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スーパーコンテニューム(SC)光源を用いて、光化学反応プロセスの過渡吸収を高感度で時間分解観測する技術を開発した。SC光源のパルストレインとしての性質を生かして、レーザーフラッシュフォトリシス後に連続的なキャビティリングダウン信号を取り込み過渡吸収信号を得る。生体分子などの稀少サンプルでの測定に有効です。
生体分子測定
過渡吸収測定装置は、励起光を照射したサンプルの光化学反応中間体等を、試料にプローブ光を照射して、透過光を検出することにより測定する装置として知られている。試料は、固体、液体、気体を問わず適用がされている。
例 え ば 、 非 特 許 文 献 1 に は 、 青 色 光 受 容 体 タ ン パ ク 質 で あ る ク リ プ ト ク ロ ム ( Cryptochrome) 磁 気 受 容 体 の モ デ ル 物 質 に つ い て 、 化 学 反 応 の 磁 場 効 果 を 高 感 度 に 測 定 す る た め に、広帯域(白色光)の光源であるスーパーコンテニューム光源の疑似定常光(連続光)をプローブ光として用いるとともに、試料の両側に高反射率ミラーを配置して光キャビティを構成した装置を用いるキャビティエンハンスト法が開示されている。具体的には、試料には磁場が印加された状態で、試料に励起光を照射した後、連続光のプローブ光を光キャビティ内で繰り返し往復させて検出する。これにより、少量および低濃度の貴重な生物学的物質を試料としながら、高感度に、かつ、広帯域に透過光を検出し、定常的励起光照射下での化学反応中間体を観測することができる。
また、非特許文献2には、試料の両側に高反射ミラーを配置して光キャビティを構成し、試料に励起光パルスを照射した後、パルスレーザ光をプローブ光として照射し、光キャビティの高反射ミラーを透過する光強度を時系列に測定することにより、光キャビティ内を循環(往復)している最中のプローブ光の減衰を時系列に測定するキャビティリングダウン法が開示されている。測定した時系列な光強度の減衰曲線から、光キャビティ内の光の指数関数的な減衰(リングダウン時間τ)を求め、リングダウン時間τとキャビティ長L か ら 光 キ ャ ビ テ ィ 内 の 一 回 の 光 通 過 当 た り の 試 料 の 吸 光 度 の 変 化 Δ Aが 算 出 さ れ る 。 この 測 定 を 、 励 起 光 パ ル ス の 照 射 と 、 プ ロ ー ブ 光 パ ル ス の 照 射 と の 間 の 時 間 ( 遅 延 時 間 t d )を変化させながら、何度も繰り返すことにより、光キャビティ内の一回の光通過当たりの試 料 の 吸 光 度 の 変 化 Δ Aの 遅 延 時 間 t d と の 関 係 を 求 め る 。 求 め た Δ Aと t d との関係から、励起 光 に よ り 生 じ た 試 料 に 生 じ た 、 短 命 の 中 間 体 で あ る ス ピ ン 相 関 ラ ジ カ ル ペ ア ( RP) お よびフリーラジカルの濃度の減衰を定量的に測定することができる。
一方、特許文献1および非特許文献3には、従来の過渡吸収分光装置のプローブ光源を、ピコ秒のパルストレインを出射するスーパーコンテニューム光源に置き換えた装置が開示されている。具体的には、励起光パルスを試料に1回照射した後、スーパーコンテニューム光源から出射されるパルストレインをプローブ光パルスとして照射し、プローブ光パルスの照射のたびに試料の透過光のピーク強度を測定する。励起光パルスの入射前のプローブ光の強度と励起光パルスの入射後のプローブ光量の比の対数を算出することにより吸光 度 ( O D ) の 変 化 ( Δ A) を 求 め る 。 時 間 分 解 能 を 高 め る た め 、 励 起 光 パ ル ス と 、 パ ルス ト レ イ ン の 最 初 の プ ロ ー ブ 光 パ ル ス と の 間 の 時 間 ( 遅 延 時 間 t d )を同期させずにランダム に 変 化 さ せ な が ら 、 複 数 回 測 定 を 繰 り 返 す 。 得 ら れ た 吸 光 度 の 変 化 ( Δ A) を 、 励 起 光パルスの照射のタイミングを一致させてプロットしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【 特 許 文 献 1 】 特 開 2015-222192号 公 報
【非特許文献】
【 非 特 許 文 献 1 】 Simon R. T. Neil et al. “ Broadband Cavity-Enhanced Detection of Magnetic Field Effects in Chemical Models of a Cryptochrome Magnetoreceptor” J. Phys. Chem. B ,2014, 118, 4177-4184
【 非 特 許 文 献 2 】 Kiminori Maeda et al. “ Following Radical Pair Reactions in Solu
tion: A Step Change in Sensitivity Using Cavity Ring-Down Detection” J. Am. Chem. Soc., 2011, 133, 17807-17815
【 非 特 許 文 献 3 】 TATSUO NAKAGAWA et al. “ Probing with randomly interleaved pulse
train bridges the gap between ultrafast pump-probe and nanosecond flash photolysis” Optics Letters, 41(7),1498-1501
非特許文献1のキャビティエンハンスト法は、光キャビティを用いて、サンプル光が試料を何度も通過することにより、試料による光吸収を増大させ、高感度での中間体の測定に成功している。具体的には、スーパーコンテニューム光源からの疑似定常光をプローブ光 源 と し て 用 い 、 励 起 光 も 定 常 光 と す る こ と に よ り 10− 7 までのきわめて小さな吸光度変化の測定に成功している。しかしながら、この測定方法は、励起光とプローブ光どちらも連続光であるため、時間分解能を持たず、短寿命種には適用不可能であり、過渡種の時間変化を測定することはできない。また、キャビティのミラーの反射率などによって、吸光度計測に補正が必要であり、その補正は、波長依存性があるため容易ではない。
非特許文献2の技術は、プローブ光にパルスレーザを用いるため、パルスごとに測定結果 を 得 る こ と に よ り 過 渡 種 の 時 間 変 化 を 測 定 可 能 で あ る 。 例 え ば 、 光 キ ャ ビ テ ィ に よ り 10− 6 程 度 ま で の 過 渡 吸 光 度 の 変 化 Δ Aの 測 定 ( 1000回 程 度 積 算 後 ) を 可 能 に し て い る 。 具 体的 に は 、 1 つ の 励 起 光 パ ル ス に 対 し て 、 所 定 の 遅 延 時 間 t d 後に1つのプローブ光パルスを照射して、そのプローブ光パルスをキャビティで往復させながらプローブ光強度を測定する こ と に よ り 、 一 つ の 吸 光 度 の 変 化 Δ Aが 得 ら れ る 。 そ の た め 、 遅 延 時 間 t d の変化に伴うΔ Aの 変 化 を 測 定 す る た め に は 、 必 要 な 遅 延 時 間 t d の測定数だけ、励起光パルスの照射とプ ロ ー ブ 光 の 照 射 を 繰 り 返 す 必 要 が あ る 。 し か も 、 精 度 を 上 げ る た め に は 、 遅 延 時 間 t d ごと に 同 じ 測 定 を 繰 り 返 し て 、 算 出 し た Δ Aを 積 算 す る 必 要 が あ る 。 例 え ば 遅 延 時 間 100点 につ い て 、 そ れ ぞ れ Δ Aを 1000回 積 算 す る 必 要 が あ る 場 合 に は 、 100000回 の 励 起 光 パ ル ス とプローブ光パルスをそれぞれ照射する必要がある。
一方、非特許文献3および特許文献1の技術は、ピコ秒パルスのトレインを出射するスーパーコンテニューム光源を用い、プローブ光パルスの照射のたびに試料の透過光のピーク強度を測定することにより、時間分解能を向上させる。このため、時間軸方向のデータを多数必要とする場合においては励起光の照射回数を非特許文献2よりも低減することができる。しかし、非特許文献3および特許文献1の技術は、一つ一つのパルスの透過光のピーク強度を測定する必要があるため、測定感度の面においては非特許文献2などのキャビティを用いた方法には全く及ばない。もし非特許文献2と同等の結果を得ようとした場合、現実的には信号を得られないか、上で述べた照射回数の低減を相殺するどころかそれ以上の励起パルス光照射回数が必要となる。しかも、スーパーコンテニューム光源から出射されるパルス光の強度には大きな揺らぎがあり、通常のランプや定常レーザを用いた一般的な過渡吸収法よりも不安定である。そのことは、特許文献1の図3に示されているが、パルストレイン強度の揺らぎを精度よくモニタする必要がある。具体的には、特許文献1の図1にあるように、ビームスプリッタで分離したプローブ光を専用の検出器で測定している(特許文献1の図1中19)。さらに、特許文献1ではランダムに照射されるプローブ光パルスのタイミングを得るために、時間分解能を改善した第3の測定システムを使っている(特許文献1の図1中15)。プローブ光をモニタすることにより、過渡吸収測定感度がどの程度改善されるのかについては、示されていないが、一般的な過渡吸収測定法の測定感度を超えることは無く、試料の透過光強度の測定精度を向上させることが難しい。よって非特許文献3および特許文献1の技術は、具体的には、繰り返し測定を行って、 測 定 結 果 を 積 算 し て も 、 測 定 さ れ る 試 料 の 吸 光 度 は 10− 2 程度が限界であり、誤差の影響を受けやすい。さらに、特許文献1においては3つの検出チャンネルを使って1つの波長領域における過渡吸収を測定している。スーパーコンテニューム光源の性質により、パルストレインの揺らぎは波長ごとに異なるため、特許文献1の技術は多波長同時測定をする場合において、波長ごとに複数の検出チャンネルを用意する必要があり、複数波長測定が現実的に困難である。
このように、非特許文献3および特許文献1の技術は、時間分解能の改善と測定誤差の影響を低減するために、励起光パルスと、パルストレインの最初のプローブ光パルスとの遅延時間をランダムに変化させながら複数回測定を繰り返している。結果的に、同一の試料に対し、励起光パルスを複数回試料に照射しなければならないという問題がある。
仮に、特許文献1の技術の試料(特許文献1の図1中5)の両サイドに高反射ミラーを置きキャビティを構成し、非特許文献2のようにキャビティを用いた測定を行おうとしても、非特許文献3で用いているスーパーコンテニューム光源のスペックから見て、プローブ光パルスの強度がリングダウン信号を精度良く測定するには十分ではない。さらに、特許 文 献 1 の 技 術 は 、 遅 延 時 間 t d を 制 御 し て お ら ず 、 ラ ン ダ ム に 遅 延 時 間 tdを 変 化 さ せ な がら 複 数 回 測 定 を 繰 り 返 し て い る の で 、 同 じ 遅 延 時 間 tdの 測 定 結 果 同 士 を 積 算 す る こ と が でき な い 。 よ っ て 、 励 起 パ ル ス 照 射 後 の あ る 特 定 の 遅 延 時 間 tdに お け る リ ン グ ダ ウ ン 時 間 を得 る こ と が 出 来 な い た め 、 化 学 反 応 中 間 体 の Δ Aを 精 度 よ く 測 定 す る こ と は で き な い 。
上述してきたように、非特許文献1〜3および特許文献1の技術は、時間分解能よく過渡吸収測定を行うためには、励起光パルスを多数回照射する必要があるが、試料は、励起光パルスの照射されるたびに劣化する。生物学的物質を試料とする場合、試料を大量に作製するのは非常に難しいため、貴重な試料を劣化させることなく、吸光度の変化を精度よく、かつ、時間分解能高く、しかも、励起光パルスの照射タイミング後のナノ秒からマイクロ秒までの広範囲で測定する技術が望まれている。
本発明の目的は、少量かつ低濃度の試料であっても、励起光パルスの照射回数を低減しながら、数十から数百ナノ秒という高い時間分解能で、励起光照射タイミングの直後から広範囲にわたって過渡吸収を測定できる装置を提供することにある。
上記目的を達成するために、本発明の過渡吸収測定装置は、光キャビティを構成する一対の高反射率ミラーと、励起光用光源と、プローブ光用光源と、光検出器と、演算処理部を有する。
反射ミラーは、所定の光軸に沿って、試料を配置する領域の両側に配置され、所定の反射率で光を反射し、残りの光を透過する。励起光用光源は、領域に配置された試料に対して励起光パルスを照射する。プローブ光用光源は、予め定めたパルス間隔でプローブ光パルス列を反射ミラーの一方に対して光軸に沿って照射することにより、プローブ光パルス列を構成するプローブ光パルスを光キャビティ内に順次入射させ、プローブ光パルスを光キャビティ内で繰り返し往復させる。
光検出器は、光キャビティ内で繰り返し往復するプローブ光パルスが反射ミラーに到達するたびに反射ミラーを透過する光の強度を時系列に検出する。演算処理部は、一つのプローブ光パルスが光キャビティ内を繰り返し往復している間に光検出器が時系列に検出した光強度の減衰度合から、一つのプローブ光パルスが照射された時点における試料のプロー ブ 光 パ ル ス の 通 過 一 回 あ た り の 吸 光 度 の 変 化 Δ Aを 算 出 す る 。 こ の 算 出 処 理 を 連 続 的 なプローブ光パルス列のそれぞれのプローブ光パルスについて行うことにより、プローブ光パ ル ス 列 が 照 射 さ れ て い る 間 の 試 料 の 吸 光 度 の 変 化 Δ Aの 時 間 変 化 を 求 め る 。
本発明によれば、少量かつ低濃度の試料であっても、励起光パルスの照射回数を低減しながら、数十から数百ナノ秒程度の比較的高い時間分解能で、励起光照射タイミングの直後から広範囲にわたって過渡吸収を測定できる。
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