銅中心が動く人工非ヘム金属酵素の簡便な構築に成功

2023.05.11 From Chem-Station By DAICHAN

第502回のスポットライトリサーチは、大阪公立大学大学院農学研究科 生命機能化学専攻 生物物理化学研究室 前期博士課程2年の 松本 隆聖(まつもと・りゅうせい)さんにお願いしました!

 

松本さんの所属される 生物物理化学研究室(藤枝研究室)では、生物無機化学を中心とした研究を展開しており、特に人工酵素の設計などに注力されています。酵素反応は環境に配慮した物質創製の要となる技術であり、SDGs の観点からも注目されています。

 

しかし、工業的に使用可能な天然酵素は限られており、また有用な反応を触媒する金属酵素を人工的に設計することはこれまで困難でした。今回、松本さんらの研究グループは、天然の非ヘム金属酵素に共通して見られる金属結合モチーフ 2-His-1-carboxylate を有する人工金属酵素を簡便に創製することに成功しました。

 

さらに、この人工金属酵素では天然酵素に見られる金属イオンの位置遷移という現象が観測され、未解明な部分が多い天然酵素の反応メカニズム解明に役立つことが期待されています。

 

本研究成果は Chemical Science 誌に掲載されるとともに、大阪公立大学よりプレスリリースもされています。

 

An artificial metallolyase with pliable 2-His-1-carboxylate facial triad for stereoselective Michael addition

10.1039/D2SC06809E.

Abstract

We repurposed the metal-binding site of a cupin superfamily protein into the 2-His-1-carboxylate facial triad, which is one of the common motifs in natural non-heme enzymes, to construct artificial metalloenzymes that can catalyze new-to-nature reactions. The Cu2+-H52A/H58E variant catalyzed the stereoselective Michael addition reaction and was found to bear a flexible metal-binding site in the high- resolution crystal structure. Furthermore, the H52A/H58E/F104W mutant accommodated a water molecule, which was supported by Glu58 and Trp104 residues via hydrogen bonding, presumably leading to high stereoselectivity. Thus, the 2-His-1-carboxylate facial triad was confirmed to be a versatile and promising metal-binding motif for abiological and canonical biological reactions.

 

研究を現場で指揮された、生物物理化学研究室 教授の 藤枝 伸宇 先生より、松本さんについてのコメントを頂戴しております!

 

研究室に松本さんが多いので、いつもどおり下の名前で呼びますが、隆聖は、研究室に配属されてからまだ一年ちょっとですが、彼の物事に対するこだわりがにじみ出ている雰囲気があります。60 人ほどの学科でやけに目立つレポートを書いてくるのが彼でした。文章構成がされており、導入とオチが用意されている読んでいて楽しくなるレポートでした。そんなレポートを読んだのは教員人生で初めての体験だったので、すぐに研究室に勧誘しました。少し斜に構えているところが玉にキズですがそれもご愛嬌、朗らかで人も良いですね。こちらが忙しいときには質問されても「なんとかして」と解決策を授けられないのですが、独りでなんとかしてくれます。研究手法もいろいろとチャレンジするだけでなく、特に指導もしていないのに賞をとったり (私の怠慢です)、知らない間に別の大学に研究仲間を作っていたり、研究にこだわりをもっている現れかと思います。隆聖はこういった自分でおこしたアクションに対して様々なフィードバックを受け、この一年で大きく成長してきました。今後も、積極的に研究者として活動し、これからの次世代として難局を切り抜ける人材になってほしいと願っています。

 

それでは、今回もインタビューをお楽しみください!

 

Q1.今回プレスリリースとなったのはどんな研究ですか?簡単にご説明ください。

図1 金属錯体とタンパク質を組み合わせた人工金属酵素(既報)と金属イオンとタンパク質を組み合わせた人工金属酵素(本研究)

 

近年、持続的な社会活動が世界的に求められる中、生体由来の酵素に着目した物質変換の方法が注目を浴びています。特に、触媒として有機合成によく使われる合成錯体をタンパク質にアンカーした複合型の触媒が、人工金属酵素として研究が盛んにおこなわれています。

 

通常、水系での反応は苦手とする金属錯体が多いのですが、タンパク質内部に取り込ませることで親水性の高いタンパク質骨格が影響し、錯体の水溶性が付与されます。さらに、タンパク質そのものが非対称な反応場になることから、立体選択性も同時に付与されます。

 

しかし、錯体の連結方法には限りがあり、またタンパク質そのものが不安定になるという懸念点があります。そこで、当研究室ではタンパク質のアミノ酸残基を配位子として様々な金属をイオンの状態で直接導入することで多様なタンパク質金属錯体、いわばよりシンプルな人工金属酵素の構築を目指しています。

 

図2 耐熱性タンパク質 (TM1459) の金属結合サイトを 2-his-1-carboxylate triad に再構成して非天然な反応を触媒するかスクリーニングを行った。

 

本研究では、4つのヒスチジンからなる金属結合部位を有する耐熱性タンパク質を土台に、これらアミノ酸に変異導入することで新たな配位環境を持たせました。本研究では位置を変えながら1つのヒスチジンをアラニン、もう1つのヒスチジンをグルタミン酸に変異させることで新たな配位環境を持つ変異体ライブラリーを構築しました。

 

この配位構造は天然に存在する非ヘム鉄酵素の活性中心に普遍的に見られる2-His-1-carboxylate triadと呼ばれるモチーフであり、天然では有用な触媒機能をもたらすものであると考えられています。また人工金属酵素としての活性確認のベンチマークとしては非天然の反応であるマイケル付加反応を用いました。

 

その結果、有意な立体選択性を示す変異体 (H52A/H58E) を見出しました。さらに原子分解能でのX線結晶構造解析を行うことで活性中心の詳細な構造が明らかとなり、天然酵素にもみられる金属イオンの位置遷移を観測することができました。

 

 

3結晶構造と推定反応機構 (a)H52A/H58E 変異体の結晶構造 (b) 銅の位置遷移 (c) 推定反応機構

 

Q2.本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

酵素の活性中心のデザインです。本研究でこだわった 2-His-1carboxylate triad は、非ヘム鉄酵素に普遍的なモチーフでありながら、鉄以外の金属中心ではあまり見られないものです。この事実には何故このモチーフが鉄に親和性が高いのかなど一見相反するような魅力を秘めていると感じました。

 

これまでもこのモチーフに着目して、モデル錯体の構築や、金属置換、アミノ酸変異による人工的な酵素の作製を目指した研究は非常に盛んに行われてきていました。

 

しかし、それら、特に人工系においてはほぼ全てが酵素活性に関するものであり、不思議なことに構造そのものに関する詳細な検討はなされていないということもあり余計に興味をかきたてられました。

 

また、結果としてアミノ酸変異導入によって、水分子や変異アミノ酸を介した水素結合ネットワークを作ることもでき、ナノスケールでの分子設計を達成できたところも思い入れが深いです。

 

Q3.研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

X線結晶構造解析です。本論文では銅の位置遷移を緻密に議論するべく、原子分解能に迫る高品質な結晶の精製にこだわり、試行錯誤の日々が続きました。特に結晶化の際の沈殿剤作成には、あえて用時調製ではなく日をおいておくことで結晶が出やすくなるというメソッドを見出しました。

 

加えて、解析の精度を上げるために、主に小分子用に使われる構造解析アプリ Shelxl を使うことで解析誤差の精度を高めることにも挑戦しました。しかし、このアプリがなかなか曲者で、データに少し手を加えるだけですぐにエラーを起こしてしまい、数字の羅列と戦う日々が続きました。

 

ドライなものに今まで触れてこず、めっぽう弱かった私には良い経験になりました。共同研究者の阪大蛋白研 栗栖 先生に指示を仰ぎながら、メンターの藤枝先生と二人三脚で粘り強く短期集中し、ほうぼうを調べて回ることでなんとか解析を終わらせることができました。

 

ここから、専門外の知識をも使いこなしてこそエキスパートになれるという認識を強く持つに至りました。今後向き合うであろう課題にもさらなる勉強を重ねていくことで深みのある人材になりたいです。

 

Q4.将来は化学とどう関わっていきたいですか?

研究にかぎらず、どんな行動においてもそのモチベーションに直結するのは心の根幹にあるプラスの感情だと思っています。そして私にとってはかっこいいな、おもしろいなという気持ちに端を発して思考を巡らせ、興味のあることにまっすぐに取り組める対象こそが化学なのだとも思いますし、これからもそうありたいと思います。

 

それが実現できているのは周囲の方々の支えがあって成り立っているということに感謝しながら、社会へ少しでもお役に立てるように、自分にできることを考えつつ微力ながら貢献していきたいです。

 

Q5.最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします!

ここまで読んでいただきありがとうございます。研究室に配属されてから月日は浅く、まだまだ未熟者であるという自覚のもとで、慢心しないよう日々目の前の実験に堅実に取りくんでいます。

 

まさか自分が日常的に拝読していたケムステにて取り上げていただけるとは夢にも思っていませんでしたが、今後も生物無機化学への貢献を目指して謙虚に精進していきたい所存です。

 

最後になりますが、本研究は丁寧なご指導と自由な環境を与えていただいている藤枝伸宇教授をはじめ、森田能次先生、研究室のメンバーのご協力のもと得られた成果であり、この場をお借りして厚く御礼を申し上げます。

 

また、貴重な機会を設けてくださいました Chem-Station のスタッフの方々に心より感謝申し上げます。

 

研究者の略歴


名前: 松本 隆聖 (まつもと りゅうせい)
所属: 大阪公立大学大学院農学研究科 生命機能化学専攻 生物物理化学研究室(藤枝研究室)
テーマ: 人為酵素設計、生物無機化学
略歴:
2022年3月 大阪府立大学生命環境科学域 卒業
2022年4月〜現在 大阪公立大学大学院農学研究科生命機能化学専攻 博士前期課程

 

最後になりましたが、松本さんご自身からも本インタビューを受けてのコメントを頂戴しました!

 

エッジの効いたことを書いてみようかと思ったのですが、時期尚早な気がするので、もし再び取り上げていただく機会があればそのときにしようと思います(笑)。

 

ぜひぜひ、またの機会でもよろしくお願いいたします!!松本さん、藤枝先生、インタビューにご協力いただき誠にありがとうございました!


それでは、次回のスポットライトリサーチもお楽しみに!

(記事協力:Chem-Station)