#36 量子力学材料を用いた革新的な熱電デバイス、半導体デバイス

2023.02.01

今回は東大発ベンチャー企業である。Topologic株式会社のご紹介です。トポロジカル材料という、最先端の量子力学研究から派生した材料を用いた、全く新しい電子デバイスの開発を行っているスタートアップです。革新的な構造で超高速応答が可能な熱センサや熱電発電デバイス、既知の材料では実現できない超高速動作が可能なメモリデバイスなどを取り扱っています。全く新しい材料として、これから注目を集めるであろうトポロジカル材料について、今回はそもそもトポロジカル物質とは何か?というところから解説していきます。

ノーベル物理学賞を受賞!トポロジカル物質とは

トポロジカル物質は2016年にノーベル物理学賞を受賞した、これまでにない電子構造を持つ物質です。過去にあったこのような革新的発見では半導体の挙げられますが、今の世の中が半導体なしでは存在しえないとも言えるような状況を考えると、トポロジカル物質の発見がいかにすごいものか、おわかりいただけるのではないでしょうか。

トポロジカル物質は電子バンドに特異点(ワイル点、ディラック点)を持つその位相幾何学的特徴(トポロジー)から名前を得ています。つまり、これまで人類が知っている絶縁体、導体(金属)、半導体と全く異なる電子的な特徴を持つ全く新しい物質のカテゴリーなのです。

その特異点に起因して非常に強力な仮想磁場(ミクロな磁場)が発生し、物質内の特殊な電子の流れを誘起します。その結果として他の物質にはない様々な電磁気的特性を示すのです。

トポロジカル物質の特徴的な電子バンドの例。電子バンドの特異点であるワイル点、ディラック点を起点に非常に強力な仮想磁場が発生し、特有な電子の振る舞いを誘起する
(引用:JST CREST 新技術説明会「磁性材料を用いた革新的熱電変換技術とその熱電モジュール・熱流センサー応用」平成3138日)

 

トポロジカル物質の機能について

それでは先ほど説明したような特徴が、実際にトポロジカル物質にどんな機能をもたらすのかについてはご説明します。

トポロジカル物質の特異的な電子バンド構造に起因する、主なマクロ効果として「異常ネルンスト効果」と「異常ホール効果」が挙げられます。これらの効果はトポロジカル物質の仮想磁場の影響によって発生する効果であり、トポロジカル物質特有の効果です。この既存の物質には見られない効果が、これまでとは全く異なる構造のデバイスや電子部品の実現につながるのです。

非常に難解な効果なのですが、今回の記事では「異常ネルンスト効果」に焦点を当てて詳しく解説していきましょう。

 

異常ネルンスト効果とは

異常ネルンスト効果は熱電効果の一種で、物質の中の温度勾配に対して電圧が発生する現象です。同様の熱電効果としてはゼーベック効果が一般的に知られています。

ゼーベック効果では温度勾配と同じ方向に電圧ポテンシャルが発生します。つまり下図のように温度が高いところから低いところに向かって電流が発生するということで、これを利用して熱流れを検出するセンサや、電気を流して強制冷却するペルチェ素子などに応用されています。

ゼーベック効果(a)と異常ネルンスト効果(b)。起電力の方向は、ゼーベック効果では温度勾配と平行であるが、異常ネルンスト効果では温度勾配と磁化に垂直である。
(画像引用元:東京大学未来社会協創推進本部HP、量子熱電変換より抜粋)

それに対して異常ネルンスト効果では温度勾配に垂直方向に電圧ポテンシャルが発生します。これまでの熱電材料は温度勾配の方向に電圧差が発生するという制約から、構造が複雑であったり、薄く出来なかったり、コストが高いという課題がありました。異常ネルンスト効果を用いた熱電デバイスでは温度勾配と電圧ポテンシャルの方向が異なるため、自由度が高い熱電デバイスの設計が可能となるのです。

それによりゼーベック効果を用いた熱電変換素子と比べて、非常に簡素な構造の熱電変換素子が実現可能であり、ウェアラブルデバイス等の民生品や、様々な形状の構造物にも使用できる熱電デバイスを開発することも可能です。

ゼーベック効果を用いた熱電変換素子(a)と比べて、異常ネルンスト効果を用いた熱電変換素子(b)は非常に簡素で薄膜構造となっており、形状自由度、高速応答性、低コストでの製造など様々なメリットがある。
(画像引用元:東京大学未来社会協創推進本部HP、量子熱電変換より抜粋)

 

効果の利用①センサー

物質内部の温度勾配によってそれに比例した電圧ポテンシャルが発生するということは、その電圧値を読み取ることによって温度勾配を検知するセンサをつくることもできます。また、十分に薄く均一な物質内部の温度勾配は、物質の高温側から低温側に流れる熱流量に比例するため、熱流量を測る熱流束センサになります。

トポロジカル物質を用いた熱流束センサは、既存の熱流束センサと比べると構造の簡素化と薄膜化により、100倍以上の高速応答性と感度、1000分の1以下の量産製造コストを両立します。また、通常の温度センサと比較しても遜色ないコストで量産できると同時に、測定箇所を流れる熱の大きさや向きを、非常に高速に、リアルタイムで測定することができます。つまり、熱の出入りの蓄積結果(温度)だけでなく、受発熱のダイナミクスそのものを捉えることができます。そのため、これまで見過ごしてきた熱の情報をより高い解像度で捉えることができます。

非常に薄く(100nm~)できることから0.1℃などごく僅かな温度差でも大きな温度勾配(勾配は厚みで割るため)になり、十分検出可能になることに加え、薄いことによってセンサ自体の熱容量が非常に小さいことから、0.1秒での熱の流れの変化などを捉える非常に高速で繊細なセンサを作ることができます。

また、安価に製造できることもあり、この機能をつかって、材料製造工程におけるデバイスや機器の発熱状況、熱異常の可視化や、生産設備のわずかな温度変化検知による故障予測、電気製品への組み込みや車載センサとして、様々な熱異常の検知や、熱快適性のモニタリングなどに活用することができます。

TopoLogic社が試作する熱流束センサ。既に既存のゼーベック効果を使った熱流束性能と同等の感度を達成しながら、厚みは数百分の1、数百倍の高速応答性を示す

 

効果の利用②発電

SDGsなど、エネルギーの活用に対する効率化の波は継続的に押し寄せており、様々な発電方法の効率化などに社会では取り組んでいます。本技術はエネルギーを使ったあとの様々なデバイスの発熱・排熱から電力が回収でき、これが様々なデバイスの熱効率向上に貢献する可能性があります。

熱電発電は、可動部品等がなく、発熱部に接触させるだけで発電できるため非常にコンパクトです。タービンなど熱機関を設置することが難しい製品や、機器表面から熱を回収することもできます。例えば、腕時計などのウェアラブルの電源として人体からの発熱を利用するとか、発行半導体やパワー半導体など小型でありながら発熱量が大きい部品の熱回収、エキゾーストパイプなど高温な流体(低温でも可能)が流れ続ける配管等に巻きつけることによる発電が可能と、世の中で無駄に排出されているあらゆる熱の可視化と回収が可能になります。

世の中のあらゆる活動により排出される熱を捉え、利用できる社会のインフラをトポロジカル物質により構築していきます。

 

トポロジカル材料にご興味をお持ちの方へ

今回は未来の新素材「トポロジカル材料」についてご紹介いたしました。最新の材料であり、まだ前例がないことがほとんどですが、今後実証実験などを通してどんどん実用化に向けて事業を推進していきたいと考えています!

トポロジカル材料に興味がある、という方はお気軽に下記までお問い合わせください。