研究オフィス・9つの気になるモノと、その整理

2023.03.27

オフィス整理を始めるときどこから手をつけたらいいでしょう?
今回は研究オフィスでよく見かけるモノをピックアップしてみました。

 

要不要はどうやって決めるのか?

モノの要不要を決める一般的な判断基準を五・七・五であらわすなら、

 

「もういらん」 ボスが言ったら それはゴミ

「とっておく」 ボスが言ったら とっておく

 

ということになります。しかし「ボスはカオスがお好き」と勝手に想像し、何も聞かずにストレスに耐えていませんか。具体的に、まず何がストレスのもとなのか、気づくことからはじめましょう。

 

ありすぎる棚

状況解説

 

片づかないで困っている家や職場の多くが、収納ボックスや収納家具を増やし、詰め込むことで無理やり「片づいて見える」ようにしているものです。

とっくにこの方策が破綻して棚に収まりきらず、実験や論文執筆で疲れた時に休憩するはずのソファーや、床の上にモノがあふれていることもあります。棚やキャビネットをへらすことなど思いもよらない状態です。

 

 

解決策例:

 

収納に入っているものをまずチェック。棚のなかに整然と並んでいるモノは、長年手付かずで、まとめて処分できることがあります(例:もうない機器の取説、ソフトウェアの箱、学会抄録)。

「研究室の棚が傾いて僕だけ閉じ込められたけど、誰も(助けに)こなかった(東日本大震災の話)」

と、避難訓練で訓示していた某教授。やはり地震のことを考えたら、研究室には不要なモノや不要なモノが入っている棚は置かないにこしたことはありません。

 

セピア色のポスター

状況解説

 

  • 数年前に終わった学会のポスター。学会を主催したときの思い出。
  • 廊下に学会で発表したポスター。何年も同じ。
  • エレベーター内に「階ボタンはペン先で押そう」のめくれた紙片。
  • 緊急連絡網の紙がセピア色に変色。シミ・シワができている。
  • “○○へ連絡してください”と書いてある注意書き。その担当者はいなくなっている。
  • オフィスのドアにマイクロピペットの使い方ポスター。見て欲しい人は見てくれてない。

 

 

解決策例

 

オフィスの見た目をスッキリさせるには、壁やドアにはってある紙を減らすこと。これが最も短時間ですみ、変化が実感できます。「なんとなく」あるポスターを剥がし、古い情報や変色した紙をはり替えてみましょう。ついでに余っているマグネットの数を絞ります。

殺風景なスチールドアや壁を隠すのが目的なら、カレンダーのように毎年取り替えられるものに。

 

 

悩みをふやす置物類

状況解説

 

  • 景品でもらったクマやゾウのぬいぐるみ。置いた本人はいなくなっている。
  • スポーツデーの優勝トロフィーや額に入った受賞記念の賞状。
  • パタリロなどのコミックス。パタリロ中毒者は文献を読まなくなる。

 

これらがあることで誰かの仕事が進むわけではなく、むしろ「先輩が置いていったモノだから捨てちゃいけないのでは・・・」と悩みを増やす。置いていく人はそうした悩みが生じることに気づいていない、または「適当に捨ててくれ」と思っている。

 

 

解決策例

 

「〇日まで引き取り手募集」と書いて展示。だれか貰い手がいるなら自宅に持ち帰ってもらう。期日をすぎたら残ったぬいぐるみは封筒に入れるか紙につつんで、さようなら。

「記念品を取っておくなら飾る場所をつくりましょう」とボスに提案する。わざわざそこまでするくらいなら置いとかなくていいや、ということになる(かもしれない)。

 

リプリントはだれのもの

状況解説

 

IF(インパクト・ファクター)の高いジャーナルに載った嬉しさで大量に注文してしまったが、配る先はもうない。余ったリプリント(別刷)の段ボール箱が通路や棚をふさいでいる。

公費で買ったので捨て難い。

 

 

解決策例

 

  • 筆頭著者や共著者の自宅に引き取ってもらう。
  • オフィスには1論文につき1部(から10部)だけ残す、と決める。
  • PIが決断するなら即処分。あるいはPIがいなくなるとき全部処分。

 

 

いろんな意味で重い書籍

状況解説

 

  • 過去の教授が執筆した専門書
  • ハウツー本や自己啓発本(時短術とかプレゼンスキルアップ・XXハックなど)
  • 患者さんや留学生など、お世話した人からのプレゼント本
  • 数年以上前の治療や処方薬ガイドライン本

 

 

解決策例

 

残したい本をPIに選んでもらう。あとは処分していい、ということになったらラボメンバーにアナウンス。一定期間展示し引き取り手を募る。

残った本は紙資源としてリサイクル、またはブックポストへ寄附。

ヒモとハサミ、台車を用意し、協力者も募集。腰痛にならないよう注意して作業しましょう。

 

ジャーナルのバックナンバーが危険

状況解説

 

  • ジャーナルが棚にびっしり詰まっている。
  • お金をかけて製本したものもある。
  • 入口付近に部屋の中を目隠しするように棚が置かれている。
  • 地震のとき危険だと思ってもボスの持ち物だと言い出しにくい。

 

 

解決策例

 

捨てないのであれば地震がきた時に人がいる可能性が低い場所へ移動するよう提案。ボスに直接言いにくいなら、安全管理室や研究管理室に相談し、代わりに言ってもらう。

 

 

幻の実験手技ビデオテープ

状況解説:

 

  • 昔の手術や実験手技のVHSビデオ。いまはだれもその実験をやっていない。
  • ビデオテープがあるからビデオデッキも捨てられない。
  • 患者さん情報を含むスライド写真。活用・処分が難しいゆえに放置されている。

 

 

解決策

 

なし。

情報として活用するなら、検索できる状態にする(当然、時間も費用もかかる)。

廃棄するなら外部に情報が流出しないよう、捨て方に気をつける(こちらも時間・費用がかかる)。

それゆえに、こういったものの要不要や取り扱いを決められるのはお金を持っているPIしかいません。

 

お札つき実験機器カタログ

状況解説

 

比較的処分しやすいように思えるが手をつけにくい。特に、ふせんは “おふだ” の機能があり、勝手に捨てられない。

 

 

解決策例

 

ラボメンバーにカタログ整理を事前アナウンス。一度全部取り出し、棚以外の場所で一定期間展示。必要なカタログを棚に戻してもらうようにする。

置く場所を限定し、そこから溢れそうになったら再度見直し。

 

 

カオスの文房具引き出し

状況解説

 

モノが詰まりすぎて引き出しが開かない。

インクの出ない蛍光ペンやホワイトボードマーカー、インクの乾いたスタンプ台、空回りする数取り機、電池切れタイマー、乾いたノリなど、ほとんど用をなさないものが含まれる。

 

使われないまま劣化したものシリーズ定番として、消しゴム、輪ゴム、セロファンテープ、ガムテープ、ナイロン紐も発見できる。

 

三角定規や分度器、コンパス、〇〇スポーツ大会記念と刻印された文鎮など、使用頻度は数年に一度のものもある。温度計の空ケース、特殊なネジ、アースつきコンセントのようにどう分類していいかわからないモノも混在。

 

 

解決策例

 

使えないモノ、劣化したモノを処分するのはもっともハードルが低い整理です。文房具置き場があったらまずペンの試し書きしてみましょう。

 

 

まとめ

 歴史の長い研究オフィスほど、雑然とした状態が風景化しています。また、片づけようとは言い出しにくいモノもたまるものです。なぜなら、捨てたいと発言すること自体が、先人への反発や敬意の欠如と捉えられかねないモノもあるからです。たとえば王の彫像や校長室に飾ってある歴代校長の写真、鴨居の上にあるご先祖の肖像画のようなものは整理を言い出しにくいでしょう。

 でも、ここまで扱いが難しいモノはめったにないです。革命や反乱を起こすわけではなく、ささやかな職場改善なので、気になるモノがあったら軽くボスや周囲の人に聞いてみましょう。「もういらないと思ってたけど片づけの時間なくて」とあっさり言われることもあります。なお聞き方の注意点は “ラボ整理とコミュニケーション” の記事をぜひ参考になさってください。

 

 

【著者紹介】ショウボ

筑波大学卒業後、製薬会社の研究所に30年以上研究者として勤務。博士(医学)
医学部の大学院研究室を経て現在は国立研究機関で研究業務員。
2017年よりラボ専門整理収納アドバイザーとしても活動中。
ラボ整理研究室を主宰。

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