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「バイオバンク」という取り組みを知っていますか?
患者さんや一般の方々から提供された血液や組織などの試料(検体)等を研究用資源として保管・管理し、医学研究のために利活用する仕組みのことを指し、世界では英国にある「UKバイオバンク」や米国の「BioVU」等があります。
日本にも大小様々なバイオバンクが存在しています。この記事では、全国27万人の患者データを保有する、日本最大の疾患バイオバンクである「バイオバンク・ジャパン(BBJ)」の取り組みと、代表・松田浩一教授へのインタビューを紹介します。
CONTENTS
バイオバンク・ジャパン(BBJ)は、ひとりひとりの遺伝情報にもとづくオーダーメイド医療の実現を目指す国家的プロジェクトで、2003年に世界に先駆けて東京大学 医科学研究所に設置された疾患バイオバンクです。2003年は、日本を含む世界各国の協力のもと、3000億円以上を投じて実施されたヒトゲノム計画により、約30億塩基対のヒトゲノムが解読された年です。
金融機関のバンク(銀行)と異なり、バイオバンク・ジャパンが保有・管理するのは、研究参加者である患者さんから提供された生体試料(DNA・血清)と臨床情報です。
BBJでは第1期~第3期(2003~2017年度)にかけて、全国の12協力医療機関を通して、27万人もの研究参加者から試料・情報の提供を受けました。それらの試料・情報は氏名などの個人情報を削除して、IDを付けて万全なセキュリティ対策のもとで保管しています。
そして、それらの試料・情報をオーダーメイド医療の実現や新たな診断方法や治療方法の開発を目指す、学術研究機関や企業などの研究者に提供しています。
ヒトゲノム計画完了から20年を経た現在、日本を含む世界では様々なバイオバンクが林立しています。しかし、ゲノム解析研究において、欧米を対象とした研究が圧倒的に多く、日本を含む東アジアを対象とした研究が少ない状況です。
このことから、27万人の日本人の患者さんの試料・情報を保有しているBBJの存在意義は大きく、今後のゲノム解析研究やゲノム医療の発展への貢献が期待されます。
2023年から第5期の事業を開始したBBJは、今年度で設立20周年を迎えました。
これまでの活動に加え、国際共同研究や産学連携の枠組みも利用して、大量のデータに情報科学の知見を組み合わせて生命現象を解き明かすデータ主導型の研究に向けた基盤強化を図るとともに、研究者への試料・臨床情報・データの提供によるゲノム研究の進展と、ゲノム医療の実装を目指して活動をしています。
BBJとの共同研究等の成果として得られたゲノムデータやオミックスデータは、BBJのデータベースに加え、国立研究開発法人科学技術振興機構のバイオサイエンスデータベース(NBDC)および、AMEDゲノム制限共有データベース(AGD)等の公共データベースでも公開・提供するなど、更に試料・情報・データの利活用を進めています。
BBJが提供する高品質で信頼性の高い試料・情報を利用し、数多くの研究成果が生み出されています。2022年12月末現在、Natureを含む国際科学雑誌に593本もの研究論文が掲載されており、この数は増え続けています。
これらの成果の中には、特定の疾患の発症に関連する遺伝子や、身体的特徴やバイオマーカーに関連する遺伝子の特定が含まれます。こうした研究成果は、世界中の研究者に共有・活用されて、更なる医療の進歩に貢献しています。
BBJが保管する試料・情報・ゲノムデータ
ダミーテキスト
<BBJの血清バンク/DNAバンク> 試料・情報は強固なセキュリティシステムを備えた倉庫に保管されています。
2023年の第5期からBBJの代表を務める松田浩一教授(東京大学 大学院新領域創成科学研究科)にBBJの目指すゲノム医療の展望や、BBJの試料・情報を利用した最先端の研究についてお話を伺いました。
A:ゲノム情報に基づき治療法を最適化したり、病気になるリスクをあらかじめ知ることによって、病気の予防・早期発見につなげられるような医療です。
BBJの試料・医療情報を利用して病気とゲノムとの関連を研究することにより、治療法の最適化や病気の早期発見に繋げられるようにと願っています。
A:現在のBBJはアジアを代表する疾患バンクという位置づけになるかと思います。世界を見ますと、検体数が100万人を超えている大規模バイオバンクもありますが、多くは一般の方々を対象にしたものです。
BBJのように疾患バンクとして、詳細な医療情報に紐づいたサンプルを27万人分も所有しているというのは世界の中でも大変貴重です。
また、BBJは立ち上げ時期が2003年と海外のバイオバンクと比較してかなり早い時期であり、患者さんの20年間の経過という貴重な医療情報が紐づいていることも強みのひとつでしょう。研究自体も2000年代と早い時期に開始しているため、これまで多くの研究成果を積み重ねてきています。
ただし、BBJの試料・情報に対し、海外からの問い合わせが非常に多いのが現状ですが、個人情報保護法などの関係で、個人別の試料・情報の利用は国内に限られております。
A:これまではBBJが保有している血清とDNAで十分な解析が実施可能でした。DNAを使った研究では、これまではSNPアレイを使って特定の領域を解析していたのですが、今では全ゲノムシーケンス(WGS)によって、ゲノム全体を調べる手法に移行してきております。
更には従来のものより遥かに長いDNAの断片を解析するロングリードシーケンスという手法を使い、更に大きなゲノムの構造異常などを調べるような研究も出現してきています。
BBJが保有する血清試料を使った研究についても、特定の物質のみを調べる研究から、メタボローム、プロテオームなどの代謝物やタンパク質を網羅的に調べるような手法が出てきています。
さらには、一細胞レベルで遺伝子発現やゲノムの構造を調べる手法や、空間トランスクリプトームと言って、組織上の特定の位置の特定の細胞でどのようなたんぱく質が発現しているのかを見るような手法も利用可能となりました。
他にも、メタゲノムという皮膚、腸管、便などにある常在細菌に着目した研究も増えてきています。ゲノム研究は、この10年で解析手法の開発に伴い最も大きく変化している分野の一つと言えるでしょう。BBJも現在、そのような最新の研究への対応を目指し、新たに研究参加者の方々から検体を集めることができるようなシステムの導入を進めているところです。
A:今、医療にいかにAIを使っていくかというのは大きなテーマです。大規模言語モデル(LLM)が注目されていますけれども、ゲノムデータやオミックス解析で集めたようなタンパク質の発現の情報と、医療情報とを使って、LLMを薬剤のターゲットの探索に使おうという産学連携での研究がスタートしています。
この研究が今後進んでいけば、薬剤開発などに貢献できるのではないかと期待しています。
A:私自身は主にがんの発症リスクにかかわる遺伝子の探索を行っています。ゲノム研究で分かってくるのは、特定の遺伝子と病気になるリスクとの関連等ですが、ある遺伝子に変異があるからといってなぜその病気になるのかということまでは分かっていません。
現在、ゲノム研究から分かった遺伝子と病気の関連を分子レベルで解明する研究を行っているところです。
A: おかげさまで2003年の設立以来、20周年を迎えることができました。2月3日(土)13時より「ゲノム医療の実装に向けて -20年の軌跡と将来ビジョン」と題したシンポジウムをZoomによるオンラインにて開催予定です。
無料でどなたでもご視聴いただけますので、ぜひ登録いただければ幸いです。
バイオバンク・ジャパン 代表
松田 浩一
教授/特任教授
東京大学 大学院新領域創成科学研究科 / 医科学研究所
専門分野:遺伝学、分子腫瘍学