マイクロ流路を用いたハイドロゲルファイバーの創製

2022.08.16 By 信州大学

バイオ

技術概要

ハイドロゲルファイバーは、生分解性縫合糸や細胞培養基盤に利用される。
従来技術:マイクロ流路を用いてアルギン酸とカルシウムを水相に溶解して作製しているが、ゲル化速度の調整が困難。油相に溶解する方法については、ゲル化の速度が遅くなる。
本研究:フローフォーカシング構造のマイクロ流路中でゲル化反応を緩やかに進行させ、形状の制御が容易。単線(太さ100μm程度 )のハイドロゲルファイバーを精度良く作製可能。並列化によるスケールアップも。

用途・応用

ハイドロゲルファイバー

背景

 従来、アルギン酸ナトリウム水溶液をカルシウム塩の水溶液に吐出し、架橋することで、粒子やファイバーを形成させる方法がよく用いられている。このような方法により得られるゲルやファイバーは、アルギン酸カルシウムを含むハイドロゲルを材料とする。

 以下、本明細書においては、ハイドロゲルを材料とする粒子を「ハイドロゲル粒子」と称する。同様に、ハイドロゲルを材料とするファイバーを「ハイドロゲルファイバー」と称する。ハイドロゲル粒子とハイドロゲルファイバーとをあわせて「ハイドロゲル成形体」と称する。

 例えば、特許文献1には、プレゲル水溶液(ゲル化前のアルギン酸ナトリウム等)をゲル化剤水溶液(カルシウム塩)とともに同軸型マイクロ流体装置に流し、カルシウムイオン架橋してゲルファイバー複合体(太さは約600μm)を生成する技術が開示されている 。

 また、例えば特許文献2では、流路構造(マイクロ流路等)にゾル水溶液(アルギン酸ナトリウム等)とゲル化剤水溶液(カルシウム塩)を導入し、毛玉状のハイドロゲル粒子を作製する技術が開示されている。

【先行技術文献】
【特許文献】
【特許文献1】特開2018-16901号公報
【特許文献2】特開2012-170861号公報

課題

 しかながら、単線でしかも連続したハイドロゲルファイバーを作製する場合、マイクロ流路の幅をファイバー径よりやや太い程度まで狭める必要があり、特許文献2の技術をそのまま用いる場合は、それぞれの水溶液を接触させる際に流路閉塞を抑制するために架橋時間の調節のための緩衝剤を導入したり、また水溶液の流量やカルシウムイオンの拡散速度を厳密に制御する必要があった。すなわちカルシウムイオンの拡散速度が速すぎると、マイクロ流路の途中でゲル化が完了し流路閉塞が生じてしまうことがある。また、ゲル化にムラが生じた場合、マイクロ流路の出口から押し出されたファイバーに所々ゲル化していない部分が残り、途中でちぎれてしまうことが懸念される。

 また、特許文献2に記載の方法でハイドロゲル粒子を製造する場合、マイクロ流路の閉塞を抑制するため、マイクロ流路内における各原料液の流量やカルシウムイオンの拡散速度を厳密に制御する必要があった。

 そのため、従来よりも簡便に、ハイドロゲルを材料とした成形体(粒子、ファイバー)を連続的に製造することが可能な製造装置や製造方法が求められていた。また、形状特に太さをマイクロメートルオーダーで精密に制御することが可能な製造装置や製造方法が求められていた。

 本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、従来よりも簡便に、ハイドロゲルを材料とした成形体(粒子、ファイバー)を製造することが可能なハイドロゲル成形体の製造装置、ハイドロゲル成形体の製造システム及びハイドロゲル成形体の製造方法を提供することを目的とする。 

手段

 本開示の一態様に係るハイドロゲルファイバー製造装置は、フローフォーカシング構造のマイクロ流路を有するハイドロゲルファイバー製造装置であって、前記マイクロ流路は、ゲル化前の水溶液が分散相として供給される第1の入口流路と、ゲル化剤が溶融した油相が連続相として供給される少なくとも2本の第2の入口流路とが合流して形成され、前記マイクロ流路の出口は解放端としている。

 前記ゲル化前の水溶液はアルギン酸ナトリウム水溶液であり、前記油相は油溶性多価金属塩が溶解した長鎖アルコールであってもよい。

 前記マイクロ流路の幅は30μmから300μm、深さは30μm~300μmであってもよい。

 前記マイクロ流路の合流点から出口までの長さは1cm以上であってもよい。

 前記第1の入口流路は少なくとも2本の流路より構成され、それぞれ異なる成分のゲル化前の水溶液が供給されてもよい。

 前記第1の入口流路には光または熱によって重合するモノマーを含む水相が供給され、さらに前記マイクロ流路の途中に光源または熱源が設けられていてもよい。

 本開示の一態様に係るハイドロゲルファイバー製造方法は、フローフォーカシング構造のマイクロ流路を用いたハイドロゲルファイバー製造方法であって、ゲル化前の水溶液を分散相として前記マイクロ流路の第1の入口流路に供給し、ゲル化剤が溶融した油相を連続相として前記マイクロ流路の少なくとも2本の第2の入口流路に供給し、前記ゲル化前の水溶液と油相を、これらの界面が前記マイクロ流路と平行に接するように前記マイクロ流路内を移動させ、前記マイクロ流路の解放端よりハイドロゲルファイバーを回収する。

 前記ゲル化前の水溶液はアルギン酸ナトリウム水溶液であり、前記油相は油溶性多価金属塩が溶解した長鎖アルコールであってもよい。

 前記油溶性多価金属塩は、臭化カルシウム、ヨウ化カルシウム、臭化スカンジウム、ヨウ化スカンジウムからなる群から選択される少なくとも1種であってもよい。

 前記油溶性多価金属塩は、ヨウ化カルシウムであってもよい。

 前記長鎖アルコールはヘキサノールであってもよい。

 前記ハイドロゲルファイバーの直径は30μm~150μmであってもよい。

 前記水相中アルギン酸ナトリウム水溶液の濃度は0.5wt%以上であり、前記油相におけるヨウ化カルシウム濃度は1.0wt%以上であり、前記水相の流量は0.01mL/h~2.0mL/h、前記油相の流量は0.1mL/h~10.0mL/hであってもよい。

 上記の課題を解決するため、本発明は以下の態様を包含する。

[1]マイクロ流路を有するハイドロゲル成形体の製造装置であって、前記マイクロ流路は、分散相として架橋性官能基を有する多糖類の水溶液が供給される第1の流路と、連続相として、第1の有機溶媒にゲル化剤を溶解させた溶液が供給される第2の流路と、を有し、前記第2の流路は、前記第1の流路の経路途中において前記第1の流路に接続されるハイドロゲル成形体の製造装置。

[2]前記第1の流路の幅は50μm以上200μm以下であり、前記第1の流路の深さは50μm以上200μm以下である[1]に記載のハイドロゲル成形体の製造装置。

[3]前記第1の流路と前記第2の流路との合流点から前記マイクロ流路の出口までの長さは1cm以上である[1]又は[2]に記載のハイドロゲル成形体の製造装置。

[4]前記第1の流路は、前記第1の流路と前記第2の流路との接続箇所よりも上流側において、第1サブ流路及び第2サブ流路に分岐し、前記第1サブ流路及び前記第2サブ流路には、それぞれ異なる成分の前記水溶液が供給される[1]から[3]のいずれか1項に記載のハイドロゲル成形体の製造装置。

[5]前記第1の流路において、前記第1の流路と前記第2の流路との接続箇所よりも下流側に、光源又は熱源が設けられている[1]から[4]のいずれか1項に記載のハイドロゲル成形体の製造装置。

[6]前記ハイドロゲル成形体はファイバー状であり、主面に前記マイクロ流路が設けられた基板を有し、前記マイクロ流路の出口は、前記主面の端部において前記主面と交差する側面に開口している[1]から[5]のいずれか1項に記載のハイドロゲル成形体の製造装置。

[7]前記ハイドロゲル成形体は粒子状であり、前記マイクロ流路は、連続相として、ゲル化剤を実質的に含まない第2の有機溶媒が供給される第3の流路を有し、前記第3の流路は、前記第1の流路の経路途中において、前記第1の流路と前記第2の流路との接続箇所よりも上流側で前記第1の流路に接続される[1]から[5]のいずれか1項に記載のハイドロゲル成形体の製造装置。

[8][6]に記載のハイドロゲル成形体の製造装置と、前記第1の流路に前記水溶液を供給する第1供給部と、前記第2の流路に前記溶液を供給する第2供給部と、を有するハイドロゲル成形体の製造システム。

[9][7]に記載のハイドロゲル成形体の製造装置と、前記第1の流路に前記水溶液を供給する第1供給部と、前記第2の流路に前記溶液を供給する第2供給部と、前記第3の流路に前記第2の有機溶媒を供給する第3供給部と、を有するハイドロゲル成形体の製造システム。

[10]前記ハイドロゲル成形体の製造装置を複数有する[8]又は[9]に記載のハイドロゲル成形体の製造システム。

[11]マイクロ流路を用いたハイドロゲル成形体の製造方法であって、分散相として、架橋性官能基を有する多糖類の水溶液を流路に供給し、前記流路の側面から、連続相として第1の有機溶媒にゲル化剤を溶解させた溶液を供給し、前記流路内で前記水溶液と前記溶液とを接触させるハイドロゲル成形体の製造方法。

[12]前記水溶液は、アルギン酸ナトリウム水溶液であり、前記ゲル化剤は、油溶性多価金属塩であり、前記第1の有機溶媒は、炭素数]から]の長鎖アルコールである[11]に記載のハイドロゲル成形体の製造方法。

[13]前記長鎖アルコールはヘキサノールであることを特徴とする、[12]に記載のハイドロゲル成形体の製造方法。

[14]前記油溶性多価金属塩は臭化カルシウム、ヨウ化カルシウム、臭化ストロンチウム、ヨウ化ストロンチウムからなる群から選択される少なくとも1種である[12]又は[13]に記載のハイドロゲル成形体の製造方法。

[15]前記油溶性多価金属塩はヨウ化カルシウムである[14]に記載のハイドロゲル成形体の製造方法。

[16]前記水溶液中のアルギン酸ナトリウム水溶液の濃度は0.5質量%以上であり、前記溶液におけるヨウ化カルシウム濃度は1.0質量%以上であり、前記水溶液の流量は0.01mL/h以上2.0mL/h以下であり、前記溶液の流量は0.1mL/h以上10.0mL/h以下である[15]に記載のハイドロゲル成形体の製造方法。

[17]前記水溶液は、光又は熱によって重合するモノマーをさらに含み、前記ゲル化剤と接触させた前記水溶液に光又は熱を照射する[11]から[16]のいずれか1項に記載のハイドロゲル成形体の製造方法。

[18]前記ハイドロゲル成形体の直径は30μm以上150μm以下である[11]から[17]のいずれか一項に記載のハイドロゲル成形体の製造方法。

[19]前記ハイドロゲル成形体はファイバー状であり、前記水溶液と前記ゲル化剤との反応生成物を、前記流路の出口から大気中又は液体中に直接排出させて回収する[11]から[18]のいずれか1項に記載のハイドロゲル成形体の製造方法。

[20]前記ハイドロゲル成形体は粒子状であり、前記水溶液と前記溶液とを接触させる前に、前記流路の側面から、連続相としてゲル化剤を実質的に含まない第2の有機溶媒を供給し、前記流路内で複数の前記水溶液の液滴を形成する[11]から[18]のいずれか1項に記載のハイドロゲル成形体の製造方法。 

効果

 本発明によれば、従来よりも簡便に、ハイドロゲルを材料とした成形体(粒子、ファイバー)を製造することが可能なハイドロゲル成形体の製造装置、ハイドロゲル成形体の製造システム及びハイドロゲル成形体の製造方法を提供することができる。

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特許情報

特願2021-020815

JPA 2021126651-000000