東京医科歯科大学のイノベーションコミュニティを見学しました!

2024.08.30

東京医科歯科大学(御茶ノ水駅前より撮影)

東京医科歯科大学さんと三菱地所株式会社さんのご協力で東京医科歯科大学内にあるイノベーションコミュニティ「TMDU Innovation Park(TIP)」についてインタビュー&施設見学させていただきました。今回はそのレポート記事です。産学連携に興味のある方、医療分野におけるアカデミアの知見が欲しい方、イノベーションコミュニティに興味のある方におすすめの内容です。ぜひ最後までご覧ください。

今回インタビューに対応いただいた飯田先生(左)、青江さん(右)

インタビュー


回答する人
国立大学法人東京医科歯科大学 教授
副理事(産学官連携・オープンイノベーション担当)
統合イノベーション機構 副機構長
オープンイノベーションセンター長


回答する人
三菱地所株式会社
イノベーション施設運営部
プロモーション・エコシステム推進ユニット


質問する人
アズワン株式会社
LabBRAINS運営・編集担当
理系院卒
最近はオランダにあるアザラシ幼稚園の動画ばかり見ている

東京医科歯科大学とは

犬派:ものすごく初歩的な質問で恐縮ですが、東京医科歯科大学はどのような大学ですか?

飯田先生:名前の通り医学部と歯学部から構成される医療系の総合大学です。基礎研究や臨床研究に加え、産学連携という観点では医薬品や医療機器、ヘルスケアサービスを新たに生み出すといったイノベーション活動にも積極的に取り組んでいます。

犬派:他の医学部・歯学部がある大学との違いとしてはどのような点がありますでしょうか。

飯田先生:医学部と歯学部の距離が近いところが特徴であり、本学では口腔と身体の関係に着目した研究を行っています。また従前は医学部と歯学部は別々に附属病院を有していましたが、2021年から病院を一体化し、基礎研究から臨床応用、そして実用化に向けて進める体制が整っているのは、この距離の近さが成しえる強みです。

犬派:医療に関する研究から製品開発まで一貫してできるというのはすごいですね!

TIPとは

犬派:そんな東京医科歯科大学さんのキャンパス内にあるTIPとは何でしょうか?

飯田先生:より良い医療・より人々の健康が増進される社会の実現に向け、東京医科歯科大学と三菱地所株式会社が2021年8月に開設した医療現場・研究現場発イノベーションコミュニティです。具体的には企業様向けウェットラボの運営と、個人会員制のコミュニティ運営の2つの取組を行っております。研究・教育・医療現場に近接した環境下で産学官が時間・空間・英知を共有することで、一つの大学、一つの企業では思いつかないようなアイデアの創出をはじめ、プロジェクトの加速などを実現、トータルヘルスケアイノベーションに取り組んでおります。

犬派:医療系のイノベーション施設が大学内にあるというのは現場との距離が近くて良さそうですね!

TIP開設の背景

犬派:東京医科歯科大学さんがイノベーションコミュニティを開設した背景としてどういったものがあるのでしょうか?

飯田先生:薬や医療機器作りにおける劇的な環境変化が背景にあります。これまでは大学と企業が一対一の関係で製品作りが中心でありましたが、テクノロジーの変化に伴いその体制に変化が生じています。大学が研究力を以て社会に貢献するためには多様な業種の企業とのコラボレーションや接点を持つことが極めて重要であると考えています。また、大学で行われる先端研究の成果を実用化に結びつけるためには、既存の産業や市場の枠にとらわれない新しいビジネスモデルを試す必要性も高いと考えます。そのような背景から、異業種とつながる場やスタートアップを立ち上げやすい環境として生み出されたのがTIPという場所です。

犬派:時代の変化に従って産学連携にも新しい形・場が必要になったということですね。

三菱地所と共同運営している理由

犬派:先ほどのお話でTIPは東京医科歯科大学さんだけでなく三菱地所さんも共同で運営されているというお話がありました。こちらはどのような理由で共同運営という形をとられているのでしょうか?

飯田先生:TIPの企画をしているタイミングでご縁があり三菱地所さんとお会いしたのがきっかけです。当時の三菱地所さんは大手町でFintech系のスタートアップさんを集められていました。人が集まる空間づくりを教えていただくところから始まり、ハード・ソフト面の相談を重ねた結果、共同運営として入っていただくことになりました。当初は運営業務を一緒にやっていただくだけで十分かと思っていましたが、スタートしてみると出会ったことのない企業の方をどんどん連れてきてくださいました。私たちにとって出会う企業の幅が広がったのは思いもよらない効果でした。

青江さん:三菱地所は、スタートアップ支援のための産業生態系「スタートアップ・エコシステム」の形成に向け、これまで大手町・丸の内エリアにおいてFintechやdeeptechといった成長産業に特化したスタートアップ向けの施設を複数企画・運営してまいりました。医療・バイオ領域については臨床の現場を持つアカデミアとパートナーシップを組んで取組を進めていくことが、よりイノベーション創出につながると考え共同での取り組みに至っております。

犬派:スタートアップ支援に強い三菱地所さんと医療系研究に強い東京医科歯科大学さんが手を組んで誕生したのがTIPということですね!

会員企業や活動内容

犬派:TIPの会員企業やウェットラボを使用している企業としてはどのような企業が入居されておりますでしょうか。

青江さん:会員組織については現在300名を超える会員にお集まりいただいております。その内企業会員は製薬会社、再生医療関係、医療機器メーカーなど、様々な分野の企業がバランスよくお入りいただいています。またライフサイエンス・ヘルスケア関連の新規事業創出を目論む企業様にもお入りいただいております。
またウェットラボについて、オープンラボは東京医科歯科大学の研究者との共同研究の締結が必須となりますが、2024年4月に運用開始したTIP-RCCシェアラボは共同研究の締結は求めておらず、ベンチ単位でのお貸出しになりますので、よりシード・アーリーシーズのスタートアップの方々もお入りいただけるような取組になっております。

飯田先生:私たちの大学では創薬・再生医療・医療機器・ゲノム・ヘルスケア領域を重点産学連携領域としています。その領域に対して共同研究したい・新しい製品やサービスを作りたい企業さんが集まってきています。AI・IoT系の企業さんも「新しく医療機器や再生医療に関する事業を始めたい!」という文脈で集まってきている印象ですね。

犬派:創薬や医療機器の開発はイメージしやすいですが、ヘルスケア領域では具体的にどのような取り組みをされていますか?

飯田先生:日常的に病気を予防する・病気を悪化させないという切り口で公的保険外のサービスを作る方向で企業さんとコラボレーションをしています。アカデミアが入ることでエビデンスに基づいた社会に信用いただけるサービスの実現を追及しています。

他ウェットラボやコミュニティとの違い

犬派:他ウェットラボやコミュニティとの違いやTIPならではの特徴はありますでしょうか。

飯田先生:大学の中にあるという点とアライアンス担当者が付く点が特徴です。医療系のアカデミアの研究者は研究・教育に加え、臨床業務も担っている場合も多く、スタートアップに興味があっても、外部のコミュニティに出ていくことは難しい状況といえます。TIPは大学の中にあるため、医療系研究者や医療者が参加しやすく、本学はお茶の水にあるという地の利の良さから、企業の方もアプローチしやすいことが強みだと考えています。また、TIPに入会するとオープンイノベーションセンターのアライアンス担当者が伴走支援いたします。「何がしたいのか」「連携イメージ」を丁寧にお伺いして、必要なメニューを提供いたします。

犬派:研究者とお話がしたい方から東京医科歯科大学の知的アセットを使って共同研究したい人まで様々なニーズがありますからね。

飯田先生:入会いただくとサロンやコワーキングスペースの利用や毎週水曜日へのイベント参加、別料金ですが実験機器が使えるTIP-RCCシェアラボやウェットラボまで幅広いニーズに応えられる体制がございます。

入会すると受けられるサービスや使える設備

犬派:TIPへ入会すると受けられるサービスや使える設備にはどのようなものがありますか?

青江さん:会員になっていただくと、次のサービスがご利用いただけます。

  • 共同研究、ビジネスサポート、各種専門家紹介等の支援
  • 大学内の実験機器シェアリング(学内研究者と同じ料金での利用が可能)
  • キャンパス内会員専用「コワーキングスペース」や「イノベーションサロン」の利用
  • 研究者との交流イベントや、セミナーへの参加

設備は実際に見て回りましょう!

施設見学

オープンラボ

オープンラボは東京医科歯科大学との共同研究をする場合のみ入居可能な施設です。
オープンラボは実験室を丸ごと借りることが可能です。
今回は特別に入居前の1室を見学いたしました。

TIP-RCCシェアラボ

2024年4月に開放されたTIP-RCCシェアラボでは実験台を1区画ごとに借りることができます(有料)。
オープンラボと異なり、東京医科歯科大学との共同研究は必須ではありません。

TIP-RCCシェアラボ内にある共用設備も使用可能です。写真で紹介した以外にも様々な機器がありました!

ラウンジ・サロン

研究設備以外にもコワーキングスペースやサロンスペースもあります。
取材した際も複数のグループの方がミーティングや休憩、リモートワークに使用されていました。

まとめ

これまでの振り返りや実績について

犬派:TIPのこれまでの振り返りや実績を教えていただけますでしょうか

飯田先生:TIPの開設から3年が経過し、会員数は300名を超え、オープンラボの契約率は80%を超えて推移しています。そしてTIPを起点にした産学連携プロジェクトは145件に達しています。これらの実績は毎週のイベントや会員同士のコミュニケーションを中心として立ち上がっており、「出会ったことのない人同士の新たな気づきが新しい価値を生む」ということを肌で感じています。

犬派:3年で145件!これは産学連携件数としてはかなり大きな数字ですね!

飯田先生:アライアンス部門のメンバーがしっかり張り付くというのが肝であると分析しています。会員同士に任せるのではなく何がしたいかをメンターとして丁寧に伺うのがこの数字につながったと考えています。企業側のニーズやリクエスト、研究者の想い等をお伺いしながら関係構築に取り組んでいます。

今後の展望

犬派:最後に10月からの東京科学大学発足などを踏まえて、今後のTIPの展望についてご教示いただいてもよろしいでしょうか!

飯田先生:私たちの大学は社会に貢献するためには異分野連携が極めて重要と考えています。創薬や医療機器も異分野とのコラボレーションがあってこそ実現するような世界になりつつある今、大学統合によって東京工業大学の理工学やリベラルアーツの知見等、彼らが持つアカデミックなサイエンスとの融合は楽しみでなりません。TIPが社会・産業と東京科学大学全体の学術、英知との結節点となり、新たな関係を築いていくことを目指しています。

犬派:統合後は東京工業大学の先生方もTIPに参加されるのでしょうか?

飯田先生:現在はその方向で考えています。特に生命理工学院の先生方は私たちの大学の重点産学連携領域と親和性が高いため、TIPのセミナーイベントでご紹介する機会を増やしていきたいと考えております。

犬派:青江さんからもお願いいたします!

青江さん:TIPは開設から3年経過し、オープンラボは満床が見えてきました。さらに、本年4月にTIP-RCCシェアラボを開業したことにより、アーリーシーズのスタートアップ企業を支援できる体制も構築できました。今後も御茶ノ水から丸の内にかけてのエリアを日本における医療・バイオ領域の最重要拠点とすべく、東京科学大学になった後も新しい取り組みを続けていきたいと考えています。

今回は東京医科歯科大学さんと三菱地所さんが共同運営しているイノベーションコミュニティ「TIP」を見学いたしました。
医療分野における研究とその製品化には異業種・異業界との接点がカギであること、その起点となるイノベーションコミュニティが学内にあることでさらに活発になること、アカデミアと企業の間に人が入ることでアライアンスが円滑に進むことなど学びの詰まったコミュニティだと感じました。
今回見学取材にあたりご協力いただきました、東京医科歯科大学の飯田先生、山田さん、吉野さん、三菱地所株式会社の青江さんに心より感謝いたします。


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TIPとは大学の研究・教育・医療現場に近接した環境下において、より良い医療・より人々の健康が、促進される社会実現に向けて、アカデミア・多様な業種業界の企業・スタートアップ・ベンチャー・行政によるコラボレーションを誘発し、医療・ヘルスケアのイノベーションを実現につなげるコミュニティです。