#40 スタートアップ大国 イスラエルのイノベーション・エコシステムーその背景には何があるのかー【シリーズ イスラエル】

2023.11.29

前回、イスラエルのイノベーション・エコシステムとその中核にある技術移転機関(TTO)についてご紹介しました。今回はなぜイスラエルでそのようなエコシステムを確立できたのか?背景には何があるのかを見ていきたいと思います。

イノベーション・エコシステムが発達した背景

イスラエルは天然資源に恵まれていません。耕作可能な土地は国土の20%にも満たず、砂漠地帯(イスラエルの国土の60%は砂漠)です。毎年降るわずかな雨量も必要量を満たすには十分ではありません。

それに加え、建国当初よりアラブ諸国に囲まれており、陸の孤島と化していました。そのために自立した経済発展を余儀なくされ、積極的な人材教育・産業支援を行っていく必要があったという背景があります。

死海近くの砂漠

 

ワイツマン科学研究所(ヴァイツマン科学研究所)の創立者でもあり、初代大統領でもあるハイム・ヴァイツマンに代表されるように科学技術をイスラエル国家の重要要素とし、科学研究機関やリサーチセンターの設立が国家的・経済的優先事項として位置づけられてきました。

 

さらに、アカデミックな場で生まれた技術を民間に転換する仕組み(技術移転機関・TTO)が大学内に設置されており、教授を務めながら起業するということも可能であり、盛んに行われています。

 

以下、イスラエルのイノベーション・エコシステムの背景にある特徴を具体的に見ていきましょう。

 

徴兵制

イスラエルでは高校卒業後にあたる18歳から兵役の義務があります。男性は2年8カ月、女性は2年兵役があり、教育機関を兼ねているともいわれています。サイバー防衛を担う8200部隊などからは、サイバーセキュリティなどの技術を備える人材を育成・輩出しています。

兵役では任務を完遂するために自分で考え、即興で行動することを教えられます。予期せぬ変化にどう対応するかは、純粋に命令を遂行することよりも重要だと考えられているようです。

 

これらの経験から問題解決の実践と、それによって培われる粘り強い姿勢は、エコシステムに参入する起業家やスタートアップ企業にとって強力なツールとなっています。

 

多国籍企業の役割(海外からの投資)

2022年にイスラエルのスタートアップが調達した資金のうち74%が外国の投資家によるものです(・図)。このことから資金面からみると多国籍企業はエコシステムの不可欠な構成要素となっていることがわかります。さらに多国籍企業の多くはイスラエルに研究開発拠点を置いて研究者や技術者を雇用して研究開発活動を行っています(インテルは40年前にイスラエルに研究開発施設を設立しました)。 

 

政府の支援

イスラエル政府も、下記に挙げるような支援を積極的に行っています。

1) イスラエル・イノベーション庁(旧経済省主任科学者室)は産学間の共通プロジェクトを重視した一連の取り組みに融資することで、学術界での活動を支援しています。前回の記事にも詳細を書いています。

2) 1993年に政府が打ち出したヨズマ・プログラム(ヘブライ語で「イニシアチブ」の意): イスラエルに進出している外国VC(ベンチャー・キャピタル)に税制優遇措置を提供し、政府からの資金で投資を倍増させると約束。民間セクターの研究開発を推進する道を開いたと同時にVC産業を開始しました。

今日、イスラエルには約70の活発なベンチャー・キャピタル・ファンドがあり、そのうち14はイスラエルに事務所を構える国際的なVCです。

3) ハイブリッドプログラム:イスラエル・イノベーション庁は、シードステージおよびアーリーステージのスタートアップ企業を支援する新たな資金提供プログラムを開始しました。このプロジェクトに8000万NIS(2500万ドル)を計上しました。

このプログラムでは、国内のスタートアップ企業や、ハイテク産業において代表的でないコミュニティ(アラブ系イスラエル人、超正統派、女性)の創業者を持つ企業に対して、最高110万ドルまでの投資ラウンドの40%相当、および投資ラウンド全体の50%相当の助成金を参加企業に提供しています。

 

技術移転機関(TTO)

技術移転機関(TTO)については以前の記事で紹介しましたので、詳細はこちらをご覧ください。

 

イスラエルマインド

そのほか、イスラエルという国の国民性や考え方、文化背景などにも理由があると考えられます。

 失敗を恐れない+失敗に対する健全な態度

イスラエルでは失敗を悪いこととして捉えていないという発想が根付いているため、新しい会社を設立したり、新しい技術を開発したりすることに抵抗がないといわれています。

イスラエルでは毎年およそ1,000の新興企業が誕生しますが、その多くは成功しません。しかしイスラエルでは、失敗は人ではなく出来事であり、起業家たちは、古い会社が行き詰まったときに別の会社を立ち上げたり、新しいアイデアで走り出したりする柔軟性があります。

 

権威への挑戦

イスラエル人は組織内のヒエラルキーにこだわることはなく、意思決定プロセスで部下が上司と議論を交わすのは当たり前になっています。優れたアイデアは誰からでも生まれるという理解が多少なりともあり、この哲学が育まれることで、イノベーションが生まれる創造的な職場環境が形成されているといわれています。

 

まとめ

イスラエルは国土が狭いため、ローカル市場が小規模です。グローバル市場を念頭に置いて最初からソリューションを創造する必要性に迫られています。

そのためスタートアップ企業は基本的には国際的に活躍できるように作られており、グローバルな考え方をすることが習慣づけられています。イスラエル人のオープンな共同作業とアイデア交換、そして創意工夫にあふれたメンタリティが、イスラエルの盛んなスタートアップ・エコシステムを支えているといえるでしょう。

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参考資料

中東協力センターニュース 「『スタートアップネーション』イスラエル,日本産業にとっての新たな可能性」 栗田 宗樹2021/9

Techcrunch “Israel’s startup ecosystem powers ahead, amid a year of change” Mike Butcher 2021/1/21


Entrepreneur “10 Things That Make Israel a Compelling Start Up Hub” 2019/12/26  Dr. A. Balachandran

Bizcommunity “The secrets behind Israel's rise as a 'Startup Nation' ” 2018/8/8  Lauren Hartzenberg

脚注

※IVC-LeumiTech Israeli Tech Review 2022  (本文に戻る)

 

監修企業:NGLI HOLDINGS.LTD(ロゴクリックでホームページへ)

イノベーションが集中する国イスラエルにおいて全技術シーズと事業シーズを網羅する革新的な技術の探索(テック スカウティング)活動を行っており、PoC(概念検証)や実証実験、共同開発、技術デューデリジェンスなど、戦略的協業特有の手段を用いて、クライアントの意向を尊重しながら協業プロセスを成功へと導く独自のプロジェクトマネジメントメソッドを確立しています。

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著者紹介:シュロミット・ハペル・ラム博士

イスラエルのバル・イラン大学で物理化学の理学士号、光電気化学と材料科学の博士号、MBAを取得。ニューヨーク市立大学で博士研究員としてバイオセンサーとフォトニックバンドギャップデバイスを研究し、分光学的手法で癌の突然変異を明らかにする。現在はイスラエルの医療機器メーカーで研究開発担当副社長。
イスラエルのスタートアップにおける15年以上にわたる研究開発マネジメントの経験からイスラエルのハイテクエコシステムなどに関わる記事を日本へ紹介しようと執筆を始める。