鋳型分離技術を利用した希土類イオンの高精度分離法

2022.07.20 By 日本原子力研究開発機構

環境

知識概要

希土類イオンのわずかなイオンサイズの差を識別して構造が異なる錯体を形成する配位化合物を利用した新しい分離技術です。

用途・応用

レアメタルの回収など

背景

 

 希土類元素は、希土類磁石、レーザー材料等に用いられており、特に希土類磁石は電気自動車や風力タービンなどに使用されるクリーンエネルギー産業に欠かせない素材であり、今後の需要増加が予想されている。さらに、希土類元素は産出地が偏在しており、供給量や価格の変動が大きいという資源リスクがあることから、最近では資源の保全を考えて、回収リサイクルすることの重要性が一層増加している。

 希土類元素は各元素が高純度で回収されることで、価値が上がることから、その相互分離技術の向上は必須である。しかしながら、希土類イオンの内、原子番号が57番~71番の元素(ランタノイド)は、元素間で化学的性質が非常によく似ている。いずれも3価が安定であり、イオンサイズの差も極めて小さいことから、これらイオン間の相互分離は非常に困難である。

 混合物から特定の希土類金属を回収するための工業的に広く用いられている方法としては、鉱酸等の酸に溶解した液からの溶媒抽出法による回収がある。その代表的な抽出剤には、リン系の抽出剤であるジ-2-エチルヘキシルリン酸(D2EHPA)(非特許文献1、非特許文献2)や2-エチルヘキシルホスホン酸-モノ-2-エチルヘキシル(製品名:PC88A(大八化学製))がある(特許文献1)。この抽出剤はリンを含むため、劣化した抽出剤や水溶液に溶解した抽出剤による汚染を防ぐための高度な排水処理設備が必要である。故に最近では、リンを含まないジアルキルジグリコールアミド酸による抽出も行われている(特許文献2)。しかしながら、希土類イオンの相互分離係数は十分とは言えず、複雑な分離工程、分離設備の大規模化、有機溶剤の大量使用等の根本的な解決には至っていない。

 また、希土類イオンのサイズ差に着目した分離剤開発の研究例としては、クラウンエーテルのような環状化合物を用いた研究例(非特許文献3、非特許文献4)や、β-ジケトンのような非環状の多座配位子の配位元素間のジオメトリーを変化させることでイオンサイズ選択性を持たせる試み(非特許文献5)がなされている。これにより、イオンサイズの小さい重希土類イオンに対する選択性を向上させるなどの成果は得られているものの、原子番号が近接した希土類イオン同士のような僅かなサイズ差を高分離係数で分けることは困難である。

 溶媒抽出法の短所である有機溶剤の大量使用を克服する方法の一つに、沈殿分離法がある。沈殿分離法は溶剤として有機化合物を使用せず、且つ操作が簡易である。しかしながら、希土類元素間の相互分離は極めて困難であり、軽希土類元素(原子番号57~63)と重希土類元素(原子番号64~71及び39のイットリウム)のグループ分離に用いられる程度であり、原子番号が近接した希土類元素の相互分離は非現実的である。(特許文献3、特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【特許文献1】WO2013/128536
【特許文献2】特開2015-212423号公報
【特許文献3】WO2012/140998
【特許文献4】特開2016-11435号公報
【非特許文献】
【 非 特 許 文 献 1 】 T. G. Lenz, M . Smutz, J. Inorg. Nucl. Chem, Vol. 30, 621 (1968).
【 非 特 許 文 献 2 】 C. A. M orais, V. S. T. Ciminelli, Hydrometallurgy, Vol. 73, 237(2004).
【 非 特 許 文 献 3 】 Alexander, Chem. Rev., Vol. 95, 273 (1995).
【 非 特 許 文 献 4 】 M asuda, Y. Zhang, C. Yan, B. Li, Talanta, Vol. 46, 203 (1998).
【 非 特 許 文 献 5 】 S. Umetani, J. Alloys Compd., Vol. 408‑412, 981 (2006).

課題

 本発明の課題は、原子番号の近い希土類イオンの相互分離に関し、従来法である沈殿分離法や溶媒抽出法と比較して、著しく分離性能を向上させることができる新規な希土類イオン分離試薬及びこれを用いる希土類イオンの分離回収方法を提供することである。

手段

本発明者らは、2種類以上の希土類イオンが溶解した溶液に、アミド基と複素環窒素の両者を有する多座配位子化合物を加えると、複素環窒素部分の骨格構造が希土類イオンのサイズに合わせて微細に伸縮することで特定サイズの希土類イオンと強く結合し、この特定サイズの希土類イオンを境にそれより原子番号の小さい元素と大きい元素とで異なる2種 の 希 土 類 錯 体 を 形 成 す る こ と を 錯 体 の 単 結 晶 X線 構 造 解 析 に よ り 明 ら か に し た 。 さ ら に酸素原子又は窒素原子を配位原子とする単座配位子化合物を加えると上記2種の希土類錯体のうち一方のみ分離可能なことを見出した。また、多座配位子化合物の構造を変化させることで、それによって形成される希土類錯体の構造も変化し、それに伴いイオンサイズの境界を移動させることも可能であることを見出した。よって、希土類錯体の構造変化が生じるイオンサイズの境界の位置が、特定の希土類イオンの原子番号の両隣にある多座配位子化合物を用いることで、特定の希土類イオンを選択的に分離回収することが可能になり、本発明を完成させた。

効果

 本発明によれば、複数の希土類イオンを含む溶液に、特定の希土類イオンを境界に構造の異なる2種の錯体を形成する多座配位子化合物を添加し、引き続きこの構造の違いを認識して結合する単座配位子化合物を添加するという簡便な操作により、境界前後の希土類イオンを効率的に分離することができる。

問い合わせ・詳細資料閲覧

特許情報詳細や資料のダウンロード等については無料会員登録後に閲覧していただけます。

本研究に関するご質問や、話を聞いてみたいなどご興味をお持ちになりましたら、是非お気軽に以下のフォームにお問い合わせください。

特許情報

特許第6829805号
特開2020-195958
いずれも共願:産業技術総合研究所

JPA 2018168424-000000