研究者が捨てないモノ・捨てられないモノと、それをいつまでも整理できない理由|【ラボ整理コラム】

2024.09.02

今回のテーマは、ラボ専門整理収納アドバイザーからみた研究者が捨てないモノとその理由、です。

長いことラボやオフィスにあり、風景の一部になるか存在すら忘れられているものから、「これに手を出したら危険」なモノまで、グラデーションがあります。

歴史の長い、古い研究室ほどバラエティに溢れるモノが溜まっているのでじっくり観察してみましょう。

なんとなく風景化しているモノ

誰かが置いて行った学術書

だれも手に取らなくても、というよりも手に取らないので捨てようという話にもならない。

何年も前の実験用品カタログ

辞書のように分厚く重い。誰が置いたかわからないので、整理する前にはアナウンスが必要。つまり、そういうことをやろうと言い出す人が現れないかぎりそのままになる。

大量の文房具

・クリアフォルダやボールペン
・大小色とりどりの穴あけ(パンチャー)、ほんの数枚しか綴じられないミニステープラ
・消しゴム、ダブルクリップやゼムクリップ
・空のバインダー

などなど。「使えるモノをゴミにして捨てると環境によくない」「もったいない」と思ってしまう。

とある引き出しの中身。本当に使うのか?機能がかぶっている文具がいくつも・・

見えないところに収納されているモノ

いなくなった人の実験データやノート

研究者にとっては日記帳のようなモノ。無意識に永久保存と思われている。保管や整理整頓は自分の役目じゃないと思うから誰も手を出さない。

使われていない実験機器

なかには他所から借りパクしたらしきモノもある。誰が借りたものかわからない。

お互いに人が入れ替わるので、いまさら返しても受け取ってもらえるかどうか疑問。相手先に問い合わせたりモノを送ったりすることを誰かがやらない限りモノはなくならない。

そういうことをやろうと言い出す人が現れないかぎりそのままになる(これ、ついさっき書いたセンテンスだな)。


捨てにくいモノ

学会発表したあとのポスター

手間をかけて作ったから捨て難い。廊下の壁に貼られている。あるいは、筒状に丸められて部屋の隅に立てられて埃が積もっている。

卒業生の学位論文

私物と研究室のものの区別があいまいなモノの筆頭。ただのコピーだったら捨てられているが立派なハードカバーで製本されているために残されている。研究室の歴史資料と捉えると、捨てられない。

どう処分するか決めてくれる人が存在しないモノ

医学部ラボに残るスライド写真やビデオテープは、患者様の個人情報を含むので処分がむずかしい。スライドグラスに乗っている組織標本や、切片を切り出したあとのパラフィン包埋ブロック、標本リストや帳簿、定年退職した研究者の研究材料も。

「(責任もつから)捨てていい」、とだれか(上司)が言わない限り誰にも捨てられない。

採取サンプル(ホルマリン漬け)

ホルマリンが臭うので捨て作業が大変。仕事として捨てるという状況が訪れない限り手をつけられない。

個人的にプレゼントされたモノ

留学生・卒業生から贈られた飾り物など、食品以外のすべて。もらった人が義理堅いと、何十年も持ち続ける。


絶対手を出したくないモノ

自分のものではない実験用品や研究材料すべて

特に、重量物や物量が膨大なものは捨てるのに手間ひまがかかる割に、対処するメリットがないことが多い。どうしてもそこを使いたいという時以外は何もしない。

酒瓶

諸般の事情によりこれ以上詳しくは書けません。この言葉をあまり日常では多用したくないのですが「察してください」。

メモリアル・グッズ

昔の実験ノート、昔使っていた計測機器、留学していた頃のデータ、国際学会に参加したときの名札コレクション、学位記、論文リプリント、学術誌、学会抄録。

定年後に自宅に持ち帰ってしまうほど、研究人生の思い出のもの。


さて、どうするか?

さて、ここまでひたすらに「片づけられないモノ」とその理由を挙げてきましたが、本当にこれらは対処しようがないモノたちなのでしょうか?私は「整理収納アドバイザー」です。共感だけして対処法を書かなければ仕事を果たせません。

ということで、そういった「どうしようもないモノ」に対して取りうる選択肢をいくつか書いてみます。

整理が必要な状況になるまで放置する

研究棟の移転や建て替え、自分自身の転勤や転職、退職という機会が訪れるまで何もしない。いざとなればなんとかなるという楽観的な人むきの方法。「いざ」が来れば片付くという意味ではこれも一つの選択肢です。

ただし、「もっときれいなラボ(オフィス)で働きたいのに」と周囲はストレスを感じている可能性があります。見放されないように、掃除はしましょう。

売れそうなモノや記念館の収蔵品になりそうなモノを選択して残す

偉大な業績をあげた科学者の使っていたモノが展示してあるのをみたことがありますか?

高エネルギー加速器研究機構では、小林誠博士のノーベル賞のメダルや賞状が展示室に飾ってあるのがみられます。数年前、研究所の財源にするため、小林・益川理論のもとになったデータが入っている磁気テープがオークションで売られていました。

ノーベル賞のメダルと小林誠博士の等身大看板。「飾る場所がある」場合は飾ったら良いですね。ノーベル賞を取るという壮大なハードルが付いてきます。

 

鑑定に出したとしても値段がつくようなものではありませんが、研究を支援したい科学ファンが買ってくれそうなものを選ぶ。「これがあの〇〇先生が使っていたマイクロピペットか!」とか「これが睡眠研究で有名な○○先生愛用の枕か」といった、一般受け(マニア向け?)しそうなものを残した方がいいでしょう。手を拭いた跡がある汚れた白衣など案外高く売れるかもしれません。

実用品は所内でリユース

配達物がとどくメールルームで、空のバインダーが置いてありました。このように人が通るところに置く、という方法はたまにみかけます。

置いたモノ自体が捨てられないゴミになる前に、残っているモノを引き上げるようにしましょう。

段ボールに入れて「誰か拾ってください」は今でも割と有効(生物以外に限る)


まとめ

読者の皆様のラボやオフィスには、こうした「どうしようもないモノ」がありませんか?

あるラボでは、実験台のまえに天井まで届くような書棚があり、人がやっと1人通れるくらいの隙間しかない。そこには「図書館から引き取ってきた」という製本された専門誌がならんでいます。地震のときに倒れてきそうで怖いです。このように、量が半端なく、危険な現場もあります。

職場を選ぶ時には、「どうしようもないモノ」たちの存在を認識しつつも、身の危険が無いかどうかにも気をつけましょう。

【著者紹介】ショウボ

筑波大学卒業後、製薬会社の研究所に30年以上研究者として勤務。博士(医学)
医学部の大学院研究室を経て現在は国立研究機関で研究業務員。
2017年よりラボ専門整理収納アドバイザーとしても活動中。
ラボ整理研究室を主宰。

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