ISS滞在「誠心誠意取り組む」古川さん強調、帰還した若田さんも会見

2023.06.11 From Science Portal By 草下健夫 / サイエンスポータル編集部

 国際宇宙ステーション(ISS)へと8月にも出発する古川聡さん(59)が都内で会見し「広く客観的な視点を持ち、誠心誠意取り組みたい」と意気込みを語った。宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、不正が発覚した研究の実施責任者として懲戒処分としていたが、説明責任を果たし問題ないと判断した。一方、3月に帰還した若田光一さん(59)はトラブルが多かったとしつつも、「日本が強く期待されている技術の実証に貢献できた」などと滞在を振り返った。

不正の責任踏まえ「作業を極力撮影」

会見する古川聡さん=5月22日、東京都千代田区のJAXA東京事務所
会見する古川聡さん=5月22日、東京都千代田区のJAXA東京事務所

 古川さんの今回の飛行は2020年11月に決まった。約半年間、ISSで実験などを行う。ただJAXAは今年1月、宇宙生活を地上で模擬する精神ストレスの研究で捏造(ねつぞう)や改ざんなどの不正が多数あった問題を受け、実施責任者の古川さんを戒告とするなど関係者を処分している。

 飛行士は飛行前後の時期に、ブルースーツと呼ばれる船内用宇宙服で会見するのが通例だが、古川さんは先月22日、幹部らと背広姿で登壇した。「研究の責任ある立場として重く受け止めている。その上で、職務に全力を尽くすことが責務と考えてきた。身が引き締まる思いだ。日本人飛行士のバトンをしっかり引き継ぎたい」と飛行の意思を強調した。

 反省を受け、ISSでは「一つ一つの仕事を着実に実施する姿を示したい」とした。具体的には、実験に制約や条件がある場合に、単に手順に従うだけでなくその科学的な背景まで理解することや、チェックリストを使ってダブルチェックをしながら進めることを例示した。また自身の肩などにカメラを取り付け撮影し、作業の様子を地上の専門家に見てもらうという。「従来もあったものだが、制約がない限り徹底したい」とした。約半年間の滞在中、活動は船内での実験を中心とし、船外活動は行わない見通しという。

 8月中旬にも、米国などの飛行士3人と共に米宇宙船「クルードラゴン」7号機で出発する。同機は再利用可能で「エンデュアランス(耐久、忍耐)」と命名されており、3、5号機に続き3回目の運用となる。

 古川さんは1964年、神奈川県生まれ。博士(医学)。消化器外科の臨床及び研究への従事を経て、99年に山崎直子さん(52)=2011年にJAXA退職、星出彰彦さん(54)と共に飛行士候補に選ばれた。11年にISSに5カ月半滞在しており、今回は実に12年ぶり2回目の飛行となる。少年時代、人気特撮作品「ウルトラセブン」に憧れ宇宙に関心を持った。地上ではJAXAの宇宙医学生物学研究グループ長を歴任するなど、宇宙医学研究を推進してきた。

トラブル多発も「チームワークで克服」

会見する若田光一さん=5月24日、東京都千代田区のJAXA東京事務所(JAXA提供)
会見する若田光一さん=5月24日、東京都千代田区のJAXA東京事務所(JAXA提供)

 一方、先月24日に会見した若田さんは、昨年10月~今年3月の5カ月間のISS滞在を「非常に多くのトラブルがあったが、チームワークで乗り越えた」と話した。自身5回目の飛行だった。

 最大のトラブルとして、ISSに係留中だった露宇宙船「ソユーズ」で昨年12月に発覚した冷却剤の漏出を挙げた。ISSで火災や急減圧が発生した場合、飛行士は乗ってきた宇宙船で地球に緊急避難するが、同機に乗ってきた米露3人はそれができなくなることから、代替の避難方法を検討したという。同機は予定を変更して無人で帰還する一方、3人の帰還のために後続のソユーズが無人でISSに到着している。漏出の原因は微小隕石の衝突とされている。さらに今年2月、露物資補給機「プログレス」でも同様の冷却剤漏出が発覚した。

 また昨年11月に打ち上げられた米物資補給機「シグナス」は、太陽電池パネル2基のうち1基に、分離したロケットの部品が挟まり、展開に失敗した。搭載品の一部に電力が供給できなくなり、対応を迫られたという。このほか昨年12月、米国の船外活動が開始直前、ロシアのロケットの残骸とされるものが接近して延期となったことなどを挙げた。

 今年1月の自身初の船外活動でも、太陽電池パネルの器具に構造上の干渉があってISSに取り付けられない問題が発生した。2月に追加実施した2回目でも道具が壊れるなどの困難があったが、最終的に器具を取り付けた。一連のトラブルを振り返り「想定外があっても、地上と飛行士のチームワークで乗り越え、有人宇宙活動の強みを感じる経験になった」と総括した。

「星々や月が、さらに遠くへ導いてくれる」

 若田さんは船外活動について「眼前に広がる美しい地球を見ながらでき、本当にこの仕事を続けてきてよかったと思えた。ISSの一番端で作業し、『ここが本当に有人宇宙活動の果て』と思いながら作業した。その先に広がる星々や月が、さらに遠くへと導いてくれる印象を持った」と感慨を語った。

船外活動を行う若田さん=1月21日(JAXA、NASA提供)
船外活動を行う若田さん=1月21日(JAXA、NASA提供)

 日本実験棟「きぼう」を活用した実験やイベント、関連作業も多数こなした。2月には科学技術振興機構(JST)のニュースサイト「サイエンスポータル」にメッセージを寄稿し、ISSや日本実験棟「きぼう」の印象、思いをつづった。国際月探査計画「アルテミス」を念頭にした活動もあり、自ら開発に従事した水再生システムの実証などを行ったことに言及。「貢献できたことは大きな喜び。日本が優れた技術を生かして月探査に貢献し、日本人が月面に立つ日を夢見て、今後も頑張りたい」とした。

 各国の飛行士が今回好んだ宇宙食を問われると「圧倒的に全員から人気があったのは日本の白ご飯。本当に美味しい。これが嫌いな仲間は一人もおらず、早くなくなってしまった」と笑った。

 若田さんは1963年、埼玉県生まれ。博士(工学)。日本航空で整備や機体構造技術に携わった後、92年に飛行士候補に選出された。96年以降、今回を含め5回の飛行経験を持つ。ルーキーにして搭乗運用技術者として米スペースシャトルに搭乗し、2014年にはISS船長を務めるなど、数々の「日本人初」を成し遂げてきた。

信頼回復だけではない課題

 12年ぶりの古川さんの飛行は、研究不祥事の反省を背負う点でも注目が集まる。信頼回復の取り組みが単にペナルティーとしてではなく、地上の研究者とも連携し、科学研究のあり方について社会が考え認識を深める機会となるよう期待したい。

 低軌道、つまり地球のすぐ上を飛ぶISSで技術を磨いてきた米国などは、アポロ以来の有人月探査の準備を進めている。日本の貢献も求められ、日本人が2020年代のうちにも月面に立つ展望が語られている。間違いなく大きな話のはずだが、関係者や宇宙ファンなどを除き、一般の関心が今一つなのが気がかりだ。今回の古川さんの飛行は、実験などの計画の遂行に加え、研究不祥事を受けた信頼回復、さらに宇宙開発への関心の広がりという、国民に対する大きな課題を負っている。

国際宇宙ステーション(NASA提供)
国際宇宙ステーション(NASA提供)


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