1,4-ジオキサンの分解方法

2024.08.08 By 東洋大学

環境

技術概要

有害物質として規制されている1,4-ジオキサンを分解することのできる菌を単離。またその菌を活用した1,4-ジオキサンの分解方法を提案する。

用途・応用

下水や産業排水処理、1,4-ジオキサンの分解

背景

1,4−ジオキサンは、化学式C 4 H 8 O 2 で表される環状エーテル化合物である。1,4−ジオキサンは水にも有機溶媒にも溶けやすいため、有機合成等における溶媒あるいは安定剤として広く使用されてきた。また、エチレンオキシドやエチレングリコールが関わる化学反応時の微量副産物として製品に含まれ得ることも知られている。

 1,4−ジオキサンは、水溶性が高く揮発性が低くかつ生分解性が低いことから、環境中に広く分散して残留しやすい。「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律」に基づく好気的生分解試験では、1,4−ジオキサンは2週間で分解率0%であり難分解性と判定されている。

 しかしながら、1,4−ジオキサンは、国際癌研究機関(IARC)によってヒトに対する発がんの可能性を示すグループ2Bに分類されているように、有害物質でもある。従ってこの化合物は、外環境に放出される前に排水処理工程等で適切に除去されるべきものである。わが国では2012年に0.5mg/Lという排水基準が設定された。

 しかし、1,4−ジオキサンは、上述のように生分解性が低いだけでなく、沸点(約101℃)が水と近く、光分解性、加水分解性、吸着材への吸着性、および凝集沈殿性も低いため、除去あるいは低減することが難しい物質である。効果的な除去のためには、例えばダイオキシンの除去にも使用される促進酸化法など、複雑で高価な処理が必要になり得る 。

 1,4−ジオキサンを分解する能力を有する菌が存在し得ることも知られており、それらの菌を排水処理に適用することが検討されている。特に、排水処理能力の安定性や予測可能性、ならびに設備設置および管理の容易性等の観点から、単離され同定された特定の分解菌を利用することが望ましいと考えられる。

1 9 9 4 年 に 刊 行 さ れ た 非 特 許 文 献 1 は 、 Pseudonocardiaceae科 の C B 1 1 9 0 株 を 単離して、これが1,4−ジオキサン分解菌であることを見出したことを記載している。こ の 株 は 後 に Pseudonocardia属 に 分 類 さ れ た ( 非 特 許 文 献 2 ) 。 C B 1 1 9 0 株 は 、 今 日 に至るまで、産業的に有用となり得る1,4−ジオキサン分解菌の1つのスタンダードとして 認 識 さ れ て お り 、 0.051 mg-1,4-dioxane/mg-protein・ hの 最 大 比 分 解 速 度 を 有 す る こ とが報告されている(特許文献1)。その後も数種の1,4−ジオキサン分解菌の単離・同定 が 報 告 さ れ て お り 、 そ れ ら に は 、 マ イ コ バ ク テ リ ウ ム 属 ( Mycobacterium sp.) D 1 1株 、 マ イ コ バ ク テ リ ウ ム 属 D 6 株 、 シ ュ ー ド ノ カ ル デ ィ ア 属 ( Pseudonocardia sp.) D 17 株 、 ア フ ィ ピ ア 属 ( Afipia sp.) D 1 株 、 マ イ コ バ ク テ リ ウ ム 属 P H − 0 6 株 ( 特 許 文 献2)、およびシュードノカルディア属のN23株(特許文献1)が含まれる。

 非特許文献3は、流出を防ぐためにシュードノカルディア属D17株をポリエチレングリコール系ゲル中に閉じ込めて固定化し、そのゲル片を含む容器に1,4−ジオキサン含有排水を通過させて排水処理すなわち1,4−ジオキサン除去を行う、バイオリアクターを記載している。

 生物学的に異なるアイデンティティを有する1,4−ジオキサン分解菌は、異なる特性を有し得るため、多様な条件での1,4−ジオキサン分解のニーズに応えられるようにするためには、新規な1,4−ジオキサン分解菌を取得することが有用である。しかしながら、自然界に見出すことができる1,4−ジオキサン分解菌はそもそも稀であり、しかもその多くは産業的な有用性が比較的低いものであると考えられる。有用性が低い理由としては、(1)分解活性が十分に高くないこと、(2)増殖速度がきわめて遅いこと、(3)1,4−ジオキサンを単一炭素源として分解し資化できる菌(資化菌と呼ばれる)ではなくて、テトラヒドロフラン等の特定の基質の存在下での共代謝反応を介して1,4−ジオキサンを分解する菌(共代謝菌と呼ばれる)であること、等が挙げられる。

 従って、例えば上記特許文献および非特許文献に記載されたものに匹敵する、あるいはそれらより優れた特性を有する、新規の1,4−ジオキサン分解菌を見出すことは難しい課題である。
【先行技術文献】
【特許文献】

【特許文献1】国際公開第2016/181802号
【特許文献2】特許第5877918号公報
【非特許文献】

【 非 特 許 文 献 1 】 Appl Environ Microbiol. 1994 Dec;60(12):4527-30.
【 非 特 許 文 献 2 】 Int J Syst Evol Microbiol. 2005 Mar;55(Pt 2):593-8.
【 非 特 許 文 献 3 】 Journal of Water and Environment Technology, Vol.14, No.4: 289-3

課題

本開示の一側面は、新規の1,4−ジオキサン分解菌を提供する。本開示の別の側面は、その菌を含む1,4−ジオキサン分解用組成物を提供する。本開示のさらに別の側面は、その菌または組成物を用いた1,4−ジオキサンの分解方法を提供する。

手段

 本開示は以下の実施形態を提供する。
[1]
受 託 番 号 N I T E P − 0 3 3 6 2 で 寄 託 さ れ た Pseudonocardia sp. T Y 1 1 株 で ある、細菌。
[2]
[1]に記載の細菌を含む、1,4−ジオキサン分解用組成物。
[3]
 1,4−ジオキサンを含む水性環境に、[1]に記載の細菌または[2]に記載の組成物を晒すことを含む、1,4−ジオキサンを分解する方法。
[4]
 1,4−ジオキサンを含む水溶液に、[1]に記載の細菌または[2]に記載の組成物を晒すことによって、前記水溶液から1,4−ジオキサンを少なくとも部分的に除去することを含む、水溶液処理方法。 

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特許情報

特開2022-122559

JPA 2022122559-000000