LINE公式アカウントから最新記事の情報を受け取ろう!
タンパク質のシステイン残基を標的としたビオチン標識剤。タンパク質内のジスルフィド結合を還元して生成するスルフヒドリル基に効率的に化学反応して架橋構造を形成するとともに、反応部位にビオチンを付与することができる。
タンパク質、ペプチド
ビオチンは、ストレプトアビジン等の特定のタンパク質と特異的に強く結合することが知られており、免疫染色やタンパク質の抽出精製などに利用されている。例えば、ビオチン標識した抗体に、色素や色素生成酵素を結合したストレプトアビジンを結合しておくことで、標的抗原分子を検出し、定量化することができる。またビオチン標識したタンパク質を、色素や色素生成酵素を結合したストレプトアビジンと反応させることで、ビオチンとストレプトアビジンとが結合し、標的であるタンパク質を可視的な方法で検出することを可能にする。また、ストレプトアビジンがもつ四つのビオチン結合ポケットを利用するこ と で 、 図 3 に 示 す よ う に 、 Au等 の 金 属 基 板 に ビ オ チ ン 化 試 薬 を 固 定 し た 状 態 で 、 ス ト レプトアビジンを結合することにより、ビオチンと結合していないストレプトアビジンの部分に、ビオチン標識抗体を結合させて固定化することも可能である。なおビオチンと特異的に結合するタンパク質としては、ストレプトアビジン以外にも種々のものが知られており、同様に利用されている。
従来、抗体などのタンパク質に対するビオチン標識試薬として、タンパク質やペプチドのリジン残基やシステイン残基を標的とした試薬などが知られている。リジン残基は、タンパク質表面に多く存在するため、リジン残基側鎖のアミノ基に対するビオチン標識はランダムとなり、定量的な把握が困難になる場合がある。一方、システイン残基は、存在比率が低いためにリジン残基よりも標識位置が限定されるが、ジスルフィド結合を切断して生じるスルフヒドリル基に対してビオチンが結合するので、標識後のタンパク構造が不安定化し、活性が低下したり、場合によっては失活したりするという課題がある。
なおビオチン標識ではなく、ジスルフィド結合に蛍光色素等の種々の化合物を標識する化合物が非特許文献1に提案されている。この化合物は、末端にアルキン基を持つ鎖状化合物の他端末にジブロモ—ピリダジンジオン基を結合した構造を有し、ジブロモ—ピリダジンジオン基が、タンパク質のジスルフィド結合を切断して生じるスルフヒドリル末端に結合することで、元のジスルフィド結合に由来する2つの硫黄原子がピリダジンジオン基を介して連結(再架橋)する。一方、反応性の高いアルキン基により種々の化合物を結合することが可能であり、これによってタンパク質に種類の異なる標識を行うことができる。
しかし、非特許文献1に開示された化合物は、製造の収率がよくない上に、そもそも、そのままビオチン標識に用いることはできない。即ち、ビオチン標識のためには、末端アルキンにビオチン構造を付加するための反応が必要となるが、非特許文献1には、それについての記載や示唆はない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【 非 特 許 文 献 1 】 Nanoscale, 2020, 12, 11647-11658
本発明は、タンパク質への標識位置が明確であり、且つ、標識によってタンパク質本来の活性の低下や失活を招くことのないビオチン標識剤を提供することを課題とする。
上記課題を解決する本発明のビオチン標識剤は、一端にビオチン構造(式(1))を有し、他端にジブロモ—ピリダジンジオン基(式(2))を有するビオチン標識剤(以下、モノビオチン標識剤という)、または、3つの末端を有する分枝構造を持ち、3つの末端のうち、二端にそれぞれビオチン構造(式(1))を有し、他の一端にジブロモ—ピリダジンジオン基(式(2))を有するビオチン標識剤(以下、ダブルビオチン標識剤という)である。
式(1)
【化1】
式(2)
【化2】
本発明のモノビオチン標識剤は一端にジブロモ—ピリダジンジオン基を持ち、他端にビオチン構造を持つ直鎖状化合物であり、またダブルビオチン標識剤は、分岐状であって2つの端部にジブロモ—ピリダジンジオン基を持ち、他端にビオチン構造を持つ分岐状化合物で、いずれも新規な化合物である。両者は、ともにストレプトアビジン等のビオチン結合性タンパクに特異的な親和性を持つビオチン構造の利用を意図して、ビオチン標識剤として用いられる。なお以下の説明において、モノビオチン標識剤、ダブルビオチン標識剤を区別しないときは、単にビオチン標識剤という。
また本発明は上述したビオチン標識剤で標識されたタンパク質、及びビオチン標識剤を含む免疫検査試薬を提供するものである。
本 発 明 に よ れ ば 、 タ ン パ ク 質 に 含 ま れ る ジ ス ル フ ィ ド 基 ( S-S結 合 ) に 結 合 し て タ ン パク質をビオチン標識する新規な化合物が提供される。この化合物は、上述したビオチン結合性タンパクに対し高い親和性を持ち、免疫染色、免疫検査試薬、タンパク質抽出・単離などに利用することができる。また本発明のビオチン標識剤はタンパク質のジスルフィド基に結合するので、標識部位が明確であり、例えば免疫検査試薬としたときの定量性が得られる。さらに本発明のビオチン標識剤は、切断したジスルフィド基の両端に結合するので、ジスルフィド基を再架橋し、標識対象であるタンパク質の構造の安定性を保つことができる。
さらに本発明のビオチン標識剤は、非特許文献1などに開示されたジスルフィド基に結合する化合物と比べ高い収率で安定的に得られ、且つ末端にビオチン構造を有しているので、ビオチン結合性タンパクに結合するための別な化合物との反応が不要で、そのままビオチン標識剤として用いることができる。
特許情報詳細や資料のダウンロード等については無料会員登録後に閲覧していただけます。
本研究に関するご質問や、話を聞いてみたいなどご興味をお持ちになりましたら、是非お気軽に以下のフォームにお問い合わせください。