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今回のテーマは、ラボ専門整理収納アドバイザーからみた研究者が捨てないモノとその理由、です。
長いことラボやオフィスにあり、風景の一部になるか存在すら忘れられているものから、「これに手を出したら危険」なモノまで、グラデーションがあります。
歴史の長い、古い研究室ほどバラエティに溢れるモノが溜まっているのでじっくり観察してみましょう。
CONTENTS
だれも手に取らなくても、というよりも手に取らないので捨てようという話にもならない。
辞書のように分厚く重い。誰が置いたかわからないので、整理する前にはアナウンスが必要。つまり、そういうことをやろうと言い出す人が現れないかぎりそのままになる。
・クリアフォルダやボールペン
・大小色とりどりの穴あけ(パンチャー)、ほんの数枚しか綴じられないミニステープラ
・消しゴム、ダブルクリップやゼムクリップ
・空のバインダー
などなど。「使えるモノをゴミにして捨てると環境によくない」「もったいない」と思ってしまう。
研究者にとっては日記帳のようなモノ。無意識に永久保存と思われている。保管や整理整頓は自分の役目じゃないと思うから誰も手を出さない。
なかには他所から借りパクしたらしきモノもある。誰が借りたものかわからない。
お互いに人が入れ替わるので、いまさら返しても受け取ってもらえるかどうか疑問。相手先に問い合わせたりモノを送ったりすることを誰かがやらない限りモノはなくならない。
そういうことをやろうと言い出す人が現れないかぎりそのままになる(これ、ついさっき書いたセンテンスだな)。
手間をかけて作ったから捨て難い。廊下の壁に貼られている。あるいは、筒状に丸められて部屋の隅に立てられて埃が積もっている。
私物と研究室のものの区別があいまいなモノの筆頭。ただのコピーだったら捨てられているが立派なハードカバーで製本されているために残されている。研究室の歴史資料と捉えると、捨てられない。
医学部ラボに残るスライド写真やビデオテープは、患者様の個人情報を含むので処分がむずかしい。スライドグラスに乗っている組織標本や、切片を切り出したあとのパラフィン包埋ブロック、標本リストや帳簿、定年退職した研究者の研究材料も。
「(責任もつから)捨てていい」、とだれか(上司)が言わない限り誰にも捨てられない。
ホルマリンが臭うので捨て作業が大変。仕事として捨てるという状況が訪れない限り手をつけられない。
留学生・卒業生から贈られた飾り物など、食品以外のすべて。もらった人が義理堅いと、何十年も持ち続ける。
特に、重量物や物量が膨大なものは捨てるのに手間ひまがかかる割に、対処するメリットがないことが多い。どうしてもそこを使いたいという時以外は何もしない。
諸般の事情によりこれ以上詳しくは書けません。この言葉をあまり日常では多用したくないのですが「察してください」。
昔の実験ノート、昔使っていた計測機器、留学していた頃のデータ、国際学会に参加したときの名札コレクション、学位記、論文リプリント、学術誌、学会抄録。
定年後に自宅に持ち帰ってしまうほど、研究人生の思い出のもの。
さて、ここまでひたすらに「片づけられないモノ」とその理由を挙げてきましたが、本当にこれらは対処しようがないモノたちなのでしょうか?私は「整理収納アドバイザー」です。共感だけして対処法を書かなければ仕事を果たせません。
ということで、そういった「どうしようもないモノ」に対して取りうる選択肢をいくつか書いてみます。
研究棟の移転や建て替え、自分自身の転勤や転職、退職という機会が訪れるまで何もしない。いざとなればなんとかなるという楽観的な人むきの方法。「いざ」が来れば片付くという意味ではこれも一つの選択肢です。
ただし、「もっときれいなラボ(オフィス)で働きたいのに」と周囲はストレスを感じている可能性があります。見放されないように、掃除はしましょう。
偉大な業績をあげた科学者の使っていたモノが展示してあるのをみたことがありますか?
高エネルギー加速器研究機構では、小林誠博士のノーベル賞のメダルや賞状が展示室に飾ってあるのがみられます。数年前、研究所の財源にするため、小林・益川理論のもとになったデータが入っている磁気テープがオークションで売られていました。
鑑定に出したとしても値段がつくようなものではありませんが、研究を支援したい科学ファンが買ってくれそうなものを選ぶ。「これがあの〇〇先生が使っていたマイクロピペットか!」とか「これが睡眠研究で有名な○○先生愛用の枕か」といった、一般受け(マニア向け?)しそうなものを残した方がいいでしょう。手を拭いた跡がある汚れた白衣など案外高く売れるかもしれません。
配達物がとどくメールルームで、空のバインダーが置いてありました。このように人が通るところに置く、という方法はたまにみかけます。
置いたモノ自体が捨てられないゴミになる前に、残っているモノを引き上げるようにしましょう。
読者の皆様のラボやオフィスには、こうした「どうしようもないモノ」がありませんか?
あるラボでは、実験台のまえに天井まで届くような書棚があり、人がやっと1人通れるくらいの隙間しかない。そこには「図書館から引き取ってきた」という製本された専門誌がならんでいます。地震のときに倒れてきそうで怖いです。このように、量が半端なく、危険な現場もあります。
職場を選ぶ時には、「どうしようもないモノ」たちの存在を認識しつつも、身の危険が無いかどうかにも気をつけましょう。