希土類水素化物の製造方法を提供することができる。

 また、本発明によれば、室温環境で使用できる水素センサーを提供することができる。

 また、本発明によれば、多結晶の希土類水素化物半導体をチャネル層とする薄膜トランジスター及びその製造方法を提供することができる。

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特許情報

特許第7219930号

JPB 007219930-000000

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