ヒアリもアライグマもやってくる――国環研・五箇公一さんに聞く 外来種と人間社会【前編】

2023.09.07 From Science Portal By 腰高直樹 / サイエンスポータル編集部

 ヒアリ、ツマアカスズメバチ、アライグマ、マダニ――生態系や人の暮らしに影響を与える外来種が次々と現れ、現場は日々その対策に追われている。2022年12月の国連第15回生物多様性条約締約国会議(COP15)で扱われた「ポスト2020生物多様性枠組」では、外来種対策のターゲット目標が掲げられた。

 日本の外来種対策の第一人者で「外来種バスター」の異名を持つ、国立環境研究所生態リスク評価・対策研究室の五箇公一(ごか・こういち)室長に、ヒアリをはじめとした海外からの侵入が続く外来種と人間社会について話を聞いた。

自身で描いた生き物のイラストの前で話をする五箇さん
自身で描いた生き物のイラストの前で話をする五箇さん

コロナ禍でも次々に見つかるヒアリ

―ヒアリが2017年以降、海外からのコンテナで次々に発見されて話題になりました。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ですっかり忘れかけていましたが、6年以上が経った現在はどのような状況でしょうか。

ヒアリのイラスト(五箇さん提供)
ヒアリのイラスト(五箇さん提供)

 コロナ禍でも物流はあるわけで、ヒアリがコンテナで入ってくる事例はずっと続いています。さらに、今は世界的なコンテナ不足。ものすごい勢いでコンテナを使い回しているものだから、余計にヒアリが入りやすい状態になっていると思います。昨年10月末に福山港(広島県)に入った例では、1つのコンテナから7万匹以上というとんでもない数のヒアリが見つかりました。

 コンテナの取り扱い量が世界一の中国では、インフラ開発などを通してヒアリが全土に爆発的に広がっているようです。2021年の発表では、それまでの5年間で国内のヒアリ発見地域が倍増したとのことで、世界的に見ても過密地帯になっていると考えられます。

 日本では、入ってくるものをとにかくどうにかしなきゃと、現場はコロナの間もずっと水際の駆除を続けて、侵入を抑えてきた状況です。

―ヒアリ駆除は、実際どういった方法で行われますか。

ヒアリ駆除で使われるベイト剤の開発中サンプル。ヒアリが好きなコーンスナック菓子の香りが添加されているという
ヒアリ駆除で使われるベイト剤の開発中サンプル。ヒアリが好きなコーンスナック菓子の香りが添加されているという

 「アリの巣」という拠点を作るので、そこを徹底的に対処します。巣がありそうなら「ベイト剤」といって、毒エサを撒いて巣の中に運ばせます。巣穴自体が見つかっていれば、そこに液剤を直接投入して駆除します。いずれの薬剤も、アリが食べたり、仲間の体表にくっついたものを舐めたりすると死ぬ、というものです。

 アリの場合は、よく効く薬があり、社会生活をするという行動を逆手にとれるので、国内に定着していない現段階なら、まだ防げる類の外来種です。

一度定着すれば「負け戦」

―ヒアリは今後もコンテナなどで入り続けてくることが予想されます。日本や世界では現在、どのような対策が進められていますか。

 外来種が一度定着してしまえば、人間側はほとんど「負け戦」しかありません。ヒアリに関して言えばアメリカも中国もオーストラリアも大きく広がってしまい、いずれも根絶は上手くいっていません。その中で、日本はまだなんとか定着させていないということで、環境省もヒアリは外来種対策の目下の最優先課題としています。

 2022年の外来生物法(特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律)改正では、「要緊急対処特定外来生物」というカテゴリが新しく作られ、ここにヒアリが入りました。これによって、ヒアリ対策に予算が集中できるようになります。

 我々としては、モニタリングを強化して駆除の徹底を続けています。それと同時に、より良く効く薬のスクリーニングや、どういう風に薬を効かせたら効果的かという方法論も研究していきます。

DNAで判定、飼育して対応を検討

―ほかにも対策はありますか。

 見つかったアリがヒアリかどうかを判定する「ヒアリDNA検出キット」を開発しました。また、研究体制強化の一環として、来年度からヒアリの飼育を計画しています。環境省の飼養許可を得て隔離施設内で飼育して、さまざまな試験に対応できるようにしたいと考えています。

 外来種対策の世界の動きとしては、昨年12月の国連第15回生物多様性条約締約国会議(COP15)の中で扱われた「ポスト2020生物多様性枠組」では、生物多様性への脅威を削減するターゲットとして「外来生物の侵入・定着を少なくとも50%削減する」ということが一つ掲げられています。

環境研で開発した「ヒアリDNA検出キット」を見せてもらった。アリの脚の一部(画像はクロオオアリ)を潰し入れた抽出液を判定試薬に入れて決まった温度で管理して検査することで、ヒアリかどうか判定できる
環境研で開発した「ヒアリDNA検出キット」を見せてもらった。アリの脚の一部(画像はクロオオアリ)を潰し入れた抽出液を判定試薬に入れて決まった温度で管理して検査することで、ヒアリかどうか判定できる

九州に広がりそうなツマアカスズメバチ

―ヒアリ以外に、注視している外来種はいますか。

 我々の研究対象という部分も含めて、今力を入れているものにツマアカスズメバチがあります。中国原産のスズメバチで、韓国を経由して対馬(長崎県)に定着。昨年の秋には福岡市内の郊外エリアで巣が見つかりました。

 在来のスズメバチの仲間に比べて雑食性が強く、とにかく何でも食べます。季節に応じて食事のメニューを変えていくという侵略的外来種たる性質を持っていて、当然、生物多様性への影響が懸念されます。スズメバチなので刺される人的被害がありますし、養蜂業などにも被害が出ます。

 これから九州本土で広がっていく恐れがあるので、今の段階で徹底的な対策が必要です。対馬以外ではまだ認知度が低いので、皆さんに知っていただきたい外来種です。

ツマアカスズメバチの標本。体長は女王(左側4頭)で3センチメートル、働き蜂(右側、右上1個体を除く)で2センチメートル程度。頭部と腹部の先端以外が黒っぽい。樹上の高い場所に、最大1メートルを超える大きな巣を作るという
ツマアカスズメバチの標本。体長は女王(左側4匹)で3センチ、働き蜂(右側、右上1匹を除く)で2センチ程度。頭部と腹部の先端以外が黒っぽい。樹上の高い場所に、最大1メートルを超える大きな巣を作るという

都市で爆発的に増えているアライグマ

―節足動物以外の外来種では、最近アライグマが増加しているという話を耳にします。

 もちろん警戒すべき外来種だと思います。アライグマは、空き家を住処にするなどして、都内でも近年爆発的に増えています。何でも食べるし、人に懐かないのに人慣れして市街地に入り込みます。駆除を諦めてはいけない動物ですが、今のところ打つ手が非常に限られているのも事実です。相手が哺乳類ということで罠や狩猟しか手がなく、その担い手も多くありません。

 問題として一番危惧されるのは、感染症を持ち込むこと。狂犬病などが入ってしまうと、アライグマが媒介して広げてしまうことが、海外の状況からも懸念されます。

 外来種問題は、環境課題としては広く理解されていると思いますが、実被害としてみると自然環境や生態系の価値など大きな数値を出しにくい部分があります。同じ環境課題である気候変動対策などと比べて国の予算も大きくはなく、対応が後手に回っているというのが現実です。

民家の監視カメラに写ったアライグマ(群馬県内)
民家の監視カメラに写ったアライグマ(群馬県内)

マダニが媒介する致死性の高い感染症

―最近知られ始めた、マダニが媒介する致死性のウイルス感染症「SFTS(重症熱性血小板減少症候群ウイルス)」についても教えてください。

マダニの一種のイラスト(五箇さん提供)
マダニの一種のイラスト(五箇さん提供)

 SFTSは、2009年に中国で多くの患者が発生して初めて認識された、マダニが媒介する新興感染症です。

 分子系統から、ウイルスが1700年頃に中国で発生した比較的新しいもので、日本へは1800年代以降、中国南部から、および韓国から侵入してきたことが示唆されています。このウイルスの移動には、渡り鳥がマダニを運んだことによる可能性と、日本と大陸の人流・物流が活発になり始めた時期と重なっているので、人間の活動によってマダニが運ばれてきたことによる可能性が推察されています。

刈り払いされた草の枯れ枝に群がるマダニの仲間(群馬県内)
刈り払いされた草の枯れ枝に群がるマダニの仲間(群馬県内)

 SFTSの発症が最近になって増加している背景には、日本のケースに関しては、ダニを運ぶ野生動物が人間の住むエリアに入り始めたことが関係しているとみています。以前は農山村エリアのものだった他のダニ媒介感染症の「日本紅斑熱」や「ツツガムシ病」なども、近年は身近なエリアで増加傾向にあるとされます。

 そして、シカなどが運ぶマダニを街中へ広げるのに一役買っているのが、先ほどのアライグマではないかと疑われています。国立感染研究所による、和歌山県田辺市で捕獲されたアライグマの血液調査では、2007年以降SFTSの抗体陽性率が年々上がっていることが示されました。野生動物が人間社会に近づくと同時に、外来種が橋渡しの役割をして、マダニや病気を一層、身近なところへと近づけている実態が見えてきます。

 日本で最初にSFTSが見つかった山口県では、身近な公園でマダニが大量に見つかり駆除方法に苦慮する事態になりました。本来、マダニが街中で発生するようなことはなく、駆除の対象になることもありませんでした。

関連リンク

国立環境研究所Webサイト
国立環境研究所「侵入生物データベース」

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