光を99.98%吸収、究極を超えた?「至高の」暗黒シート、産総研など開発

2023.02.10 From Science Portal

 可視光を99.98%以上吸収しほとんど反射しない「至高の暗黒シート」を産業技術総合研究所と量子科学技術研究開発機構の研究グループが開発した。カシューナッツの殻から抽出したポリフェノール類の「カシューオイル」の樹脂を利用。同じグループが2019年に開発した「究極の」シートを超えた黒さで、耐久性も良く、触れる素材では世界一の黒さとなった。

研究成果のまとめ。カシューオイル黒色樹脂を利用し「至高の」黒さを実現(産業技術総合研究所提供)
研究成果のまとめ。カシューオイル黒色樹脂を利用し「至高の」黒さを実現(産業技術総合研究所提供)

 反射の少ない黒色材料は装飾や映像、太陽エネルギー利用、光センサーなど多分野で利用され、優れた材料が切望されている。炭素でできた円筒状の物質、カーボンナノチューブでできた材料はあらゆる光を99.9%以上吸収し世界一とされてきたが、触ると壊れてしまい実用が難しかった。

光を閉じ込める構造。微細な凹凸に光が入り込むと、表面で吸収と反射を繰り返し正味の反射率がゼロに近づいていく(産総研提供)
光を閉じ込める構造。微細な凹凸に光が入り込むと、表面で吸収と反射を繰り返し正味の反射率がゼロに近づいていく(産総研提供)

 研究グループは2019年に「究極の」暗黒シートを発表した。これは加速器からイオンビームを照射するなどして、カーボンブラック顔料を混ぜたシリコーンゴムに微細な円すい状の凹凸を作り、ここに光を閉じ込める構造にしたもの。紫外線と可視光、赤外線を99.5%以上、特に熱赤外線は99.9%以上吸収した。反射によるぎらつきを抑え耐久性にも優れるものの、素材内部から生じる散乱による「くすみ」が出る難点があった。

 さらに可視光での99.9%の達成を目指し調べると、「究極の」シートのくすみの原因が、カーボンブラック顔料による散乱であることが判明。顔料の粒子の凝集体ができて光が散乱しやすくなっていた。散乱の少ない材料を探した結果、カシューオイルの黒い樹脂が適していることを発見した。カシューオイルを使った塗料は、漆の代用品として使用されている。

カーボンブラック顔料だと粒子が“ダマ”になって光が散乱しやすい。カシューオイル黒色樹脂なら散乱が少ない(産総研提供)
カーボンブラック顔料だと粒子が“ダマ”になって光が散乱しやすい。カシューオイル黒色樹脂なら散乱が少ない(産総研提供)

 カシューオイル樹脂の膜は顔料を加えなくても黒く、くすみが極めて少ない。「究極の」シートで使った光閉じ込め構造に加え、これを利用することで、可視光の99.98%以上を吸収する「至高の」シートを開発した。触っても壊れず、実用性が高いという。

「至高の」暗黒シートは2019年の「究極の」をしのぐ性能をみせた(産総研提供)
「至高の」暗黒シートは2019年の「究極の」をしのぐ性能をみせた(産総研提供)

 産総研が研究する光の精密な計測のほか、カメラのレンズ鏡筒などの光学機器内部の乱反射防止や、VR(仮想現実)用ヘッドセットの内部などに利用できる可能性がある。人間の目は黒さに敏感といい、印刷物や画面で微妙な階調表現ができる期待もあるという。

 会見では、究極のシートに当てたレーザーポインターの光は目で分かる一方、至高のシートでは見かけ上、全く分からないことを披露した。産総研応用光計測研究グループの雨宮邦招(くにあき)グループ長は「反射率の低減は、やり尽くした。ここからはいかに実用化するか、コストも含め検討することが主になる。素材メーカーなどとライセンス契約して技術移転できれば」と話した。現状は10センチ角だが、より大きいサイズの作成も視野に入れる。

 成果は米科学誌「サイエンス・アドバンシズ」に先月14日掲載され、産総研と量研が同18日発表した。

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