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師と学生の間には世代による深いミゾがあるものです。
ヨーダ似の教授:「フォースをつかえ」
ルーク似の学生:「それってどこにしまってあるんですか?取説はネットで落とせますか?」
ヨーダ似の教授:「・・・・・・」
すたーうぉーずってしらない、という方にはまず冒頭の会話からして理解し難いものであり、拙文を読むのをやめた方がでたかもしれません。寒いギャクで暑い夏をすこしでも涼しくしたかっただけです。どうかご容赦ください。
さて今回は、よくある5つの誤解をとりあげ、カオスのラボ形成にどうつながっていくかを解説していきます。ラボのダークサイドに踏み込んだちょっと暗めのお話です。
CONTENTS
「彼、独特だからなあー」と指導している大学院生のことを愚痴る(負けず劣らずユニークな) A先生。
「独特」の意味は、「素直だけど全部指示しないとやらない」ということらしい。つまり、実験サンプルの整理も指示しないとやらないから、冷凍庫がいっぱいになってしまう、と言います。
学生の側からすると、先生から「半年前のサンプルで別項目を測定せよ」と言われる可能性があるので、「もう捨てていい」とはっきり言われるまでこのままにしておこう、と思っています。捨て判断するのは先生だ、という認識です。
「喪失への恐れはダークサイドに通じるのじゃ」
と意味不明で哲学的なことをヨーダ似の先生からいわれても「それじゃこのサンプル捨てよう」とは(決して)思いません。「なぜ勝手に捨てた」と怒られたり「実験やり直せ」と言われたりするのは自分です。つまり、言わないと片づけないのは怠惰だからではありません。
早く論文書け〜書け〜と口癖のようにいうB先生。実験サンプルが溜まってしまうのは、学生が論文を書かないからだ、という主張です。
先生にとっては自分自身が能力・努力レベルの標準値。学生に対して、いわなくてもわかっているはず・自分で勉強しろ・わからないことは誰かに聞きに行け・これくらいのスキルはうちのラボでは常識、等々、自主的に論文を書いて見せにくるのは当たり前だと思っています(いいすぎですか?)。
しかしモノが溜まっているのを学生のせいにしているのは、学生にとっては理不尽な仕打ちです。卒業した学生の分まで溜まっているということは、恒常的に成果のアウトプットが滞っており、今に始まったことではない。さらに、管理責任者である先生がラボの環境管理の監督を怠っているのに、学生に責任を押し付けてしまっています。
先生自身のデスクや実験台の有様が、「話を聞いてくれる余裕なんてなさそう」という雰囲気を醸し出しているかもしれません。
自主性尊重といえば聞こえはいいが、ただ個人の資質に依存しているだけで方針やルールが示されていないし守られてもいません。それでもラボが整然と保たれているとしたら、面倒見のいい人がいるからぎりぎりセーフなだけです。通常、そうした人がいなくなれば、カオスに陥ります。そうなってはじめて、「〇〇君は偉大だった」と認識します。
自由放任ラボにいる賢い学生は
「大学院に進学したら、先輩たちの残したモノを自分が片付けなければいけなくなる」
と近未来を予想することができます。
オビ=ワン似の先生が
「お前は選ばれし者だ」
と期待をしても、
学生は火中の栗拾いや勇者となって片づけの泥沼にはまることには全然興味がない。
「博士課程に行かないで公務員になります」
「他大学の院にいきます」
「企業に就職します」
と、穏便かつ合法的に去る道を選びます。
(過去記事参照:カオスの研究現場は整理できるのか)
整理整頓は試薬の棚卸しや実験機器のメンテナンスとともに、快適な実験環境を維持するのに必要な仕事です。これをやらないでいると、使用者不明品や不要品がラボの貴重なスペースをむしばんでいってしまうからです。
しかしリーダーやボスが『整理整頓は雑用だ』と思っていると、
「暇な時にこれやっといて」
という頼み方をしがちです。
この仕事を誰がやるのか? 先生(自分)は忙しい。「雑用」をやっているヒマなどない。研究補助スタッフがいない、または実験の仕事を目一杯頼んでいるので余裕はない。そこで、タダ(無料)で使える学生に目をつけて声をかけます。
仕事を命じられる学生の側には「教授が雑用を押し付けてくるから実験(研究)がすすまない」「余計な仕事を増やされた」と不満が内積します。その原因は
「暇な時に」といわれたら、その仕事をやれた=ヒマな時間があった、ということの証明になってしまいます。そう思われるくらいなら、
「実験が超いそがしくてやれてません」
と言い訳するほうがまだマシです。
このようにして、整理整頓の優先順位はどんどん下がっていきます。
プラスチックチューブに入った試薬やサンプルに名前や日付、内容物の記載がないことが、整理ができない大きな原因となっています(これ、何度も書いてきました)。
なぜ名前を書かないのか?
一年後、その中身を覚えていられる自信があるのか?それはそれですごい。
ラボにいる月日は瞬く間に過ぎ去ります。置き忘れたモノがドラフトや低温室の片隅に眠ったまま十数年後に発見されるかもしれない。そのとき、それを手に取った人の反応を想像すると面白い。「2023年8月ですって!わたし、生まれてなかったわ。」
カオスにつながる誤解の数々、みなさんのラボでは大丈夫でしょうか。
はじめから快適なラボにいる方々にとってはそれが当たり前の環境でしょう。人は、比較対象がないと自分のラボがどんなに幸せな場所なのかわからないものです。カオスなラボの沼にうっかり足を踏み入れてはじめて「前のラボはいいラボだったんだな」と気づくのです。
いいラボには秘密があります。ラボ整理収納の知識や事例はCNS (Cell, Nature, Science)に発表されるわけでもないし学会で発表されるわけでもない。
というわけで次回から、使いやすいラボの秘密を紹介していきます。
今日の整理収納Tips
つづく。