自走式昇降装置

2022.10.17 By 神奈川大学

機械工学

技術概要

走行中にテザー(軌道ベルト)と駆動ローラとの間の摩擦係数が変化する場合でも、少ない駆動トルクで滑りが少ない昇降動作を実現する。 

用途・応用

宇宙エレベーター

背景

 昇降装置としては、人や物を収容する籠体を鉛直方向に沿って又は鉛直方向に対して傾斜した方向に沿って昇降させるエレベータ(昇降装置)が知られている。昇降装置としては、籠体には昇降用の駆動装置を設けず、籠体を支持するロープ(ワイヤー)を駆動させることで籠体を昇降させるロープ式(トラクション式)のものが広く利用されている。しかしながら、ロープ式の昇降装置は、ロープを駆動させる関係で、例えば移動距離が長いケース(例えば、地球上から静止軌道以上まで延びる昇降経路を昇降する宇宙エレベータあるいは軌道エレベータとして使用するケース)においては、採用が困難である。一方、昇降経路に沿って配置された経路部材に沿って走行して昇降する自走式の昇降装置も知られている。自走式の昇降装置であれば、籠体に設けられる昇降用の駆動装置によって経路部材に沿って走行するので、経路部材を固定的に配置することが可能であり、上述したロープ式の昇降装置が不得手とする昇降距離の長いケースでも、採用が比較的容易である。

 特許文献1に開示された自走式の昇降装置は、経路部材として、断面円形状のワイヤーではなく、扁平なベルト状部材が用いられている。この昇降装置は、駆動ローラとこれを昇降方向に沿って挟み込むように配置された2つの従動ローラとを備え、駆動ローラに対してベルトを約半周分巻き付くように、2つの従動ローラと駆動ローラとの間にベルトを挟持する。各従動ローラと駆動ローラとの挟持により駆動ローラとベルトとの間の摩擦力が確保されているので、駆動ローラが回転駆動すると、駆動ローラはベルト上を転がり移動する。これにより、駆動ローラが取り付けられている昇降装置は、ベルトに沿って昇降することができる。

 ベルトの厚みが昇降方向において均一でない場合、厚みの大きなベルト部位が駆動ローラと従動ローラとの間に挟持されたときに過剰な挟持力が発生して、ベルトやローラが損耗しやすくなる。これを考慮して、前記特許文献1に開示された昇降装置では、駆動ローラに対して従動ローラを付勢する付勢手段として電動シリンダを用い、この電動シリンダを制御してその付勢力を変更できる構成となっている。この昇降装置において、駆動ローラに接続された駆動源に対してトルク指令を伝送する制御部は、駆動ローラを回転駆動させるとともに、その回転駆動に伴う負荷トルク値を検出する。そして、この負荷トルク値が所定の閾値よりも大きくなったとき、駆動ローラと従動ローラとの間に厚みの大きなベルト部位を挟み込んだものと判断し、電動シリンダを制御して、駆動ローラに対する従動ローラの付勢力を弱める。

 一方、検出した負荷トルク値が所定の閾値よりも小さくなったら、駆動ローラと従動ローラとの間に厚みの小さなベルト部位を挟み込んだものと判断し、電動シリンダを制御して、駆動ローラに対する従動ローラの付勢力を強める。前記特許文献1によれば、このような制御を行うことで、駆動ローラの回転駆動に伴う負荷に応じて駆動ローラに対する従動ローラの付勢力が動的に適切な値に調節されるとしている。その結果、ベルト及びローラの損耗を抑えることができるとともに、ベルトとローラとの間の滑りを抑制した昇降駆動が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【特許文献1】特開2011-219267号公報

課題

 一般に、ベルト等の経路部材に沿って走行して昇降する自走式の昇降装置において、エネルギー効率のよい昇降駆動を実現するためには、なるべく少ない駆動トルクで、かつ、経路部材と駆動回転体との間でなるべく滑りを発生させないことが求められる。滑りを発生させないようにするためには、経路部材と駆動回転体との間の摩擦力を十分に大きくとることが必要である。

 駆動回転体と経路部材との間に作用し得る摩擦力F 0は、μ=F 0/Nで表されるように、駆動回転体と経路部材との間の摩擦係数μと、経路部材と駆動回転体との間に働く垂直抗力Nとの関係で決まる。駆動回転体及び経路部材は、これらの部材が他の目的(摩耗耐性など)によって選択されるものであることから、これらの間の摩擦係数μを高めることには制限がある。一方、経路部材を挟持する駆動回転体と従動回転体との挟持力を大きくすれば、高い垂直抗力Nを得ることが可能である。そのため、滑りを少なくするために経路部材と駆動回転体との間の摩擦力を高める場合には、経路部材を挟持する駆動回転体と従動回転体との挟持力を大きくして高い垂直抗力Nを得る必要がある。しかしながら、駆動回転体と従動回転体との挟持力を大きくすると、駆動回転体を回転駆動するための駆動トルクが増大する。したがって、なるべく少ない駆動トルクで滑りの少ない昇降動作を実現するためには、経路部材と駆動回転体との間に常に必要最小限の垂直抗力Nを作用させることが重要となる。

 ところが、必要最小限の垂直抗力Nの値は、駆動回転体と経路部材との間の摩擦係数μによって異なってくる。摩擦係数μは、温度や湿度等の環境条件、駆動回転体と経路部材との間に介在する付着物の種類や量などによって刻々と変化するため、必要最小限の垂直抗力Nの値も、刻々と変化することになる。このとき、摩擦係数μが直接的に観測できるようなパラメータであるならば、摩擦係数μの観測結果に応じて駆動回転体と従動回転体との挟持力を制御し、経路部材と駆動回転体との間に常に必要最小限の垂直抗力Nを安定して作用させることが可能である。しかしながら、摩擦係数μは直接的に観測できるようなパラメータではないので、このような制御を実現することは困難である。

 一方、前記特許文献1に開示の昇降装置では、上述したように、負荷トルク値が所定の閾値よりも小さいことを検出したとき、厚みの小さなベルト部位を挟み込んだと判断する。そして、厚みの小さなベルト部位を挟み込んだことによって不足することになる駆動ローラとベルトとの間の垂直抗力Nの不足分を、従動ローラの付勢力を強めることで補うという制御を行い、摩擦力不足による滑りの発生を抑制する。そのため、厚みの小さなベルト部位を挟み込んだときに設定される従動ローラの付勢力、すなわち、駆動ローラと従動ローラとの挟持力は、滑りを十分に抑制できる十分に大きな垂直抗力Nが得られるような値に設定される。そして、そのように設定された従動ローラの付勢力は、厚みの大きなベルト部位が挟み込まれて負荷トルク値が所定の閾値よりも大きくなるまで、維持される。したがって、前記特許文献1に開示の昇降装置は、滑りの少ない昇降動作は実現可能であるが、経時的に大きな駆動トルクが必要であり、エネルギー効率のよい昇降動作を実現することはできない。

 本発明は、以上の背景に鑑みなされたものであり、その目的とするところは、自走式の昇降装置において、走行中に経路部材と駆動回転体との間の摩擦係数が変化する場合でも、少ない駆動トルクで滑りが少ない上昇動作又は下降動作を実現することが可能な昇降装置を提供することである。

手段

 前記目的を達成するために、請求項1の発明は、昇降経路に沿って配置された経路部材に沿って走行して昇降する自走式昇降装置において、駆動源からの駆動力によって回転駆動する駆動回転体と、前記駆動回転体との間に前記経路部材を挟持する従動回転体と、前記駆動回転体と前記従動回転体との間の挟持力を変動させる挟持力変動手段と、前記駆動回転体及び前記従動回転体の回転速度を示す回転速度情報を検出する回転速度情報検出手段と、前記回転情報検出手段の検出結果に基づいて前記駆動回転体の回転速度と前記従動回転体の回転速度との間に所定値以上の速度差が生じたか否かを判断する判断手段と、前記挟持力が経時的に減少するように前記挟持力変動手段を動作させる制御を行うとともに、その制御中に前記判断手段が所定値以上の速度差が生じたと判断した場合には該挟持力を増加させるように該挟持力変動手段を制御する挟持力制御手段とを有することを特徴とするものである。
 一般に、従動回転体と経路部材との間の摩擦係数が多少低くなっても、これらの間では実質的な滑りが生じることはないが、駆動回転体と経路部材との間では摩擦係数が低くなると、これらの間では滑りが生じやすい。駆動回転体と経路部材との間で滑りが発生すると、負荷トルクの減少によって駆動回転体の回転速度が急激に高まり、駆動回転体と従動回転体との間に回転速度差が生じる。したがって、この回転速度差を検出することで、駆動回転体と経路部材との間の摩擦係数が滑りを生じさせるほどに低下したことを把握することができる。本自走式昇降装置においては、所定値以上の回転速度差が生じた場合に駆動回転体と従動回転体との間の挟持力を増加させる制御を行う。これにより、当該所定値を適切に設定することで、滑り始めの早い段階で、駆動回転体と経路部材との間に働く垂直抗力Nを増大させ、滑りを迅速に無くすことができる。
 一方、本自走式昇降装置においては、このように挟持力を増加させても、その後にその挟持力を経時的に減少させる制御が行われる。そのため、増加させた後の大きな挟持力がずっと維持されるわけではなく、挟持力は、上述のように増加させた後、徐々に弱まっていく。このように挟持力が徐々に弱まるので、いずれは再び滑りが生じ始めることになるが、その際には再び挟持力を増加させる制御が行われ、すぐに滑りが無くなる。このような制御を継続することで、駆動回転体と経路部材との間の摩擦係数が刻々と変動する状況であっても、駆動回転体と従動回転体との挟持力は、滑りを生じさせない必要最小限の範囲内で変動を繰り返すことになる。その結果、駆動源の駆動トルクを必要最小限の範囲内に安定して抑えることができる。 

効果

 本発明によれば、自走式昇降装置において、走行中に経路部材と駆動回転体との間の摩擦係数が変化する場合でも、少ない駆動トルクで滑りが少ない上昇動作又は下降動作を実現することができるという優れた効果が得られる。

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特許情報

特開2014-019535

JPA 2014019535-000000