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タイトルにもありますが、あなたは今、その手で何をしていますか?
この記事をPCで読まれている方であれば、
でしょうか?
あるいはスマートフォンで読まれている方であれば、
でしょうか?
いずれにせよ、多くの方は当たり前のように手先・指先を実に器用に使っていますね。
CONTENTS
ラボラトリーの自動化を考えたときに、何を作りたい、途中こんなものが出来て、次にこういったことがあって…というような、工程の全容、生成物が何かを理解しなければ、システムは作れません。
あわせて「そのとき人はどんなことを行っていますか?」を考えていくわけですが、ここでもう少しくわしく、「その人のその手は・その指先は、何をやっていますか?」といったところまで見ていくことで、自動化されたラボで動くロボットにどんなことをさせるべきなのかが見えてきます。
さらに、「その時、指は何を捉えているのだろう? 何を感じているのだろう?」といった、より触覚・感覚的な目線を持って考えることで、自動化のイメージがどんどん具体的になっていきます。
ラボにいる方は想像できると思いますが、実験作業の中には手先を使った作業がたくさんあります。ここでちょっとした取り出し動作を想像してみてましょう。試薬の入った瓶やバイアル瓶の取扱いを、手の動き・所作の観点で考えてみます。
ケース1.「試薬瓶を用意する」
1.持ってくる…べく所定の場所へ移動する
2.試薬瓶の入った保管ケースをあける
3.引き戸をひく(どこを持って?)
4.試薬瓶を取り出す
5.保管ケースをしめる
6.試薬瓶の胴部分を摘んで1つ取り上げる
7.取り上げた試薬瓶を把持しつつ、蓋部分を右手親と他の指でつかむ
8.つまんだ指先、手首で剥がすように取るかくるくるくると半時計回りに3回まわす
9.蓋をまわしきったあと持ち上げて取り外す
10.取り外した蓋を清潔なところへ置く
11.試薬瓶使える準備完了
ケース2.「バイアル瓶を用意する」
1.持ってくる…べく所定の場所へ移動する
2.バイアル瓶が入った袋をもちあげる
3.やぶれないように包むように取り出して卓上に置く
4.たいらなところに置いて袋をあける(左手で持って右手であけるかもだけど)
5.瓶の胴部分を摘んで1つ取り上げる(バラバラに入っているなかから1個だけ)
6.取り上げたバイアル瓶を把持しつつ、キャップ部分を右手親と人差し指でつまむ
7.親指で剥がすように取りはずす
8.取り外したキャップをつまむ
9.キャップを清潔なところへ置く
10.バイアル瓶本体をプレート等平らなところに置く
11.バイアル瓶使える準備完了
(このあとピペット作業、ふたしめ、鉸めなどに続くのだった…)
いかがでしょうか? 実は瓶を用意するだけの単純な作業でも、これだけの工程があります。そしてその手先は、ときに戸棚を、ときに取っ手を、ときに袋を、ときにバイアル瓶本体を、ときに蓋を…と色々な形状のものを摘んだり、掴んだり、引っ張ったり、回したりしていたわけです。それもちゃんとした幅で、隙間も縫って、落とさずに、滑らずに、途中ちょっと滑っても致命的なトラブルにならないように臨機応変に対応しながら…です。
あまりにも当たり前のことかもしれませんが、これって実は結構エレガントなことだなって思います。一つの種類の手で柔軟な動きを作って、色々な対象物に対応して、さらに敏感に反応して状況に応じた動作を行っています。
では、このエレガントな動作をロボットの手――ロボットハンド――で行うことはできるのでしょうか?
先ほどの動作をロボットハンドで行うことを考えます。
結論からいいます。現時点では、1つのロボットハンドで工程別の動作や、つまむもの・触れるものの種別に応じた臨機応変な動作をさせることは難しい。というのが正直な回答になります。
基本的にロボットハンドができることというのは、掴む・挟み込む・掬う・吸うというものになります。一つの手で何でも取るということは出来ません。ある程度近しいものを把持するとかは出来ますが、基本的にはまるで形状の違うものを取るには不都合なわけです。
ロボットの手先は基本的にのっぺらぼうな状態なので、どんなことを行わせるか、掴むかによってハンドは専用に作ったり、行いたいことにあったハンドを購入して取り付けて使います。
もしも対象物が多く出てきたり、行わせることが多岐に渡る際には
①手先となるハンドを取り換えるための部品を途中の箇所に取り付けて対応させる。
(この部品のことをAHC:オートハンドチェンジャーといいます)
②サイコロの面のように前か横かによって形状の違う手を一つのハンドで構成させる、マルチグリッパーという十徳ナイフのような複数の機能・構造を持たせたハンドを作る
といった方法が考えられます。しかしそれだけでも行いたいことに対してハンドが追い付かないことは十分考えられます(むしろそのほうが多いと思います)。
人の手とまったく同じ動きをロボットハンドにさせようとした場合、とても難しいということがわかりました。では、やはり自動化はできないのでしょうか?
こんな時は発想を変えてみます。たとえば、左手をケガしてしまい、両手が使いにくいときに、瓶の蓋をあけるとしたら…足で挟んで固定させた上で、右手で蓋をあけるという、普段とは別の手段を考えるはずです。ということは、瓶本体を固定させるホルダーを用意してあげれば、ロボットハンドは蓋をつまんで回転させることで、蓋をあけることができるのではないでしょうか? そうすると、瓶とホルダーの形状は、円形状のものより角状のもののほうが都合がよい、という風に、これまで使ってきたものを変えれば解決できるかもしれないという、新たな発想が生まれます。
工程の手順はこうじゃないといけない、この機器じゃないといけない、この形の消耗品でないといけない……それは本当でしょうか? もし、この部分の変化を受け入れることができる場合、先ほどの①、②に加え、下記のような手段がとれる可能性が出てきます。
③つかむ、把持する箇所がなるべく似た機器・器具を使用する
④つかむ、把持する箇所を改造、改良して形状を共通化させる、取り扱いしやすい形状に変えてしまう
もちろん、いきなり代替手段を考え付いたり、それを受け入れることは難しいと思います。しかし、なんらかの所作を自動化しようと考えてみると、実はこういった「置き換えられるもの」が含まれているかもしれない、ということはイメージしておくとよいかと思います。
一つ一つの作業を要素分解していくなかで、手先の動きという目線で見ると本当に人間の手先って器用だな、しなやかだなと思います。美しいな、愛らしいなと感じる方もいるかもしれません笑
自動化を考えて考えて、結局「人間がサポートする」のが最適だという結論に至ることもあるでしょう。それくらい、人間の手先というのは無限の可能性に満ちているのです。
あなたは今、その偉大なる手で何をしていますか?
近年研究や実験作業におけるシーンでもロボット等を用いた「自動化」の流れが強くなってきていると感じています。
このシリーズでは、工場だけでなく研究所等の様々な作業のロボット導入・DX導入に携わってきた私、MIRAの山本が、ラボの自動化・ラボラトリーオートメーションをテーマに、ロボットやAIの活用について楽しく解説していきます。