ラボラトリーロボットに取り込むマスター・スレーブ技術

2023.06.12

産業用ロボットや協働ロボットを用いたロボット自動化において、基本的にはロボットは動かしたい通りに教えて(ティーチングして)あげて、そのとおりに繰り返し、または条件分岐のもと自動で動かすことが出来るようにして、システムとして導入しています。

ロボット側の観点では、これを自動動作モードで動かしているという形になります。
反対に、人間が「ここだよ、ここに持っていきたいんだよ」と実際に教えてあげているときの動きは手動動作(教示動作)モードで動かしているという形になります。

自動で原点に戻る仕組み

ラボラトリーでは、研究者さんが自ら装置を組み立てて、立ちあげてということはほぼしないですから、手動動作でロボットを触る機会というのは工場の生産技術の方と比べてかなり少ないということになります。

何かでエラーがあってとまった際にも再度動作させる前にときどきロボットアームが周辺の機器と近いところでとまってしまうことがありますが、その際も安全な場所に逃がしてから作業の原点に戻すということをする際に、ティーチングペンダントを用いて手動動作で戻すということは少なく、原点復帰ボタンのようなものが用意されているのでそのボタンを押して、ロボットは自動的に安全な位置に戻ってきている形になります。もちろんこれはシステムを作ってくれるインテグレーターさんがどの位置にあっても安全な位置、原点の位置に戻してくれるようにプログラムを作ってくれているから出来るわけです。

実際に稼働をさせるところではなく、エラーからの復旧ということで作業そのものが何かを生み出しているわけではないシーンなのですが、結構この復旧プログラムを作るのには手間がかかっています。そういったインテグレーターさんの細やかなお仕事によって安全にシステムが使えているわけです。本当に有難いことだと思います。

ロボットをもっと簡単に手動で動かしたい

一方で、研究者の方でもロボットの入った分析装置や添加・滴下装置、合成装置などでロボットを手動で動かしたいなと思うときは結構あります。何かを落下させてしまったものを拾い上げたい、徐々にたまったもの・付着したものを取り除きたいなどのシーンが考えられます。もちろん直接人で装置にアクセスして拾い上げる、拭きとり掃除をするなどで対応できるものも多いですし、アクセスしやすいように装置を作るというのも重要です。しかし、ときにむやみにはその空間を開けたくない(外の空間としっかりと別の雰囲気にしておきたい)、人に入らせたくないハザード環境などであればそうもいきません。そんなときに出来ればロボットを手動で動かすことで対応出来たら便利だなとなります。

しかし、ロボットの手動動作で行きたいところへロボットアームを移動させるのは結構慣れるまで難しい作業だったりします。まず、思ったところにアームは進んでくれません。どのボタンを押すと、どの軸がどのように動くのかなど把握すること、また座標空間でどの方向に進んでくれるのかなどはかなりの慣れが必要です。さらに本当に細かい追い込み、精度を出す教示を行います際にはうっかりまわりにぶつけてしまうことだってありますし、狭い空間の中で動かすにはかなりの熟練したティーチングスキルが求められます。

マスター・スレーブ技術(機能)

それを解決する方法として、最近は小型の卓上ロボットを実際人間の手で触って動かすことで、同じように装置の中にあるロボットを動かすことが出来る技術が出てきています。メーカーによって言い方が異なりますが、これをマスター・スレーブ技術(機能)と言います。

人が実際に触るほうのロボットをマスターロボット(主)、装置の中に入っていて、マスターが動くことによって同じように動くほうのロボットをスレーブロボット(従)と呼びます。
これまでティーチングペンダントでどのボタンを押すと肩の関節が動くのかな、肘の関節が動くのかなといった各軸動作や、X方向に+はこのボタンで…といった座標動作を気にすることなく動かすことが出来るわけです。もともとロボットのティーチングでもあまり精度を求めない溶接や塗装といったところではダイレクトにロボットを動かすダイレクトティーチングというものがありましたが、このマスター・スレーブではダイレクトにマスターを動かすことによってスレーブ側の操作が出来ることがポイントとなります。

これが出来ることで、実際の装置の中に入っているロボットに触れることなく直感的に遠隔操作が可能となります。チップや瓶、蓋が落下してしまった、だけどそれを拾うためだけに封じ込めた環境をあけたくない…、そんなときに有効です。ちょっとゴージャスな立体的なUFOキャッチャーみたいなものでしょうか。また徐々に粉体によって汚れがたまってしまっているところに対して、ロボットにエアーを持たせて噴射するなどの活用も可能です。

ぜひそういった便利な技術を知って、積極的に取り入れることでよりラボラトリーにとってもロボットの導入が進んでいけばなと思います。

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【著者紹介】山本 圭介

株式会社MIRA 代表取締役。ロボットメーカー、AIベンチャーにおける営業・事業企画・新規事業開発を経て、よりユーザーサイドにおけるオーダーメイド型の導入支援が行えればと考え株式会社MIRAを設立。
現在、医薬品メーカー等をはじめとした研究者の実験作業や分析、品質管理などで行われる各工程における産業用ロボット、協働ロボットやAIを組み込んだシステムの活用可能性の検討から構想支援、導入支援等のコンサルティングを行っています。一方で他メーカーのロボット関連製品やAIサービスの企画支援や営業支援、また、ユーザーに向けたロボットやAIに関する勉強会の開催やセミナー登壇を行っています。

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近年研究や実験作業におけるシーンでもロボット等を用いた「自動化」の流れが強くなってきていると感じています。
このシリーズでは、工場だけでなく研究所等の様々な作業のロボット導入・DX導入に携わってきた私、MIRAの山本が、ラボの自動化・ラボラトリーオートメーションをテーマに、ロボットやAIの活用について楽しく解説していきます。