オーキシン生合成阻害活性を有する新規化合物、その製造方法及びその用途

2022.10.17 By 神奈川大学

材料工学

技術概要

従来技術のオーキシン生合成阻害剤と異なる作用機序のオーキシン生合成阻害活性を有する新規化合物を提供する

用途・応用

農薬、植物成長調整剤、試薬

背景

 オーキシンは、植物の発生、成長、分化及び様々な環境応答に関与することが知られてい る 植 物 ホ ル モ ン で あ る 。 天 然 オ ー キ シ ン と し て は 、 イ ン ド ー ル ‑3‑酢 酸 ( IAA) が 最 も 普遍 的 に 分 布 し て い る こ と が 知 ら れ て い る 。 ま た 、 イ ン ド ー ル ‑3‑酪 酸 ( IBA) 及 び 4‑ク ロ ロイ ン ド ー ル ‑3‑酢 酸 ( 4‑Cl‑IAA) 等 の 他 の 天 然 オ ー キ シ ン も 知 ら れ て い る 。

 主 要 な 天 然 オ ー キ シ ン で あ る IAAは 、 化 学 的 に 非 常 に 不 安 定 で あ る 。 ま た 、 植 物 体 内 にお い て は 、 IAAを 分 解 す る IAAの 代 謝 経 路 が 存 在 す る 。 こ の た め 、 農 業 及 び 植 物 化 学 の 分 野では、農薬又は植物化学調節剤として合成オーキシンが広く用いられている。合成オーキシ ン と し て は 、 2,4‑ジ ク ロ ロ フ ェ ノ キ シ 酢 酸 ( 2,4‑D) 、 1‑ナ フ タ レ ン 酢 酸 ( NAA) 及 び 2‑メ チ ル ‑4‑ク ロ ロ フ ェ ノ キ シ 酪 酸 ( M CPB) 等 が 知 ら れ て い る 。 例 え ば 、 2,4‑Dは 、 除 草 剤 及び 植 物 の 組 織 培 養 試 薬 と し て 使 用 さ れ て い る 。 M CPBは 、 水 田 広 葉 雑 草 に 対 す る 選 択 的 除 草剤として使用されている。

 オ ー キ シ ン す な わ ち IAAは 、 複 数 の 経 路 に よ っ て 生 合 成 さ れ る こ と が 知 ら れ て い る 。 現在 ま で に 、 大 別 す る と 、 L‑ト リ プ ト フ ァ ン ( L‑Trp) を 経 由 す る 経 路 と 経 由 し な い 経 路 (非 ト リ プ ト フ ァ ン 経 路 ) と の 2つ の 経 路 が 存 在 す る こ と が 確 認 さ れ て い る 。 L‑Trpを 経 由 する 経 路 は 、 さ ら に 4つ 以 上 の 経 路 に 分 岐 し 、 そ れ ぞ れ の 経 路 が 異 な る 生 合 成 酵 素 に よ っ て制 御 さ れ て い る 。 シ ロ イ ヌ ナ ズ ナ で は 、 イ ン ド ー ル ‑3‑ピ ル ビ ン 酸 ( IPyA) を 生 合 成 中 間体 と し て IAAが 生 合 成 さ れ る 経 路 が 、 IAA生 合 成 の 主 要 な 経 路 で あ る 。 前 記 経 路 に お い て 、L‑Trpか ら IPyAが 形 成 さ れ る 反 応 は ト リ プ ト フ ァ ン ア ミ ノ 基 転 移 酵 素 ( TAA) に よ り 、 IPyAか ら IAAが 形 成 さ れ る 反 応 は 、 特 定 の フ ラ ビ ン モ ノ オ キ シ ゲ ナ ー ゼ ( YUCCA) に よ り 、 そ れぞ れ 制 御 さ れ る 。 TAAを コ ー ド す る TAA1遺 伝 子 及 び YUCCAを コ ー ド す る YUCCA1遺 伝 子 の 過 剰発 現 体 の 解 析 か ら 、 こ の IAA生 合 成 経 路 に お い て は 、 YUCCAが 主 要 な 律 速 酵 素 で あ る と 考 えら れ て い る  。

 ま た 、 オ ー キ シ ン の 生 合 成 経 路 に お い て 、 IAAと IBAと は 相 互 変 換 さ れ る こ と が 知 ら れ てい る 。 IBAか ら IAAへ の 変 換 は 、 β 酸 化 に よ っ て 行 わ れ る こ と が 、 ま た 、 IAAか ら IBAへ の 変 換 は 、 IBA生 合 成 酵 素 に よ っ て 制 御 さ れ る こ と が 、 そ れ ぞ れ 知 ら れ て い る。 IBAの 機 能 と し て 、 例 え ば 、 植 物 の 初 期 生 育 に お け る 側 根 の 形 成 が 、 IBAに よ っ て 制 御 され る と 考 え ら れ て い る  。

 前記のように、オーキシンの生合成においては、共通且つ主要な生合成前駆体として、芳 香 族 ア ミ ノ 酸 で あ る L‑Trpが 利 用 さ れ て い る 。 例 え ば 、 公 知 の 除 草 剤 で あ る グ リ ホ サ ート は 、 芳 香 族 ア ミ ノ 酸 の 生 合 成 前 駆 体 で あ る 5‑エ ノ ー ル ピ ル ビ ル ‑3‑ホ ス ホ シ キ ミ 酸 ( EPSP) の 生 合 成 酵 素 ( 5‑エ ノ ー ル ピ ル ビ ル ‑3‑ホ ス ホ シ キ ミ 酸 シ ン タ ー ゼ ( EPSPS) ) を 阻 害す る 。 こ の た め 、 グ リ ホ サ ー ト は 、 EPSPの 下 流 に 位 置 す る 芳 香 族 ア ミ ノ 酸 及 び / 又 は 他 の二次代謝産物の生合成に広く影響を与えることにより、除草活性を発現する。しかしながら、前記のように幅広い代謝産物の生合成に影響を与える酵素の阻害剤の場合、標的とする化合物以外の代謝産物の生合成にも悪影響を与える可能性がある。

 近年、オーキシンの生合成経路のうち、特定の経路を特異的に阻害する化合物が開発され た 。 例 え ば 、 特 許 文 献 1は 、 L‑α ‑(2‑ア ミ ノ エ ト キ シ ビ ニ ル )グ リ シ ン ( AVG) 、 L‑ア ミノ オ キ シ フ ェ ニ ル プ ロ ピ オ ン 酸 ( L‑AOPP) 、 ア ミ ノ オ キ シ 酢 酸 ( AOA) 及 び 2‑ア ミ ノ オ キシ イ ソ 酪 酸 ( AOIBA) の よ う な オ ー キ シ ン 生 合 成 阻 害 剤 を 記 載 す る 。 前 記 化 合 物 の う ち 、 AVG及 び L‑AOPPは 、 TAAの 阻 害 を 介 し て オ ー キ シ ン 生 合 成 を 阻 害 す る  。

 特 許 文 献 2は 、 L‑AOPPの フ ェ ニ ル 基 、 カ ル ボ キ シ ル 基 及 び ア ミ ノ オ キ シ 基 を 修 飾 し た 新規 オ ー キ シ ン 生 合 成 阻 害 剤 を 記 載 す る 。 当 該 文 献 に 記 載 の 化 合 物 も ま た 、 TAAの 阻 害 を 介してオーキシン生合成を阻害する。

 特 許 文 献 3は 、 L‑AOPPの 骨 格 に 含 ま れ る ア ミ ノ オ キ シ 基 を 、 窒 素 原 子 を 含 ま な い 基 に 置換した構造を有する新規オーキシン生合成阻害剤を記載する。

 特 許 文 献 4は 、 式 ( I) 又 は 式 ( II) で 表 さ れ る ボ ロ ン 酸 基 を 有 す る 新 規 オ ー キ シ ン 生 合成阻害剤を記載する。当該文献は、ボロン酸基を有する特定の新規化合物が、オーキシンの 生 合 成 経 路 に お い て 、 IPyAか ら IAAが 形 成 さ れ る 反 応 を 制 御 す る YUCCAを 阻 害 す る こ と により、オーキシン生合成阻害活性を発現することを記載する。

【先行技術文献】
【特許文献】
【 特 許 文 献 1 】 国 際 公 開 2008/150031号
【 特 許 文 献 2 】 国 際 公 開 2012/118216号
【 特 許 文 献 3 】 特 許 第 6037277号 公 報
【 特 許 文 献 4 】 特 許 第 6120272号 公 報
【非特許文献】
【 非 特 許 文 献 1 】 M ashiguchi, K.ら , 2011年 , Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 第 108巻 , p. 18512‑18517
【 非 特 許 文 献 2 】 W oodward A及 び Bartel B., 2005年 , Annals of Botany, 第 95巻 , p. 707‑735
【 非 特 許 文 献 3 】 Soeno, K.ら , 2010年 , Plant Cell Physiol., 第 51巻 , p. 524‑536 

課題

 前記のように、様々なオーキシン生合成阻害剤が開発されてきた。しかしながら、前記の よ う な オ ー キ シ ン 生 合 成 阻 害 剤 に は 、 い く つ か の 問 題 が 存 在 し た 。 例 え ば 、 L‑AOPPは 、安定性が低く、植物培地又は土壌に添加した場合に植物の成長阻害効果を持続的に発現する こ と が 困 難 で あ る 。 ま た 、 L‑AOPPは 、 フ ェ ニ ル プ ロ パ ノ イ ド の 主 要 な 生 合 成 酵 素 と し て知 ら れ る フ ェ ニ ル ア ラ ニ ン ア ン モ ニ ア リ ア ー ゼ ( PAL) の 阻 害 剤 と し て も 使 用 さ れ る 化 合物 で あ る 。 こ の た め 、 L‑AOPPは 、 TAAの 阻 害 を 介 し て オ ー キ シ ン 生 合 成 を 阻 害 す る だ け でなく、アントシアニン、フラボノイド及びリグニンのようなフェニルプロパノイド系の二次代謝産物、並びに植物ホルモンであるサリチル酸の生合成も阻害する可能性がある。

 オ ー キ シ ン は 、 複 雑 な 生 合 成 経 路 に よ っ て 産 生 さ れ る 。 ま た 、 植 物 体 に お い て は 、 IAA及 び IBAの よ う に 様 々 な 天 然 オ ー キ シ ン が 機 能 し て い る 。 従 来 技 術 の オ ー キ シ ン 生 合 成 阻害 剤 は 、 主 に 、 Trpか ら IAAを 形 成 す る い ず れ か の 段 階 を 阻 害 す る こ と に よ っ て 、 オ ー キ シン の 生 合 成 を 阻 害 す る 。 し か し な が ら 、 例 え ば IAA及 び IBAの 相 互 変 換 の よ う に 、 オ ー キ シンの生合成経路の他の段階を特異的に阻害する化合物は知られていなかった。このような、従来技術のオーキシン生合成阻害剤と異なる作用機序を有する化合物は、従来技術のオーキシン生合成阻害剤と異なる特徴的な生物活性を発現する可能性がある。

 それ故、本発明は、オーキシン生合成阻害活性を有する新規化合物を提供することを課題とする。一態様において、本発明は、従来技術のオーキシン生合成阻害剤と異なる作用機序のオーキシン生合成阻害活性を有する新規化合物を提供することを課題とする。

手段

 本発明者らは、前記課題を解決するための手段を種々検討した。本発明者らは、従来技術のオーキシン生合成阻害剤にみられる芳香環を有するプロパン酸骨格において、プロパン酸主鎖の鎖長及び鎖構造を改変することにより、高いオーキシン生合成阻害活性を有する新規化合物が得られることを見出した。また、本発明者らは、このようにして得られた特定の新規化合物は、従来技術のオーキシン生合成阻害剤と異なる作用機序のオーキシン生合成阻害活性を有することを見出した。本発明者らは、前記知見に基づき本発明を完成した。

効果

 本発明により、オーキシン生合成阻害活性を有する新規化合物を提供することが可能となる。また、本発明の一態様により、従来技術のオーキシン生合成阻害剤と異なる作用機序のオーキシン生合成阻害活性を有する新規化合物を提供することが可能となる。

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特許情報

特願2019-009335

JPA 2019131540-000000