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製品の原材料となる粉体の均一な混ざり具合をAIで予測する新たな手法を大阪公立大学のグループが開発した。従来方法に比べ350倍の計算速度を実現。製造現場で求められる大規模かつ長い時間幅でのシミュレーションを可能とした。手法を応用することで、電池や医薬品、食品などの製品開発や製造の迅速化・効率化が期待されるという。
製造業において2種類以上の大量の粉を均一に混ぜ合わせることは製品の品質を保つために必要なこととされている。混ざり具合が適正かどうかは長年の勘や技術者の腕によるところが大きく、人材不足の産業では高い再現性を担保できるかが課題だった。
これまで100万個の粒、およそスプーン1杯分の粉体をきれいに混ぜ合わせるための予測法である離散要素法(DEM)という方法は存在していた。ただ、粉体を構成する固定粒子の動きを一つ一つ計算するなど手順が煩雑で時間がかかる。粉体も少量のため、大量の粉体を混合する製造現場の実態に合わず、「シミュレーション手法としては使えない」という声が上がっていた。
大阪公立大大学院工学研究科の仲村英也准教授(化学工学・粉体工学)らは新たな手法の確立に向けまず、粉体1粒1粒が平均的にどのような動きをしているかをAIに機械学習させた。機械学習のAIでは「最も起こりやすい動き」を学習して再現するため、全ての粉体の粒が同一に渦巻き状に動いてしまうという欠点が生じた。確かに均一に混ざっているが、この手法では現実の動きを反映しているとはいえない。
そこで仲村准教授は社会実装のために実際に製造業者を訪ね歩き、得た声から「大半の粒と同じ動きをせずに逸脱する粒」に着目。その「個性的な動きをする粒の挙動」もAIに覚えさせることで「RNNSR」という新しい手法を生み出した。RNNSRは渦巻き状の混ざり方に加え、それらからずれて混ざり合う粉も再現でき、製造現場で使うような大量の粉が混ざる様子をシミュレーションできる。
さらに、DEMとRNNSRを比較したところ、1粒ずつの動きを計算するDEMに比べ、RNNSRは350倍の計算速度で粉体の混ざり具合を計算できることも分かった。これは、従来法では単純に1年間計算し続けないと結論が出なかったのに、新しい方法では1日で計算を終えると言い換えることができる。
製造業の人手不足という社会問題に対し、AIなど最先端科学を応用して解決しようという試みが始まっている。仲村准教授は「粉を混ぜる世界では単純な機械学習によるAI導入だけでは問題解決しないことが分かり、一手間かける必要があると判明した。100%の精度に近づけるために産学連携で研究を続けたい」と話す。
研究成果を基に今後は粉体の扱い方によってどういう製品ができるのかという点も仮想空間で予測。迅速な製品開発につなげるなどデジタルトランスフォーメーション(DX)を駆使した新たなものづくりへの貢献も期待されるという。
研究は日本学術振興会の科学研究費助成事業・特別研究員奨励費を受けて行われ、オランダの学術誌「ケミカル・エンジニアリング・ジャーナル」電子版に9月27日に掲載され、10月3日に大阪公立大が発表した。