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野生動物の保全活動として、国立環境研究所(茨城県つくば市)が2002年から実施している絶滅危惧種の細胞などを凍結保存する「タイムカプセル化事業」の2カ所目として、沖縄での設備運用が6月から始まった。災害リスクの分散とヤンバルクイナなど希少種の現地保存のため。予算確保がかなえば今後は北海道での運用も目指している。
タイムカプセル化事業は遺伝的な多様性を未来に残すため、国際自然保護連合(IUCN)や環境省のレッドリストに掲載されている絶滅危惧種の野生動物の細胞をはじめ、組織やDNA、RNAといった試料を凍結保存している。
国立環境研究所で事業を担当する大沼学主幹研究員によると、国環研内にあるタイムカプセル棟に19基設置された液体窒素タンクに、日本産トキ、オガサワラシジミなど127種、約5000個体の試料を収めている。タンクは高さ1メートルほどの大きさで、液体窒素によってマイナス150~160度に保ち、1基で細胞などを入れたチューブ1万4000本を保存できる。
交通事故などで死んだ絶滅危惧種を冷蔵で国環研に運び、感染症の有無や死因を確認した後に解剖、臓器ごとに試料採取、凍結保存する。皮膚や筋肉の細胞は培養して増やしてから凍結保存する。
保存していた試料を利用して、猛禽類やヤンバルクイナが高病原性鳥インフルエンザウイルスにかかると高い確率で死んでしまう可能性があることを示す研究や、オオタカやトビ、ハヤブサといった猛禽類の鉛汚染状況を確認することができた。
しかし、2011年3月、東日本大震災による停電で液体窒素がタンクに供給できなくなった。この危機により、1カ所しか凍結保存施設がないと、その1カ所の稼働が停止することですべての試料が溶けて壊れてしまうリスクが明らかになった。そこでリスクの分散策として、沖縄県本部町に新たな設備を設置。沖縄で保存していたヤンバルクイナの精子をタンクに入れ、一般財団法人沖縄美ら島財団と共同で運用を始めた。
設備の液体窒素タンクにはチューブ1万本分程度の試料が入る。今後はヤンバルクイナやイリオモテヤマネコ、ノグチゲラなど地元の試料を中心に一部国環研の試料もリスク分散のために保存していく。
大沼研究員によると、北海道大学大学院獣医学研究院の野生動物学教室などと北海道にも凍結保存設備を置き、オジロワシやオオワシ、シマフクロウといった北海道にいる絶滅危惧種の試料を中心に国環研や沖縄の試料を分散保存する構想がある。予算確保に難航しているといい、8月20日までクラウドファンディングを実施している。