有機合成にさようなら!“混ぜるだけ”蛍光プローブ3秒間クッキング

2024.03.02 From Chem-Station By Macy

第592回のスポットライトリサーチは、香港科技大学(Ben Zhong Tang研)の清川慎介さん(博士課程)にお願いしました!

 

Tang先生の研究室は、在籍者が100名を超える超ビッグラボ(一時期は200人くらいいたそう。下記、清川さん談)で、光機能性分子や高分子材料を主に研究されています。今回開発されたのは、テトラジンと様々な蛍光団が”共凝集”することでブロードな発光スペクトルを実現した新たな生体直交性反応基(テトラジン)を有するターンオン型蛍光プローブです。

 

テトラジンに連結した疎水性官能基と、蛍光分子(いずれも主に芳香族化合物)が水中で凝集し、このとき凝集誘起発光を示す組み合わせを徹底的に検討されています。さらに、歪アルキンとテトラジンのクリック反応により異なる発光を示すターンオン機能まで搭載したシステムになっています。本報はAngew. Chem. Int. Ed.誌に原著論文として採択され、中国のメディアからも注目され、本研究の関連記事が公開されています!

 “Co-aggregation as A Simple Strategy for Preparing Fluorogenic Tetrazine Probes with On-Demand Fluorogen Selection”,

Shinsuke Segawa, Jiajie Wu, Ryan T. K. Kwok, Terence T. W. Wong,* Xuewen He,* and Ben Zhong Tang*, Angew. Chem. Int. Ed. 2023, e202313930. DOI: 10.1002/anie.202313930

研究室主催者のTang先生からは、清川さんについて以下のコメントをいただきました!

As a Ph.D. student, Shinsuke is well-trained, highly self-motivated and independent. In some sense, his research skill is much better than many post-doctoral fellowship. His research focuses on developing novel aggregation-induced emission luminogens (AIEgens) and exploration of their high-tech biomedical application. He has developed two novel systems for fluorogenic bioimaging based on metal-free click reaction of tetrazine modified AIEgens. In these work, tunable structures, excellent optical properties, thorough theoretical calculation results and novel functionalities can be efficiently generated. The deepest impression on me is his exceptional learning ability, which enables him to quickly grasp important theoretical knowledge and experimental techniques. In addition to his ability in chemical synthesis, he is also proficient in techniques such as mammalian cell/bacterial culture, biological imaging, nanoparticle preparation and theoretical calculations, etc.

Meanwhile, he is also an active and responsible collaborator. All the research projects he carried out are exceptional and promising for fruitful outputs. Additionally, he has actively participated in academic conference and has been invited to present his research for several times. More high-quality papers are expected to be published in the near future.

Besides his academic achievements, Shinsuke also demonstrates his great enthusiasm and is always passionate to help and serve others, especially in the field of computational chemistry where he excels. He has been in charge of many instruments and participated in the discussion of research projects and writing some research proposals. He can accomplish all these jobs at the same time. This clearly demonstrates his diligence and excellent multitask ability.

Impressed by his outstanding research performance, comprehensive abilities and charming personality, I would definitely recognize Shinsuke as a rising star in Chemistry academia. It is my great pleasure to give him my strongest support for his academic career development in the future.

それでは、清川さんの熱いコメントを含むインタビュー、お楽しみください!!

 

Q1. 今回プレスリリースとなったのはどんな研究ですか?簡単にご説明ください。

有機反応フリー、混ぜるだけですぐに使える、ターンオン蛍光プローブの開発を行いました。

 

蛍光プローブとは(特に生体内の)特定の分子、化学反応や現象をターゲットして発光を示す分子であり、生体内の現象を直接「見る」ための基礎ツールとして重要です。

 

その特徴は、蛍光機能(色や明るさ)を担う発色団と、生体内の機能(ターゲット能や反応性)を担う機能団との組み合わせで決まります。

 

元々は既に発色団と機能団が繋がった分子を購入するのが蛍光プローブ準備法として主流でしたが、近年、クリック反応の発展とともに、実験系に対してオンデマンドにそれぞれを可変に組み合わせることが可能になりました。しかし、たとえ化学者にとっては簡単なクリック反応であっても、生物実験スケールで行うのは設備投資が大きく・時間がかかり・面倒くさいタスクとなります。

 

そこで本研究では、疎水性分子が水中で集まる現象: ”共凝集”を、有機合成に変わる発色団―機能団のligation方法として提案し、その為の分子設計指針を議論しています。

 

この論文では特に生体プローブの中でも合成の難しい、テトラジン含有生体直交型ターンオン蛍光プローブに注目しました。

まず様々な疎水性側鎖(凝集基と名付けました)を持つテトラジンと、疎水性蛍光色素を用意することで、それらを水中で混ぜ合わせた際の発光特性の変化を確認しています。この際、疎水性蛍光色素として、凝集状態の発光が強い色素群である凝集誘起発光素子を用いました。

 

結果、共凝集はテトラジン、凝集誘起発光素子のストック溶液と水をピペットで混ぜるだけで一瞬にして起こり、得られた共凝集体は、凝集基の選択によって、共有結合型一分子プローブと同様以上のターンオン機能を示すことが確認できました。

 

すなわちこれは、凝集誘起発光素子の選択によってオンデマンドに発光色を変更可能な、ターンオン蛍光プローブが完成したと言えます。このターンオン発光は、生体直交反応であるTetrazine-歪みアルキンの逆電子需要型Diels-Alder反応で誘導可能です。

 

驚いたことに、得られた生体直交型ターンオン共凝集体は生体内でも応用可能でした。最終的に、このプローブの生体直交反応性とイメージプロセシングの技術と組み合わせる事で、新たな顕微鏡技術 “Temporal spectral separation”を提案しています。簡易版PALM/STORMのようなもので、ターンオン時間をずらすことで、波長が完全にオーバーラップした蛍光プローブ間のシグナルを分離することができます。

図2: Temporal spectral separation概略図。ターンオン時間をずらすことで、波長が完全にオーバーラップした蛍光プローブ間のシグナルを分離することができます。

 

今回は、テトラジンだけに注目しましたが、今後、この”共凝集”法が適応可能な機能団を拡張していくことで、オンデマンドに発色団-機能団を選択し、蛍光プローブを準備できるプラットフォームが完成すると期待しています。

 

Q2. 本研究テーマについて、思い入れがあるところを教えてください。

ひとつ目はアイディア出しです。うちのラボでは、プロジェクトの設計から実験計画まで全て学生に裁量をいただけます。卒業のため、小さなプロジェクトをやるのも超重要なのですけども、4年前、若く傲慢であった自分は「全く、新しいものをやりたい」の考えのもと色々 “変な” プロジェクトに手を出しました。

 

才能も経験もなく、結果は死屍累々で、実はこの論文で使った9つ+の凝集誘起発光素子は、それぞれ失敗したプロジェクトの抜け殻だったりします(構造から何をしようとしていたか想像するのも楽しいかもしれません)。ただ、その過程で漸く辿り着いた成功例なので、なかなかユニークな論文に仕上がったと思っています。

 

二つ目はイントロです。本研究は、ひとつ前での論文の発見: Tetrazineの凝集体中分子間消光(https://doi.org/10.1002/agt2.499) から着想を得て始めています。当時の議論の延長で、共凝集でターンオン蛍光プローブを作るところまでは簡単にできても、その売り方に悩みました。バイオプローブを作るプロセスを、わざわざ2 step (1 step: テトラジンと色素合成、2 step: 共凝集) にするメリットとは?

 

そんな中、Baran教授のTwo-Phase Total Synthesis論文 (https://www.chem-station.com/blog/2018/04/scripps.html)を思い出し、Two-stepであるからこそのメリット=Generalizabilityに気付き、それを軸に議論を展開しました。また実際、Baran教授とお話しする機会もあり、 “今後のChemistryはSimplicityが大事 (意訳)”みたいな事を教えていただいたので、その点も強調しました。

 

結果、我ながら説得力のある良い文章が書けたと満足しています。Angeの前に投稿した論文のReviewerの1人が “Publish in another journal”だったのですけども、その方からも「イントロを読んでいる間はワクワクした」とのコメントを頂きました苦笑

 

三つ目は光化学議論です。テトラジンの消光パスを考えることは分子設計する上で非常に重要ですし、蛍光分子の挙動を物理的に議論するのは本当に面白い確信があります。しかし、少しでも光化学議論を深めると、いわゆる “ニッチ”な分野認定されて材料分野で論文が出しにくくなるジレンマがあります。

 

そこで、今回の論文では、なかなか深い光化学議論を展開しつつも、そこは表に押し出さずコッソリ、オタクにだけ刺さるように散りばめました。少し証明不足な部分もあるかもしれませんが、興味のある人はじっくり腰を据えて読んでいただけますと幸いです。色々オタクな議論を行なっております。

 

逆に、光化学議論に代表される難しいところは全部、裏に引っ込めていますので、誰にでも読みやすい論文に仕上がったと思っています。ぜひ読んでください!!

 

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

色々な分野を専門とするポスドクが集まり、ビッグラボに分類される当研究室 (一時期200人くらい居ました。支部も含めると500人を超えています) では、完全分業体制を元にした分野融合型研究を前提にしております。

 

普通は、合成係、イメージング係、計算化学係、のように自然と自分の役割を決める方が多いのですが、好奇心から全部自分で理解して、実験した点が大変でした。実際、本研究は、テトラジン分子群の合成(これ結構難しいのです)、蛍光色素群デザイン、蛍光イメージング、クエンチング機構の光化学議論、と化学・生物・物理にまたがる多彩な実験・知識が必要になりました。

 

解決先として、まずめちゃくちゃ勉強し、実験しました。2000年以降の「tetrazine probe」のキーワードでヒットする論文は全部読んだと思います。特に自分の弱かった光化学については赤い本 (https://www.chem-station.com/books/2015/01/photochemistry.html) を読み漁りました。

 

また、勉強のため学内外のエキスパート達に積極的に連絡させていただきました。顕微鏡システムについて同大学のTerence Wong教授 (最終的にCo-supervisorにまでなっていただきました)、光化学について九州大学の恩田先生・宮田先生、クリック反応についてScripps ResearchのSharpless教授、テトラジンについてUniversity of California, San DiegoのDevaraj教授のラボにお邪魔してディスカッションさせていただき、本当に色々学ぶことができました。

 

特にDevaraj教授からは当時用意していたバイオアプリケーションの弱さを指摘いただき、その結果として “Temporal spectral separation”の着想に繋がったと思います。当ラボでは、研究につながる行動について上の許可を毎回取る必要がなく、気づいたら日本・アメリカに居ました。このような勝手を許してくださるベンゾンタン教授には感謝しています。

 

図3. 左:恩田研究室滞在。Ph.D.生活最高の経験でした。右:ScrippsでSharpless先生と。

 

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

高校時代、有機化学美術館というウェブサイトで綺麗な分子に魅入られて、化学の道に進みました。現在テトラジンの研究をしているのもテトラジンが可愛いからです。不純な動機かもしれませんが、そのおかげで研究が上手くいかない時も乗り越えて行けました。結局「好き」という感情的ファクターは何よりも強い原動力になるみたいです。

 

博士課程を終えて、自分は新しいことを勉強することが「好き」なのだと強く認識しました。今後は化学と生物、二つの柱を中心に、でもそこに拘ることなく、自分のできることを広げていきたいと思います。その結果として、人の幸せに貢献できたら最高です。

 

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

特に今、博士課程を苦しむ真面目な学生さんにエールを送りたいです。

 

今回の出版で助かったとはいえ、僕自身、最初の論文が出たのは博論提出期限の5日前と限界ドクターを極めておりました。

 

正直、研究世界にアンフェアさ、理想とのギャップを覚え、頭を悩ませた日々も少なくはありません。間違ったディスカッションの論文、嘘だらけの研究者達を見て傷つくことなんて数えきれないほどありました。パブリケーションの薄さから色々な機会を失ってきたとも思います。

 

ただ、その中でも、振り返ってひとつ言えるのは、挫けずに、真摯に勉強と研究だけは続けていて良かったと言うことです。

 

きちんとした知識、努力を見てくれている人は必ずいます。実際、結果の公開されていない状態でも、国内外インダストリー・アカデミア双方から色々魅力的なお話をいただけました。見てくれている人は見てくれているのです。逆に阿漕に上に行く人はどこかで頭打つのではないかなとも思います。

 

「正直はサイエンスの基本。正直者がバカを見ない世界。正直は必ず勝つ (意訳)」これは僕が少しの間だけ所属した上杉研究室のモットーですが、未だに僕の一番好きな言葉です。

 

今、おそらく環境要因・運否天賦・理不尽で苦しんでいる方々も、真面目に誠実に生きる事で、いずれ報われる日が来ると思いますので、思い悩まずに、頑張ってください。頑張るみなさんを応援しています。

関連リンク

  1. 研究室HP:Ben Zhong Tang研
  2. 凝集発光の本質を解明:プレスリリース
  3. The Hong Kong University of Science and Technology | Prof. Ben Zhong Tang | Hong Kong:YouTube Movie

研究者の略歴

清川慎介

研究興味:テトラジン・クリックケミストリー・蛍光分子・高分子合成・ケミカルバイオロジー
略歴
The Hong Kong University of Science and Technology (博士課程2019/9~present)
Department of Chemical and Biological Engineering.
研究指導: Prof. Ben Zhong Tang and Prof. Terence Wong.

京都大学 (修士課程 2019/4~2019/8, 海外院進学の為、中途退学)
医学部医科学科
研究指導: 上杉志成教授

The University of Texas at Austin (学部交換留学 2017/8~2018/5)
Biochemistry, College of Natural Science.
研究指導: Prof. Nathaniel Lynd

京都大学 (学部2014/4~2019/3)
工学部工業化学科
研究指導: 大内誠教授 (2017~2019卒研)、 Easan Sivaniah 教授 (2015~2017 Research assistant)

受賞歴: Hong Kong Ph.D. Fellowship Scheme, Red Bird Excellent Research Award, Excellent Research Award in The Hong Kong University of Science and Technology, Hong Kong Medical & Healthcare Device Industries Association Student Research Award, G’L’owing Polymer Symposium in Kanto Presentation Award, Ito Foundation Scholarship, 大津会議アワードフェローなど。

  •                          記事協力:Chem-Station