創薬AIが進歩すると、実験ロボットシステムは不要になるのか?どちらの導入支援も行っている立場から解説!

2023.10.17

こんにちは。MIRA山本です。ロボットシステムやAIを活用したラボオートメーションについて、色々なご相談をいただき、それぞれの良さ、価値をもとに導入を支援しています。

 

私の仕事では「実際の作業とのにらめっこ」を行うべく現場に入らせていただき、どのような動きをしているのか、機器を使いこなしているのか、手先の細やかな所作を見て、作業内容を書き出してみたり写真を撮って動作フローに落とし込んでみますと、実験作業では色々なことを行い、判断して実験を行っていることが本当によくわかります。

 

今回のテーマは、AIが進むとロボットは不要になるのか?という質問に対して、普段ロボットシステム・AIシステムどちらも導入支援を行っている私の見解、将来的な予測について記載しております。

私の結論は「直近では不要になることはなくむしろロボットのニーズは増加する。遠い将来を考えても、それぞれのニーズに合わせて残り続ける」というものなのですが、その理由を記載していきます。

 

なお、あくまで個人の見解でありどれが正解というものは無いことについてご承知おきの上、お読みいただけますと幸いです。

 

急に増えた、共通の質問

さて、最近ユーザーさんやシステム会社さん、コンサルティング会社さん、リサーチ会社から偶然ほぼ同じくらいのタイミングで「創薬AI、データベース系AIが進んでいくと、ロボットシステムの必要性は下がってくるのではないかと思うのだけどどうお考えでしょうか?」という質問を頂きました。

 

創薬AIについては既に色々なところで書かれていますので詳細は触れませんが、AIによるマッチング能力をもとに研究者にかわって創薬ターゲットの選定をしてくれるというものになります。

 

言い換えれば、実際の実験作業の代替であるロボット作業から更に進み、シミュレーションを中心とした「実験の必要が無い世界」になった際には当然ロボットを用いた実験が減る、であればロボットシステムの需要が減るのではないか?という質問です。

 

これはごもっともな疑問で、今から導入を検討している方にとっては「もうすぐ要らなくなる技術」には無駄なお金を払いたくないですよね。

 

理論的には、実験数は減るかもしれないけれど・・・

大きな、広い意味合いで「AIが発展すればロボットの実験が減る」は合っていると思います。これまで標的同定をするまでにかかっていた時間、同定してきた数を減らすことが出来ますので、総数総量が減るからです。

しかし私は、現実解としてはこれだけで実験数が減るのかといえばちょっと早合点である、という見方をしています。

 

どんなにシミュレーションが進んだとしても、実際に創薬ターゲットを定めてからは、合成実験やプロセス、分析評価などあらゆるところでウェット(ハードを伴う実作業的なもの)な作業が発生します。

その作業はドライ(探索などソフト的)な作業を乗り越えてきてから行うものですので、そのドライの手間がシミュレーションによって抑えられても、必ずウェットな部分は出てきます。

 

そして、実験を伴う創薬においては、いわゆる工場生産的に高速で行えるものというのは少なく、1回の作業で数時間、数日とかかるものもあります。

 

そうなるとむしろ「実際に手を動かした作業」をフォローしてくれるか、実験作業を自動化するという需要は残る、もしくはせっかくドライでよいフォーカスをしているのだから、より早く実作業をして研究を進めたくなりますので、需要は高まる形になります。

 

選定されたものを1つずつこなすのでなく、複数の装置を使って進めていければより早く結果が得られることになります。

 

人工知能とロボットによる、創薬の未来

AIからAGI(人工汎用知能)やASI(人工超知能)といったものが革新的に進んでいく時期になっていればまた変わって可能性はありますが、パラメータもノイズもあまりにも多い実環境においては、シミュレーション「だけ」で創薬が完結することはこの数年内では難しいものと考えます。

 

ということで、考えられるサイクルは以下のようになると考えています。
創薬AIの導入が進む
→研究者にとってより関心の強い選定がなされる
→より早く、シミュレーション結果に対して実験を、出来れば複数ラインで進めたくなる
→研究者が行っている作業で時間のかかる、手間のかかる、ルーティン作業については自動化をさせたくなる
→ロボットシステムの導入が進む

AI化と「作業自動化」は相反せず、むしろ補完し合う関係と考えます

 

この逆もしかりで、まずロボットシステムを導入したユーザーでも、ロボットにより色々な実験作業ができる環境になってきたし時間の創出が出来た、そんな中でより選定精度もあげていきたいから創薬AIの検討が進むという流れは十分考えられるものです。なので、これらは相反するものではなく両輪として捉えていくくらいのほうがよいのではないかと考えます。

まとめ

ソフトが脳とするならハードが身体、ロボットアームは文字通り腕であり手であり、ビジョンは目…ということで、ラボオートメーションはハードもソフトも総合的に考えて進めていくことが大切ではないかと考えます。

 

ですので、いわゆるAIもロボットも、ビジョンやセンサーも、データもIoTや高速通信(神経みたいなものでしょうか)も幅広くどのようなものがあるのか見て、良いものは取り入れていくアンテナも重要です。

 

そして全体を一大改造するよりも、むしろ効果が多少見えにくいかもしれませんが、小さな箇所からコツコツと導入を進めていくことが大切なのでは…と考えています。私としましても、そんな細やかな気づきのところからお手伝いが出来たら嬉しいです。

【MIRA山本 これまでの記事】

【著者紹介】山本 圭介

株式会社MIRA 代表取締役。ロボットメーカー、AIベンチャーにおける営業・事業企画・新規事業開発を経て、よりユーザーサイドにおけるオーダーメイド型の導入支援が行えればと考え株式会社MIRAを設立。
現在、医薬品メーカー等をはじめとした研究者の実験作業や分析、品質管理などで行われる各工程における産業用ロボット、協働ロボットやAIを組み込んだシステムの活用可能性の検討から構想支援、導入支援等のコンサルティングを行っています。一方で他メーカーのロボット関連製品やAIサービスの企画支援や営業支援、また、ユーザーに向けたロボットやAIに関する勉強会の開催やセミナー登壇を行っています。

このライターの記事一覧

 

近年研究や実験作業におけるシーンでもロボット等を用いた「自動化」の流れが強くなってきていると感じています。
このシリーズでは、工場だけでなく研究所等の様々な作業のロボット導入・DX導入に携わってきた私、MIRAの山本が、ラボの自動化・ラボラトリーオートメーションをテーマに、ロボットやAIの活用について楽しく解説していきます。