実験室にロボットを。はじめの一歩は「細分化」だ!

2023.03.14

こんにちは!MIRAの山本です。

私は日々色々な工場や研究所をまわって現場作業を見せていただくことが多いのですが、ここ数年特に研究所や工場でも品質管理を行う、いわゆる生産現場でないところでのロボットやAIの導入検討について話をお伺いすることが増えてきた感覚があります。今回は、そんな「ラボを自動化すること」で必要な最初の第一歩を、工場の自動化とも対比して解説していきたいと思います。

工場の自動化についてはこちらでも解説しています。↓
ファクトリーオートメーション(FA)とは?「自動化」は工場だけでなく研究にも!

工場の「生産作業」と、ラボの「実験作業」の違い

工場でも、つくるものの数だけ自動機の種類もあれば自動化されるテーマもありますし、ものすごく長い工程を経てものが出来ていくわけですが、人が一人あたりでやることについては範囲がそれなりに一定化されていたり、区切られているものが多い傾向にあります。一つずつのステップを経ていくところは電車の車両の連結に似たような感じでしょうか。そしてその車両の中で作業者はなるべく同じ作業を繰り返し行えるように&行いやすいようにすることが求められてきました。

一方で研究者の方の研究・実験作業は、同時に作業させておく、何かの間に何かをさせておくといった作業が多く、料理に似ているように思います。同時並行で腕が何本もあるようなイメージです。

実際に研究作業や分析業務をされている方に作業内容をお伺いしているとよくあるケースが、

「あ、その間にこんなことをやっていまして…」

「あ、そうだこれもやっていました」

というような感じで、自身がしていたことが喋るなかで思い出されるというものです。

まずは時系列で細分化することが第一歩

それだけ同時に色々なことをされているのだと思いますが、一方で工場での作業ほど時系列で行っていることを細分化していない、個人での動きに依存している状態とも言えます。

実際平行していることもあるわけですが、必ず人間としても起動させている処理は基本的に一つずつ(ボタンを同時に押しているとかなら2つかもしれませんが)のはずです。

人間の手は2つ。同時進行のようだが突き詰めれば「時系列化」はできる

 

ロボットは基本的に指示をして指示通りに動くことがよしとされてきましたので(最近はそのあたりもAI含めて多くの条件分岐に対応していますが)そういった観点からも工場でのなるべく作業を一定化させていたところにおいて導入がしやすく、ラボラトリーでの自動化は工場よりも困難なイメージを持たれているのかもしれません。しかし、細分化を行って一つ一つの作業に目を向けると、意外と自動化できる作業は多いのです。

行う作業によって出てくるものが異なってきますが、朝イチに作業する内容の例を列挙してみましょう。
・今日行うこと、使うものの確認・レシピの作成(もちろんそれに至るまでの過程も沢山あります)
・反応装置や分析機器の準備、セットアップ
・器具類取り付け
・使用する試薬の取り出し
・使用する溶媒の取り出し
・秤量機器の準備
・移し替え容器等の準備
・使用する試薬の秤量
・各測定器のキャリブレーション
・温度調整、PH調整
・攪拌
・試薬類の添加
・対象物の希釈
・イニシャルでのサンプリング

実際にはもっともっとあると思いますが、例を挙げるとこのような感じです。

これらについても同時に起こりつつも、起点となるところをちょっとずつでも時系列にしていくことで作業が見えやすくなることが多くあります。作業のスタート箇所から数秒刻みで各起点を記すとか、その作業の1日ということで8時53分、8時54分…、といった感じでもよいと思います。

そうすることで、どこを自動でやらせたいか、やらせられるかがわかってきます。そして、各工程の時間が見えてくることによって、ロボットで行おうとしたときの各個の時間が導き出せるようになります。

「電車の連結」ほど整っていなくても、どんな作業があるのか書き出してみる

どれを自動化するか?できるか?が考えられるようになった

その際、すべてがロボットや自動機で出来るのであればそれは一つの理想かもしれませんが、工場でも完全無人化というものは非常に難易度も高く、コストも跳ね上がってしまいます。ある程度人との工程、作業の共存があることが現実解と言えるでしょう。

でも既に第一歩は踏み出しています。作業時間を要素分解したことで「どこが予め人が介在する作業なのか」「どこがその作業に付随しているのか」「どこの作業であれば人が残っても負荷が減るかたちになるのか」を考えていくことができるようになりました。

場合によっては人の器用さゆえに人のほうが素早く、ロボットでは速さが追い付かないこともあります。その際には人のしんどいところをロボットがカバーする、ロボットが追い付かないところを人がカバーするといった作業の共存とシェアを行うことで、結果としてクリエイティブな時間に置き換えることで自動化としての価値が発揮されるようになります。

その際、作業順番の入れ替えや作業自体の見直し、運用についても色々と考えていきたいところです。こちらはだいぶ応用編になるので、また別の機会で今後触れていきたいと思います。

ここ最近では人と近くで作業が出来るようになった協働ロボット(諸処設置条件はあります)の台頭によって、よりラボラトリーの自動化を行いやすくなる準備が出来てきました。そのうえで、今度はどのようにシェアすればよいのかを考えていくことが求められるようになってきましたので、そのためには改めて自分が行っていることはどんなことなのだろうかと作業の要素分解をして書き起こしてみたり、実際に作業をしていない人とコミュニケーションを取ってみたりして作ってみると面白い気づきも出てくるかもしれませんね。

今後もラボラトリの自動化でポイントになりそうなところ、気づきについてお伝えできればと思いますので是非ご参考いただけますと幸いです。

【MIRA山本 これまでの記事】

【著者紹介】山本 圭介

株式会社MIRA 代表取締役。ロボットメーカー、AIベンチャーにおける営業・事業企画・新規事業開発を経て、よりユーザーサイドにおけるオーダーメイド型の導入支援が行えればと考え株式会社MIRAを設立。
現在、医薬品メーカー等をはじめとした研究者の実験作業や分析、品質管理などで行われる各工程における産業用ロボット、協働ロボットやAIを組み込んだシステムの活用可能性の検討から構想支援、導入支援等のコンサルティングを行っています。一方で他メーカーのロボット関連製品やAIサービスの企画支援や営業支援、また、ユーザーに向けたロボットやAIに関する勉強会の開催やセミナー登壇を行っています。

このライターの記事一覧

 

近年研究や実験作業におけるシーンでもロボット等を用いた「自動化」の流れが強くなってきていると感じています。
このシリーズでは、工場だけでなく研究所等の様々な作業のロボット導入・DX導入に携わってきた私、MIRAの山本が、ラボの自動化・ラボラトリーオートメーションをテーマに、ロボットやAIの活用について楽しく解説していきます。