肥料成分の自動計測につながる土壌水の電気伝導度簡易モニタリング手法

2022.09.27 By 東洋大学

バイオ

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技術概要

市販されているセンサーの現場データから、肥料成分と相関が高い土壌水の電気伝導度を計算する数式のパラメータを簡便に得る手法を開発。煩雑な実験が不要になり、センサーによる土壌中の肥料成分の変化の測定を実現。

用途・応用

農業、分析

背景

 農地における土壌の水分量や電気伝導度は、天候や灌漑によって刻々と変化する。また、土壌中に存在している肥料分の含有傾向を数値で表した土壌溶液の電気伝導度も、施肥の状態によって刻々と変化する。これらの変化は作物の生育に強く影響するため、継続的に測定して管理することの意義は大きい。特に、肥培管理を適切に行うという目的から、農地での利用で特に重要なのは、土壌溶液の電気伝導度の測定である。

 従 来 、 電 気 伝 導 度 に つ い て は 、 4 極 法 や T D R ( Time Domain Reflectometry) 法 な どの測定法が確立されており、測定するためのセンサの普及が進んでいる。しかしながら、これらのセンサで測定しているのは、土壌全体の電気伝導度である。土壌の電気伝導度は、土壌溶液の電気伝導度の他に土粒子(固相)の電気伝導度や土壌水分量の影響も大きく受けていることから、土壌溶液のみの電気伝導度を測定するためには、土壌の電気伝導度と土壌の水分量とを同時に測定し、これらの測定値から土粒子の電気伝導度を考慮して土壌溶液の電気伝導度を推定する必要がある。

 土 壌 溶 液 の 電 気 伝 導 度 の 推 定 方 法 と し て 、 Rhoadesモ デ ル ( 非 特 許 文 献 1 参 照 ) を は じめ 、 い く つ か の 推 定 モ デ ル が 提 案 さ れ て い る ( 例 え ば 、 非 特 許 文 献 2 , 3 参 照 ) 。 Rhoadesモ デ ル は 、 推 定 精 度 が 最 も 高 い と さ れ て い る が 、 モ デ ル の 数 式 が 非 線 形 で あ り 、 か つ パラメータが3つあることから、土壌溶液の電気伝導度を推定するためには、土壌水分量および土壌の電気伝導度に関して多数のデータを測定する必要があり、簡便に推定することができないという欠点があった。

 こ れ に 対 し 、 非 特 許 文 献 2 , 3 に 記 載 さ れ て い る Hilhorstモ デ ル は 、 数 式 で 使 用 す る パラ メ ー タ の 数 を 少 な く す る こ と で 、 Rhoadesモ デ ル に 比 べ て 推 定 精 度 は 落 ち る も の の 、 土壌溶液の電気伝導度を比較的簡便に推定できるようにすることを目的としたものである。

 なお、土壌用EC(電気伝導度)センサと土壌水分センサとを使用して、算出される土壌溶液EC値を常時モニタリングし、土壌中肥料濃度を適正維持するようにした施肥管理制 御 器 が 知 ら れ て い る ( 特 許 文 献 1 参 照 ) 。 こ の 特 許 文 献 1 に は 、 Rhoadesモ デ ル を 用 いて土壌溶液EC値を推定することが記載されており、パラメータの1つである固相の電気伝導度の決定に際し、粘土含量を説明変数とする経験式を用いることで、従来よりも簡便に Rhoadesモ デ ル の パ ラ メ ー タ を 決 定 す る 方 法 が 提 案 さ れ て い る 。

 ところで現在、農地の現場では、土壌溶液の電気伝導度の推定モデルに使用するパラメータを次のような手順で決定している。図3(詳細資料に記載)は、この手順を模式的に示す図であり、(1)~(8)は手順の順番を示した番号である。以下、図3に参照しながら、従来の推定モデル構築方法を説明する。

(1)現場の圃場から土壌および土壌溶液を採取し、土壌水分量θおよび土壌の電気伝導度ECaをセンサによって測定するとともに、採取した土壌および土壌溶液を実験室へ持ち帰る。土壌は推定モデルを構築する際に用い、土壌溶液は構築した推定モデルを検証する際に用いるものである。
(2)採取した土壌から、土壌水分量θおよび土壌の電気伝導度ECaが異なる複数の土壌試料を作成する。例えば、数段階に濃度を変化させた塩化カリウム溶液など電気伝導度の異なる液体を土壌試料に加えることで、数段階に土壌水分量θを変化させて全体の土壌の電気伝導度ECaが異なる複数の土壌試料を作成する。

(3)作成したそれぞれの土壌試料について、土壌水分量θおよび土壌の電気伝導度ECaをセンサなどによって測定する。
(4)測定が終了した土壌試料について、遠心分離機等を用いて土壌溶液を抽出し、土壌溶液の電気伝導度ECwをECセンサによって測定する。
(5)それぞれの土壌試料について測定した土壌水分量θ、土壌の電気伝導度ECaおよび土壌溶液の電気伝導度ECwの関係性を線形回帰分析等により求めることにより、線形推定モデルのパラメータを決定する。例えば、図3に示すように、縦軸に土壌の電気伝導度ECa、横軸に土壌溶液の電気伝導度ECwをとり、土壌の電気伝導度ECaと土壌溶液の電気伝導度ECwとの線形的な相関を表す近似直線を線形推定モデルとして土壌水分量θごとに求め、当該近似直線を表す線形関数のパラメータを土壌水分量θごとに決定する 。

(6)上記手順(1)において現場から採取した土壌溶液の電気伝導度ECwをセンサに よって測定する。
(7)上記手順(5)で決定したパラメータを適用した線形推定モデルを用いて、現場の圃場で測定した土壌水分量θおよび土壌の電気伝導度ECaをもとに土壌溶液の電気伝導度ECwを推定する。
(8)推定した土壌溶液の電気伝導度ECwと上記手順(6)で測定した土壌溶液の電気伝導度ECwとを比較することによって、推定結果の妥当性を検証する。

 こ こ で 、 Rhoadesモ デ ル の よ う な 非 線 形 推 定 モ デ ル で は な く 、 図 3 の よ う に θ の 値 を 一定とした線形推定モデルを用いているのは、モデルを表す数式で使用するパラメータの数を少なくすることで、土壌水分量θおよび土壌の電気伝導度ECaに関する測定データの数を減らすことを目的としたものである。しかしながら、近似的な線形推定モデルであるが故に、推定の精度を一定レベル以上に保つためには、パラメータの数は多い方がよい。そのため、実際には実験室で多数の土壌試料を作成して、土壌水分量θおよび土壌の電気伝導度ECaの測定を行うとともに、遠心分離機にかけて抽出した土壌溶液の電気伝導度ECwを測定するといった煩雑な作業を行っており、非線形推定モデルの構築に多大な手間と多くの時間がかかっていた。 

【先行技術文献】
【特許文献】
【特許文献1】特開2010-166871号公報

【非特許文献】
【 非 特 許 文 献 1 】 " Effects of Liquid‑phase Electrical Conductivity, W ater Content, and Surface Conductivity on Bulk Soil Electrical Conductivity" : J. D. RHOADES, P. A. C. RAATS, AND R. J. PRATHER( Article in Soil Science Society of AmericaJournal, January 1976)
【 非 特 許 文 献 2 】 " 5TEセ ン サ ー で 測 定 し た 土 壌 水 分 量 の 簡 易 補 正 と 電 気 伝 導 率 の 検 証 ": 武 藤 由 子 、 渡 辺 晋 生 、 山 本 清 仁 、 倉 島 栄 一 ( 農 業 農 村 工 学 会 論 文 集 83巻 ( 2015) 2号 pp.I ̲9‑I ̲17)
【 非 特 許 文 献 3 】 " 圃 場 に お け る 土 壌 水 分 量 と 電 気 伝 導 率 の 連 続 観 測 の た め の 5TEセ ン サー の 簡 易 な 原 位 置 キ ャ リ ブ レ ー シ ョ ン " : 武 藤 由 子 、 窪 田 有 真 、 桐 山 直 盛 、 渡 辺 晋 生 (土 壌 物 理 学 会 ; 土 壌 の 物 理 性 No.137 (2017) p.3~ 9)

課題

 本発明は、このような問題を解決するために成されたものであり、非線形の推定モデルによって土壌などの多孔質体に含まれる溶液の電気伝導度を高精度に推定することができるようにするとともに、当該非線形の推定モデルを簡便に構築することができるようにすることを目的とする。

手段

 上記した課題を解決するために、本発明では、第1段階として、伝導効率一次係数、伝導効率二次係数および多孔質体に含まれる固体の電気伝導度である固相の電気伝導度を3つのパラメータとし、多孔質体の水分量、多孔質体の電気伝導度および多孔質体に含まれる溶液の電気伝導度を3つの変数とする非線形推定モデルについて、固相の電気伝導度が所定値であると仮定した上で、多孔質体から測定された多孔質体の水分量、多孔質体の電気伝導度および多孔質体に含まれる溶液の電気伝導度の複数組の各測定値を用いた線形回帰分析によって、伝導効率一次係数および伝導効率二次係数の2つのパラメータを仮算出する。そして、第2段階として、当該仮算出された伝導効率一次係数および伝導効率二次係数と、仮定した固相の電気伝導度の所定値とを3つのパラメータの初期値として、当該3つのパラメータと、多孔質体から測定された多孔質体の水分量、多孔質体の電気伝導度および多孔質体に含まれる溶液の電気伝導度の複数組の各測定値とを用いた非線形回帰分析によって、上記3つのパラメータを反復計算により最適化するようにしている。 

効果

 上記のように構成した本発明によれば、多孔質体の水分量と多孔質体の電気伝導度とを独立変数、多孔質体に含まれる溶液の電気伝導度を目的変数とする非線形推定モデルに基づき、伝導効率一次係数、伝導効率二次係数および固相の電気伝導度を3つのパラメータとして特定し、多孔質体の水分量および多孔質体の電気伝導度の測定値から、多孔質体に含まれる溶液の電気伝導度を高精度に推定することができる。また、本発明によれば、非線形回帰分析を行う際に初期値として用いる伝導効率一次係数および伝導効率二次係数の2つのパラメータが、非線形回帰分析を行う前の線形回帰分析によって仮算出される。すなわち、固相の電気伝導度が所定値であると仮定した上で、多孔質体から測定された多孔質体の水分量、多孔質体の電気伝導度および多孔質体に含まれる溶液の電気伝導度の複数組の各測定値を用いた線形回帰分析によって2つのパラメータが仮算出されるので、最適値から比較的近い値を非線形回帰分析の初期値として与えることが可能となる。このため、多孔質体の水分量、多孔質体の電気伝導度および多孔質体に含まれる溶液の電気伝導度の3つの変数に関する測定値が少ない場合でも、非線形推定モデルの3つのパラメータについて最適な組を得ることができる。これにより、測定データ数を極力少なくして、非線形の推定モデルを簡便に構築することができるようになる。

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特許情報

特開2019-190855

JPA 2019190855-000000